第七話
冒険者ギルドに登録できず建物から出て行く。前途多難だな、なんて自虐しながら行く当てもなく歩を進める。
「ところで、【無属性】ってなんぞや」
先程の鑑定結果を思い出し、ステータスを確認する。
名前『レンタ』
年齢『25歳』
職業『召喚士Lv.1』
称号『鬼王殺し』
所持属性『無属性Lv.1』
レベル『5』
スキル『腕力強化(大)』『魔力増幅(特大)』『魔力成長』『威圧』
HP『140/140』
MP『300/1700(500+1200)』
攻撃力『590(90+500)』
防御力『90』
あれ、ステータス欄に所持属性が増えてる。もしかして新たに鑑定されるものがあるとステータスに反映されるのか。無属性ってなんなんだろ、というかレベル尺度にしてんのいくつあんだよ、と悪態をつく。
『無属性Lv.1』・・・無属性魔法が使えるようになる。
【使用可能魔法】
・クリアウォール(消費MP10):詠唱者の半径5m以内の指定した場所に透明の壁を生成する
「透明な壁か、またわけわからんものを会得してしまった」
冒険者ギルドの試験に落ちたメンタルを救う一手にはならなかった、と悲しい気持ちになりながら歩いていると、
ドンッ
「わあっ、ごめんなさい!急いでまして!あっ、素材がっ」
こちらに激突したことで彼女の持っていた麻袋から物が飛び出した。袋から出たものは全く見たことのないものばかりだった。
「これってなにかに使うんですか?」
思わず質問すると、笑顔で金髪青眼の女性は答えてくれた。
「これらはみんな魔導薬師ギルドで使うものなんです!もし興味があれば一度いらしてみませんか!?」
彼女の屈託のない笑顔は誰しもに分け隔てなく降り注ぐお日様のような眩しさだった。
◇
「ただいま帰りましたー」
冒険者ギルドよりも少し東に行った先に大きな建物が立っていた。看板には杖と天秤のマークが記されており、そのギルドの性質が忠実に表現されている。そんな場所に足を踏み入れると、いかにも気難しそうな眼鏡をかけた壮年の男性がいた。
「おかえり、おや、君は初めてだね?」
はじめまして、と軽く挨拶をして辺りを見回す。「薬師」と名前がついているだけあっていろいろな薬品やその原材料であろう素材が陳列されていた。
「私が誘ったんです!薬用植物に興味がありそうだったので」
あ、私はティアと申します、と自己紹介もしつつ彼女が壮年の男性に説明をする。
「そうだったか、私はアルムスという。この魔導薬師ギルドの副ギルドマスターだ。失礼だが、その肩にいる狐は君の召喚獣かな?」
眼鏡をキラつかせながらアルムスは言う。さながらフーリィに興味があるようだ。
「ティアさん、アルムスさんよろしくお願いします。この狐はフーリィと言って俺の召喚獣です」
「きゅい」
よくお分かりになりましたね、とフーリィもひょこひょこしている。
「使い魔にしては図鑑でも見たことのない魔物だなと思ってね」
そうなんですか?と話を聞くと召喚士はこの世界にもほとんどいない職業ということが分かった。
職業とは正式名称【精霊付与固有職業】といい、この世界では10歳になる際に精霊の儀というものが行われ、職業が付与されるらしい。その中で召喚士というもの自体がまず第一に精霊の儀で与えられることがかなり少ないこと、第二に仮に召喚士の職業を得られても要求魔力が桁違いのためそもそもの召喚が不可能、という問題点があるようだった。
「フーリィって実はかなりの希少生物なのかもな」
顎の下を撫でてやるとフーリィは戯れて指に噛みついた。
「痛ってええええ」
◇
「そういうことだ、つまり私にとって君たちは実に興味深い」
アルムスはそう言い目を細めた。話によるとアルムスは魔導研究のうちステータス理論を専攻しており、その一環で【精霊付与固有職業】についても学が深いようだ。だがしかし、召喚士の情報は非常に少なくアルムスも詳しくはわからないとのこと。
「レンタ君はもうどこかのギルドには所属しているのかな?もし所属していないのであればウチに来ないか」
とてもありがたい申し出に思わず表情が緩む。でも、自分は【無属性Lv.1】だ。そのことを恐る恐る確認してみる。
「無属性だとっ!?!?ばかな!!!」
ガタンッと椅子から勢いよく立ち上がるアルムス。通説では世界の誰しもが六大属性の内どれかを所持していると言われている。しかし、ほんの僅かだがその理から外れているものも存在したと記載された古い文献に目を通したことがある、とアルムスは言う。
「レベルなんぞ関係ない。うちは戦闘特化ギルドではないからな」
壮年の男は鋭い眼光を向け、不敵に笑った。
どうやらこのギルドがホームになりそうだ。
◇
知的好奇心が爆発しかけたアルムスの追究をティアが宥め、ギルドの登録手続きをしてくれた。魔導薬師ギルドでは所持属性のレベルまでは関係なく門戸は広くなっている。その代わりに副ギルドマスター以上の面接が必要となり、そこで人間性、能力等が考慮されるそう。
「ちなみにレンタさんの魔力はどのくらいですか?」
魔導薬師ギルドでは魔力の方が重要視されるみたいだな、と感じながら恐る恐る答える。
「えっと、最大値だと1700ですかね」
ガタガタガタッ!
またも大きな音を立てながらアルムスとティアが立ち上がる。
「なっななな、なんですかその値!?」
ティアが大きな瞳をさらに開けながら驚く。アルムスは口も目も全てが全開だ。もうこれだけで自分の値が常識外ということが分かる。
ちなみに一般的な魔力はどのくらいなんですか、とティアに尋ねると彼女は気まずそうにこう答えた。
「一般的には50〜70です。100を超えてくるとかなりのやり手、200に到達すると大魔導士と言われます」
魔導薬師ギルド構成員はC級あたりから100を超える人が出てきます、と俄には信じがたいといった表情でティアは続ける。
「それでも1700はさすがに信じられないです。しかし嘘をつく意味も狙いもわかりません。本当と言うことでしょうか」
ティアは顔の部位が全開のアルムスに目くばせをする。アルムスはごほん、と咳払いをし気を取り直す。
「真偽はともかく、その能力はいずれわかるだろう。ぜひこのギルドで力を発揮してくれ」
こうして正式に魔導薬師ギルドに登録されることとなった。
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とっても嬉しくて思わずスクショしてしまいました。
読んでいただいて本当にありがとうございます。