第六話
夕焼けの空が顔を出しはじめた頃、俺はミトスと街の中を歩いていた。
「レンタさん、これからどうするんですか?」
まあ、どうもこうもないけどとりあえず宿かなあ、なんて話をしていると、
「とりあえず今回の報酬の前金です!受け取ってください」
そう言われて渡された革袋には金色の硬貨が数枚入っていた。少し困惑しているところをミトスが見て怪訝そうな顔をする。
「もしかして、お金のことも忘れちゃいました?」
逆によく自分の名前覚えてましたね、なんて軽い毒を吐かれつつ硬貨の価値を説明してくれた。
青銅貨10枚=純銅貨1枚
純銅貨10枚=銀貨1枚
銀貨10枚=金貨1枚
金貨10枚=白金貨1枚
白金貨10枚=竜金貨1枚
となるそう。宿の1日の宿泊料が平均銀貨5枚のようなので前世の金銭感覚でいくと青銅貨は10円であとはそれぞれ10倍ずつといったあたりになりそうだ。
「前金でこんなにもらっちゃっていいのか」
「大丈夫です、恐らく物凄い額の報酬になるのでむしろ手持ちがそれだけしかなくてすみません。宿は信頼できるところまでお連れしますね」
領主への依頼達成報告と秘薬作成作業にすぐ取り掛からなければいけないので街の詳しいご案内ができなくてすみません、とミトスは言う。
ミトスが紹介してくれた宿は【旅宿 川のせせらぎ】というところだった。
「ちょっと数日かかっちゃうと思うのでしばらくここに滞在してもらえると助かります!それでは!」
一度宿の人と話をして中から出てきたミトスは小走りで駆けていった。本当はすぐにでも行きたかったんだろうな、申し訳ない。反省しつつ宿の中に入る。
「はじめまして!ここは【旅宿 川のせせらぎ】です!ミトスから聞いてるよ、よろしくねー!」
まさに宿の元気印、看板娘と言ったところか。身長160cm程のポニーテールの女性はアイナというそうだ。
「とりあえず部屋に案内するね!うちは小さめであれば使い魔も大丈夫だから心配しないでね!」
フーリィを見ながらニコニコする彼女は動物好きなのかもしれない。先程まで布団の如く寝ていたフーリィは起きて俺の背中側から首に手をかけぶら下がっていた。爪が食い込むんよ。
もう夕飯になるから少ししたら一階の食堂に来てね、と言いアイナは階段を駆け降りて行った。渡された鍵で部屋を開けて入ってみるとリビングとベッドルームが分かれており掃除の行き届いた清潔感のある部屋となっていた。
部屋のソファに腰掛ける。座った瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。重たい瞼に抗うことができず、そのまま微睡んでいくのであった。
◇
昨夜は意識を失っており、気付いたら鳥の鳴き声が聞こえてきていた。朝日が顔を見せ、人が動きはじめている。
「もーっ!昨日は晩ご飯すぐって言ったのにー!」
一階に降りてきたことに気付いたアイナが開口一番に叱責する。
「ごめん、昨日はすごく疲れてたみたいだ。でも、朝からとってもいい匂いがしているな」
でも、って話が繋がってないよー!と叱りながら朝ごはんを運んできてくれる。寝ぼけ眼のまま口に運び、こりゃあ美味いな、と舌鼓を打つ。
「きゅっ、はむ、はむっ」
フーリィの朝ごはんも用意してくれてあり、我が家の火狐も尻尾を振ってよろこんでいる。
どうやらミトスはとても良い宿を紹介してくれたようだ。
◇
「さて、とりあえず冒険者ギルドがあるらしいから行ってみるかな」
異世界と言えば、という安易な考えだが拠点や収入が安定しない中、日銭を稼ぐには最適であろうとの結論に至る。
場所はアイナに聞いてなんとなくだが把握した。この宿は街の西側にあり、そこから中央部に向かって歩みを進める。服屋や八百屋のような店を横目にすれ違う人々を観察する。剣や杖をもった数人の男女が歩いていたり、たくさんのものを買っていたりする。
「賑わっているようだな」
ありきたりな感想を口にしながら歩いていると一際大きな建物が見えてきた。看板には剣と盾が交差しているマークが入っている。ここだな、と早速足を踏み入れる。
中に入って右側はカウンターがあり受付とみられる数人が座って仕事をしている。反対側には酒場兼集会所のようなものが併設されており、割と賑わっていた。辺りを見回していると受付の1人が話しかけてきた。
「こんにちは、冒険者ギルドにいらっしゃるのは初めてですか?」
まさに営業スマイルというべき笑顔は彼女のプロ意識の表れだろう。茶髪ショートカットの彼女へ緊張しつつ返答する。
「はい、冒険者になりたいと思って」
そうでしたか、それでは、と言って彼女は書類と水晶を取り出す。指示された書類に氏名と年齢を記入する。なんかわからんけど字書けた。
「この所持属性ってのは?」
彼女は一瞬止まったが、すぐに笑顔を貼り付け気を取り直し説明する。詳しく聞いてみると、人の所持属性とは火水土風光闇の6つ存在し、誰しもが何かに属しているそうだ。冒険者ギルドでは誤申告がないように登録時に検査し、冒険者になれるだけの最低限の素養を確認しているらしい。
「ここに手を乗せればいいのか」
彼女が差し出した水晶に手を乗せた瞬間、眩い光が一面に広がった。
光が収まり水晶に映し出された文字を読み解く。
【無属性Lv.1】
「・・・」
お互い無言の時間が過ぎる。永遠にも思えるような長い時間だった。彼女は意を決して話し始める。
「申し訳ございません、無属性というものは記録上不具合があったのかもしれませんが冒険者ギルドの規約として所持属性Lv.3以下のものは冒険者登録を禁ず、というものがございます」
そのため、この度は登録できません、とのことだった。所持属性Lv.3以下のものは成長することもほとんどなく、死亡率も極めて高い、という長年の経験を教訓とした冒険者の命を守るための規約だそうだ。
「これは、諦めるしかないか」
早朝にワクワクしていた分の気落ちは絶大だった。
「きゅ〜」
フーリィは俺を慰めるように肩に乗って頭を撫でてくれていた。爪が刺さるけど。
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