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第五話


「キングオーガの角粉?」


 あの魔物の角の粉が何かに使えるのか?分からんもんだな、と思いミトスに聞き返す。


「そのキングオーガってのはC級のミトスには倒せないものなのか?」


 何言ってるんですか、当たり前じゃないですか、とミトスは呆れた顔をして返事をする。どうやらこの世界でキングオーガは割と強いようだ。

 ミトスの話からするとこの世界の魔物のランクはG〜SSSまであり、S級以上は倒せる者がごく僅かのよう。しかも大抵はソロではなくパーティーを組んだ状態での討伐が必須らしい。

 そんなことも知らないのになんでこんなとこにいるんすか。大丈夫ですか、と多少貶されたのは気にしないでおいてやろう、それが大人の懐の深さよ。


「魔物の森獰猛狂乱期といわれるこの時期に森の浅部に出現するのがキングオーガなんです。凄まじい膂力でどんなタンク役も木っ端微塵にされると恐れられています」


 だから基本的にはこの時期は誰もここに寄り付かないようにと領主から厳命されるそうだ。そりゃそんな時に人がいれば思わず話しかけるわな。


「それで、キングオーガがS級ってわけなんだな」


 ミトスが無理だと嘆いていたのも頷ける。ただ、近付いてはいけない時期にそんな依頼が来るってのはなかなかきな臭い話だな。


「その依頼主ってもしかして領主?」


 ミトスは深く呼吸をし直しながらゆっくりと頷いた。


「キングオーガの角粉は万病に効く、とされていて実際に五大秘薬素材のひとつなんです」


 話によると、領主には男1人女2人の計3人子供がいるがそのうち唯一の跡取り息子が難病に冒されているようだ。本来は誰もこの危険な時期に近付けさせないようにするなど領民を大切にする領主のようだが、最早なりふり構っていられなくなったらしい。


「領主様にはみんな感謝しているから誰も断れなかったんです。冒険者ギルドにもお願いしましたが流石に分が悪すぎると暗に拒否されてしまいました」


 いまにも泣きそうなミトス。しかし、唇を噛み締め爪が食い込むまで手を握り、そして意を決したように言葉を紡いだ。


「まだ死ねない。やらなきゃいけないことがたくさんある。なんとか、やってきます」


 目は真っ直ぐに仄暗い森の内側を見据えているようだった。





「これ・・・要る?」





 すごく言いづらかった言葉がやっと言えた瞬間だった。








「ほん゛っっどお゛おに゛!!よ、がっだでぇずゔうう〜〜〜」


 ミトスが泣き止まない。うるさい。


 どうやら最初は馬鹿にしていると勘違いされて死ぬほど怒られた。そんな不憫な俺を見かねたフーリィが必死のボディランゲージでミトスを宥め、冷静にさせてくれた。


 ミトスはどうやらスキル『鑑定眼Lv.2』と言うものを使え、素材であれば大抵のものは鑑定ができるらしい。そして疑心暗鬼になりながらも鑑定をした結果このザマである。うるさい。


「とりあえず急を要するんだろ?泣いてないで早く行かなくていいのか?」


 早く行きたいのはやまやまなんですが、と言うが言葉尻はすぼんでいく。


「ここの森入り口に来るまでにも魔物はいてそれを倒しながらきたら魔力が枯渇寸前になってしまっていたんです。なのであそこで休んでいたと言う訳なんです」


 だから、護衛してくれる人がいてくれたらなー、なんてこちらを横目に見ながら棒読みで呟いている。


「俺もちょうど街を探していたんだ。せっかくだしご一緒させてもらおう」


 満面の笑みで頷きながら、ミトスはお願いします!と返事をした。





 街に向かっている間にミトスはいろいろなことを教えてくれた。

 

 まず改めて向かっている街の名前は辺境城塞都市ウェルノースといい、レオルザ王国の北東に位置し魔物の森と接する防衛都市のようだ。魔物との戦闘が最も多い都市のため城塞化し、大氾濫の際には全力で防衛する任務があるらしい。そのため国からも多額の補助金があり、魔物の素材も豊富で商業としてもかなりの賑わいを見せている。魔物討伐による金儲けにはもってこいの場所なので必然的に冒険者も多く、薬の素材も豊富なことから冒険者ギルド、魔導薬師ギルドもかなりの規模とのこと。


「結果的に魔物で儲かってる街なんだな」


「まあ、そうですね。腕に自信のある冒険者が多くいるので戦力で言えば王都と張り合える防衛力とも言われています」


 その自信のある連中をもってしてもキングオーガはだめだったんだな、と改めてあの魔物の恐ろしさを知る。


「この街の冒険者ギルドにも魔導薬師ギルドにもS級はいるんです。しかし、ちょうどいまどちらとも東に新しく出現したダンジョンに遠征に出てしまっていて不在だったんです」


 S級以上の魔物の場合、討伐許可が出るのがAランクパーティ以上に限られるらしい。冒険者ギルドにはAランクパーティが3組おり、うち2組は例のダンジョンへ、もう1組はつい最近メンバーの1/3が魔物にやられ亡くなってしまったとのこと。


「魔導薬師ギルドは戦闘に特化したギルドではないのでランクが高くても討伐には向いていない場合も多いんです」


 そこは高難度依頼達成率で判断されるランク制度の難しいところですね、とミトスは言う。


「それにしてもたまたまキングオーガの角が落ちているなんてレンタさん本当に運がいいんですね!」


 最初は言ったのだ。俺が倒した、と。

 全くもって信じてもらえなかった。後々魔物のランク制度の話を聞いていくと納得できるものではあったが。


 ちなみにフーリィはいま俺の肩で爆睡している。物干し竿に掛けてある布団のように斬新な寝方で。



 ミトスと談笑をしながら魔物をしばきつつ歩いていると大きな城壁が見えてきた。高さはゆうに10mはあるだろうか、物々しい雰囲気がある。入り口と思われる城門は3mほどの大きさで門番はフルプレートを着用した兵士が2人立っていた。


「ミ、ミトス!!!生きていたのか!!!!」


 門番の1人が思わず大声をあげる。ミトスは間違いなく死ぬと思われていたのだろう。


「ダレンさん、なんとか帰ってこれましたよ」


 憑き物が取れたような笑顔でミトスは話す。そうか、よかったな、本当に、と頭をぐしゃぐしゃにされていた。ミトスはどうやら愛されているようだな。


「ところでそこの彼はどうしたんだ」


 ダレンの視線がこちらに向き、下がっていた目尻が鋭く吊り上がった。


「実は、この人が僕の命の恩人なんです」


 訳を聞いたダレン達は俄には信じられないといった様子でこちらを観察する。記憶喪失だなんてそんな人間が生き残っていられるはずがない、と。


「身元がハッキリしないとこの中には通せないな」


 憮然とした態度でダレンは言い放つ。強固な守りが必要とされるこの都市では当然のことだろう。さて、どうするかと考えていたら、


「ダレンさん、こちらの方は僕が保証人となりましょう。なにか問題を起こしたら全て僕が責任を取ります」


 そう言ってダレンを説得し、書面にサインをして血判を押すことでこの街への入場許可が降りたのだった。


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