第2章ー2
この問題の解決に、私自身が頭を痛めていたこともあった。
そうした際に、上里松一に会って、今後のマニラに関する話をして、更にいわゆる四方山話をした際に。
「成程、400年未来からあなた方は来たのですか。それで、あなたに婚約者等は」
「まだ、いませんでした。もう少ししたら、縁談が持ち込まれたでしょうが」
そんな話を上里松一から聞いた瞬間、私の頭の中で魔物が回転した。
この男と張娃を結婚させると言うのは、どうだろうか。
年齢だけから言えば、娘と12歳程、年が離れた結婚ということになるが、この男は実直そうだ。
それに根は善良極まりないようで自分の娘婿に迎えるのに性格は申し分ないように、自分からは見受けられる。
更に言えば、本来から言えば共に琉球出身という縁もある。
この男は皇軍関係者だから自分から娘を結婚させたい、といえば、皇軍関係者も自分を重んじるだろう。
そして、向こうの身内の縁者ならば問題が起こっても、向こうから色々と配慮を考える。
これはいい考えではないだろうか。
そして、張娃に私はこの話を振ってみた。
「あの異形の船団は、未来の日本から来たらしい。更に、その中の一人は琉球出身とのことで、その男、上里松一とお前との縁談を、私は考えている。12歳程も年上の相手との結婚になるが、お前はどう考える。その相手と結婚すれば、家から出られるが」
「喜んで」
この家から出られて、更に自分の母と同郷の相手と結婚できる。
そう思った瞬間に、張娃は舞い上がってしまったようだ。
相手と逢わない内に、そこまで言うのか、と私が却って引く有様だった。
そして、色々と皇軍と名乗る面々と話を詰め、私は琉球に赴くことになった。
更にいそいそと張娃は、私についてきて、上里松一と逢った。
舞い上がった状態が続いていたのか、それとも、更に一目惚れしたのか、逢った後は、張娃は上里松一の傍にいるように努めだしてしまい、父の私の方が。
「正式に結婚した訳では無いのだから、程々にしろ」
という羽目になった。
ちなみに上里松一の方は、却って更に引いてしまったようだ。
実際、張娃との縁談を私が持ち掛けたら、上里松一は、
「そうは言われても、もう少し張娃が成長してからでもいいのでは」
と言う有様だったのだが。
張娃の態度を見て、更に引いてしまい、何かと用事を作っては、張娃から離れるようにした。
それが却って、張娃の執着を強めてしまい。
私は、件の伯父の悪い血を張娃は承けているのでは、と勘繰る有様になった。
それはともかく。
無事に私達は琉球に赴き、真徳殿との面会に成功した。
真徳殿は、張娃を見た瞬間に、自分の孫娘だと察したようだったが。
「一体、何事だ」
等と開口一番に言われる羽目になった。
そして。
上里松一は、琉球の民の末裔である気概を示してくれた。
見たくない現実を見るように、真徳殿らを説得し、更に皇軍上層部とも掛け合って、血を流すことなく、琉球王国の独立は失われたものの、内政自治権を皇軍に保障させることに成功したのだ。
その代り、軍から一時的に退くことになったが、それすらあの男は覚悟の上だったらしい。
全ての交渉が一段落した後。
真徳殿がこっそりささやいたのが、私には深く印象に遺っている。
「あの男が孫娘の婿になるのが、本当に有難い。あれ程の男、本当に自分の地位を喜んで譲りたい程だ。ゆめゆめ、婿殿を大事にせねばな」
自分もそう想わざるを得なかった。
これは本当に得難い婿を知らない内に迎えたのかもしれない。
できる限りの協力を婿殿にせねば。
そう想った私は、婿殿のために一肌脱ぎ、シャム王国に赴き、米の買い付け等をしたのだが、そこで、私からすれば思わぬ事態が起きてしまったのだ。
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