第2章ー1 張娃と上里松一
新章の始まりになります。
人生とは思わぬことが起こるものだ。
それを如何に巧みに切り抜けられるかが、人生を決める。
それが、私、張敬修の座右の銘になっている。
それこそ、二度と会うことはないかもしれない、と考えていた義父(?)の真徳殿と、こんな形で再会する等、自分としては考えたこと等、全く無かったのだが。
この再会が、それこそ琉球王国どころか、それ以上の周囲の国を騒がす事態になりそうなのを考える程、自分の座右の銘にすがりたい想いさえしてくる。
そもそも、今回の件についての自分にとっての発端と言えることは、完全に異形の船団がマニラの沖合に現れたことだった。
住民の自治が行われているマニラにおいて、マニラの有力な住民と言える自分は、義侠心もあることから、異形の船団との交渉に自ら志願して赴くことになった。
そして、上里松一と名乗る人物に会ったのだ。
更に、上里松一の言葉から、自分には理由がさっぱり分からないが、この異形の船団に乗り組んでいる者達は、今から400年もの未来から来たこと、更に祖国の筈の日本に還り、天皇陛下を奉ろうとしていること等が分かった。
そして、そのための根拠地として、彼らがまずはマニラ等を確保したいこと、更に様々な手段を彼らが講じたいと考えていること等が分かった。
彼らの武力が圧倒的なことは、異形の船団がマニラの沖合に現れて早々に行われた艦砲射撃によって、かなりの程度が、自分や周囲の者に分かっていた。
だから、武力に頼ることなく、少しでも有利な交渉をしなければならないが。
そう考えていた時に、私に魔物がささやいた。
この際、娘の張娃を協力させよう、という考えが私に浮かんだのだ。
張娃、私の最初の妻、安喜が遺した文字通りの長女だ。
安喜は、他に2人の息子を産んだのだが、3人目になる次男を産んだ際に難産で亡くなった。
両親や私から見れば弟になる2人は、共に梅毒にやられて亡くなった。
(弟2人は先天性梅毒で若死にしている)
こうしたことから、私は身を慎んでいて、安喜が生きている間は、安喜以外の女性とは関係を持たなかったが、安喜が亡くなったことから、今後のことを考えざるを得なかった。
そうしたところ。
実は張娃の実母、安喜との結婚は、父に知らせずに進められたものだった。
そして、父はマニラにいて、私の知らぬ間に縁談を進めていた。
李金蓮という、私も知らないことはない相手で、同じ倭寇仲間の娘で、ほぼ同年の相手だった。
私が父に安喜と結婚した旨の連絡を送ったのと入れ違いくらいに、マニラから父の死の連絡を受け、安喜や張娃と共に私はマニラに向かったところ、この縁談を教えられた。
私は真徳殿との秘密の約束もあり、勝手に縁談を進められても困る、新しい張家の家長として、安喜を正妻に迎えると宣言し、この縁談を断ることにし、違約金を支払って済ませた。
そして、李金蓮は別の男性と結婚したのだが、相手の男性が亡くなったことから、安喜が亡くなった当時は、独身に戻っていた。
李金蓮(というよりその周囲)は、かつての縁談のことを持ち出し、私との再婚を勧めてきたのだ。
確かに悪い話では無かったので、この再婚話を私は受けたが、思わぬ誤算があった。
張娃は、安喜そっくり、と言ってよい程、似て育ってしまったのだ。
そのため、李金蓮としては、張娃を見る度に、安喜のために縁談を破棄されたことを思い出してしまい、張娃に辛く当たるようになった。
私が叱りつけると妻は謝罪して、暫く二人の関係は落ち着くのだが、李金蓮としては、どうしても腹の虫が収まらないらしい。
そうしていると張娃も李金蓮のことを嫌うようになった。
こうなると幾ら私が仲裁しても、徐々に悪循環になっていく。
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