表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/29

第5章ー5

 そんな大騒動があったものの、松一とプリチャとの間の二人目の子は、プリチャの胎内で順調に育ち、無事に五体満足で産まれることができた。

 松一は、自戒も込めて、この子を正道と名付けた。

 自分に似ることなく、自分が信じる正しい道を迷うことなく歩んで欲しい、と願ったからだ。

 そして、その想いにプリチャも賛同した。


 松一は、正道を抱きながら、想わざるを得なかった。

 もし、張娃と正式に結婚したとして、張娃が女子しか産まなかったら、正道が上里家の跡取りになる。

 張娃はそれを受け入れてくれるだろうか。

 もし、を重ねることになるが、子どもができなかったのならまだしも、生まれてきたのが女の子しかいないから、と言う理由で、跡取りが側室のプリチャの子になるというのは、張娃にとって辛いことになるだろう。


 そこまで想うのなら、プリチャと男女関係にならねば良かった、と言われても仕方ない。

 だが、出逢った当初はそこまで想わなかったが、それこそお互いに肌を重ねて共に生活する内に、プリチャは徐々に魅力的になっていった。

 更にタンサニー(美子)らも、私達が仲良くなるのを祝福してくれた。

 そして、このような事態にまで至ったのだ。


 それなりに避妊をお互いに心がけてはいたのだが、何しろ時代という制約がある。

 体温計も手元には無いのだ。

(この当時、皇軍の知識で体温計は知られてはいたが、量産化まではされていなかった)

 更にプリチャの生理は微妙に不順が続いており、数日ずれるのが稀ではなかった。

 こうしたことから、正道をプリチャは懐妊したのだった。


 そういった半ば後悔を覚えつつも、松一は正道を愛おしく思った。

 過去(?)に来てしまった今の自分に親兄弟はおらず、家族、親族は数少ない。

 そうした中で、和子や正道といった子どもが増えるのを、松一は喜ばずにはいられなかった。

 一方、プリチャは。


 プリチャは、松一が正道を抱いて喜ぶことに嬉しさを感じつつも、複雑な想いを抱かざるを得なかった。

 私の最愛の人はサクチャイなのに、結果的に最愛の人を裏切って、2人も子を産んでしまった。

 松一が私を側室とはいえ、大事に思い、愛してくれているのを素直に喜ぶべきなのだろうが。

 娘のタンサニーは嫌っているようだが、私にとって最愛の人といえるのはサクチャイなのだ。


 同じ村の出身で、私が幼い頃からお互いに見知った仲だった。

 年も丁度、釣り合っているし、お互いの家族同士も仲が良かったので、私とサクチャイの結婚までは極めて順調に進んだ。

 でも。


 下手に家族同士の仲が良すぎたのか、結婚するとすぐに子どもを作れ、という圧力が周囲から掛かった。

 その圧力がお互いの心身にとって辛かったせいか、子どもが中々できず、伝手を頼って、アユタヤに夫婦で出稼ぎに出ることで、周囲の圧力から共に逃げ出したのだ。

 そして、サクチャイが手代として働き、自分は内職等に励む内に、タンサニーが、サーラート(サクチャイ)がアユタヤで産まれたのだ。

 だが、それで生活が苦しくなってしまい、子ども達ときちんと向き合えなかった。

 そして、サクチャイは故郷に一時的に帰った際にビルマ軍にさらわれて行方不明になり、自分は松一の側室になったのだ。


 サクチャイは今、生きているのだろうか。

 そんなことまで、プリチャはいつか考えていた。

 サクチャイは、子ども達にとっては良き父ではなかったかもしれないが、自分にとっては良き夫だった。

 幼い頃からお互いに見知っていたこともあり、それこそ目だけでお互いに会話が成り立つ仲だった。


 だからこそ、却って子どものタンサニーらに、口下手な夫は嫌われたのかもしれない。

 そんなふうにプリチャは夫婦、親子のことをいつか考えていた。

 第5章の終わりで、作中では3年程の時が流れて、最終章の第6章に次話からなります。


 ご感想等をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] せめてサクチャイの消息がわかってれば……。 そう言ってもどうしようもないことではありますが。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ