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第5章ー2

 タンサニーと話し合った翌朝、上里松一とプリチャは、張敬修が泊まった宿屋に赴いて、タンサニーが今回の張娃を側室扱いしかねない騒動の裏で暗躍していたことを伝え、親として詫びた。

 その話の詳細を聞いた張敬修は、怒る以前に驚嘆するような態度を示した。


「婿殿、私の人生において初耳ですぞ。生さぬ仲の子にそこまで慕われるとは」

「いえ、子の指導に失敗したことをお詫びします」

「いや、私の後妻、李金蓮と張娃が犬猿の仲と言ってよいことを考える程にアリエナイ話に想える」

 そんな会話を義理の父子は交わした。


「取りあえず、私が30歳になった際には、何があろうとも、張娃を正室として迎えます。その代り、張娃の説得をお願いします。虫のいい考え、と言われるのは重々承知ですが、プリチャの出産を無事に終えて、ある程度は育児の時間を頂かないと。それにアユタヤの空気が」

 そこまでしか松一は言わなかったが、張敬修には充分だった。

「よろしいでしょう。その方向で話を進めましょう」


「松一をこの度、正式に私の娘婿に迎える一環として暖簾分けを行い、松一はアユタヤ支店長から独立して上里屋の主になる」

 張敬修は、アユタヤ支店の主な面々を集めた場で、そう宣言した。

 その言葉を聞いた者達は驚いた。


「上里屋ですか」

「ああ、松一は今は張松一と名乗っているが、本来は上里松一だ。暖簾分けに伴い、本来の自分の姓を、店の名前に冠するということになるな」

 アユタヤ支店の筆頭番頭の問いかけに、張敬修は平然と答えた。


「私どもの立場は」

「新たな主として答える。処遇等は基本的に一切、変えるつもりはない。だが、今後は私が完全にこの支店ではなかった、新たな店の完全な主になる以上、私の指示等は、新たな主の指示等になる」

 筆頭番頭の問いに、松一は即答した。

「分かりました」

 筆頭番頭はそう答えた。


「それで、プリチャが妊娠しているので、張娃がここに来るのは2年程は先延ばしにする」

 そう張敬修は、それとなく言って、更に言葉を続けた。

「本来なら張娃が16歳(数えなので、満年齢なら15歳)になる以上、すぐに結婚させたいが、側室が妊娠しているのに結婚すると言うのもどうか、と考えられるからな」

「ごもっともです」

 筆頭番頭は、(旧)アユタヤ支店、(新)上里屋の従業員代表としてそう答えた。


「その頃になれば、張娃も割り切った考えができるだろう。子どもも大きくなるし」

 松一はそう言い、張敬修と目を合わせた。

 取りあえず、これで部下達を納得させるしかあるまい。


 さて、その足で張敬修は琉球に向かった。

 言うまでもなく、張娃を納得させるためである。


「何ですって、あの女がまた妊娠した」

 その話を聞いた瞬間、張娃は怒って完全に羅刹女の顔になった。

 だが、むしろその方が、張敬修にしてみれば話をしやすかった。


「これではお前とプリチャを同居させる訳には行かんな」

「当たり前です。私が嫁ぐ以上、あの女には身を引いてもらいます」

 アユタヤ事情が分からない張娃は、そう断言した。


「それは駄目だ。アユタヤにお前が今、行ったら、お前が側室扱いされて、同居が嫌だ、というのなら、お前が家から追い出されるぞ」

「そんな松一が、そこまであの女に溺れるなんて」

 張娃は、プリチャに直接、会ったことはない。

 だが、年上で平凡な容姿と聞いている。

 一方、張娃だが。


 それこそ、琉球一の尾類(芸妓)と謳われた波琉の孫娘としての美貌を誇る。

(真徳に言わせれば、本当に祖母と孫娘だ、実の母娘、いや双子のように似ている、とのことである)

 そして、自身もその美貌に誇りを持っている。

 10代半ばの自分がアユタヤに行けば、松一の目が完全に覚めると思っていたのだが。

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