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第4章ー5

 上里松一は、この状況をまずは張敬修に知らせたのだが。

 松一からの手紙を読んだ張敬修は、頭を抱えた。

 まさか部下達が事実上の反乱を起こす事態が起きるとは。


 勿論、彼らは本当に反乱を起こしたわけではなく、単に松一と張娃が結婚した後も、プリチャとは同居すべきだ、と言っているだけだが、問題は、その後だ。

 張娃とプリチャの同居が嫌なら、張娃の方が出て行くべきだ、と言っているのだ。


 これではどう見ても、張娃の方が側室扱いである。

 更に単に客観的に見た場合、張娃とプリチャが同居したら、どう見られるか。

 年齢等から見ると、プリチャが正室、張娃が側室に見られる。

 正室に二人も子が産まれて育児等に多忙なので、側室を迎えました。

 しまいには、そういう噂が流れても、半ば仕方のない事態である。


 張敬修は少なからず悩んだ。

 3年前の一件で、売り言葉に買い言葉ではないが、あそこまでさせたこと(張娃に直筆の手紙を書くことを無理強いして、プリチャを側室として張娃に公認させたこと)を今になって後悔していた。

 あの一件以来、張娃は、松一にプリチャを側室として勧めたのが、自分でもあったことから、完全に自分を嫌ってしまった。

 何とか和解をしたい、と考えているが、あそこまでのことがあった以上、張娃は未だに嫌ったままだ。

 そして、今回の事態である。

 張娃が更に怒って、話がこじれるのが目に見えている。


 張敬修は、一晩考えこんだ末、自分がアユタヤに乗り込んで、事態の収拾に乗り出すことにした。


「これは張の大旦那」

 事前連絡なしに、アユタヤ支店に張敬修が乗り込んだところ、筆頭番頭は目を丸くしながら言った。

 何だかんだ言っても、筆頭番頭にしてみれば、張敬修は自分をここまでに育てた大恩人である。


「松一とプリチャを呼んできてくれ」

「はい。旦那様、奥様」

 筆頭番頭が、そう叫びながら、店の奥に向かうのを見て、張敬修は(内心で)頭を抱え込んだ。

 自分の子飼いの部下の筈が、プリチャのことをそう呼んでいるのだ。

 これは、完全にプリチャが松一の正室にこの店ではなっている、と見てよいようだ。

 今から張娃が乗り込んでは、従業員は張娃を事実上は側室扱いするだろう。

 ここまで事態が深刻になっているとは、思わなかった。


 これはこの店の中で話はできん、密談等はトンデモナイ。

 そう僅かな待つ間に、そう考えた張敬修は、松一とプリチャを店から連れだして、別の場所で3人で話をすることにした。


 張敬修が選んだ場所は、いわゆる岡場所の出会茶屋だった。

 ここを利用する者は、お互いに訳アリが多く、知らぬ顔をするのが通例であり、密談には絶好だった。

「さて、どうしたものかな。松一、張娃を正室にというのは変わらないのか」

「ええ」

「私としては、完全に側室からも身を引いてもいいのですが」

 松一とプリチャはそれぞれ答えたが、張敬修の渋面はさらに深くなった。


「そうは言っても、今ここで、張娃が正室としてアユタヤに赴いた場合、筆頭番頭の態度一つとっても、プリチャの方が正室扱いになるのではないか」

 張敬修が苦言を呈すれば、二人共、無言で深く肯かざるを得ない。


「これ以上父娘間を拗らせたくないのでな。アユタヤ支店を、完全に松一に譲ることにする。暖簾分けをするということだな」

「暖簾分けですか」

 松一は首を捻りながら言った。

「ああ、上里屋を立ち上げろ。実際問題として、商売で大利益も上げている。張娃との婚約があることを、それで改めて周囲に知らせる」

 張敬修は、腹を括って言った。


「それで、3年近く掛けて従業員を指導してくれ。今、張娃を嫁がせる訳にはいかん。側室扱いされる」

「確かに」

 松一もプリチャも、張敬修の言葉に肯かざるを得ない。

第4章の終わりで、次話から第5章になります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 対応をすればするほど深みにはまっていく。 みんあどうしてこうなった? となってしまうわけですね。
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