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第1章ー1 張娃に流れる秘密の血

 上里松一の婚約者、張娃に流れる血筋には秘密(?)がありました。

 張娃の祖母と真徳はかつて関係を持ったことがあったのです。

「うむ、波琉の唄三線は最高だ」

 真徳は、波琉が見事な唄三線を披露するのを、素直に褒めた。

 歳月を経た美味い古酒を呑み、上手い料理を食べて、波琉の唄三線を聞く。

 この世の極楽に思える。

 金がもう少しあれば、頻繁に通えるが、流石にそう通えはしない。


 真徳は、それこそ将来は三司官にも十分になれる総地頭の親方の惣領息子であって才覚も充分で、衆目からも三司官への就任は、生きてさえいればほぼ確実と見られており、極めて富裕でもあったが。


 首里のこの一角は、いわゆる尾類(琉球王国における売春も伴う芸妓)が集う遊郭街で、その中でも、今の自分がいる「波琉」は、その中でも高級遊郭として一、二を争う存在だからだ。

 目の前にいる波琉は、店の名を与えられていることからも分かるように、その中でも最高の尾類だった。


 もっとも、「波琉」は基本的にお抱えの尾類の売春はお断り、という態度を執っている。

 あくまでも芸と料理と酒が売り物なのだ。

 勿論、尾類を抱えている以上、全くやらない訳ではないが、「波琉」の尾類は、客から求められても売春はお断りが半ば当然と、客の方でさえ考えて利用している。

 実際、目の前の波琉にしても、いわゆる出だしの頃は、少しでも客を集めて金を稼ごう、と売春にも応じることがあったらしいが、芸を身に付けて格が上がっていくに連れて売春に応じなくなり、ある王族の側室になることで、年季奉公明けをした先代の波琉から、数年前に名前と地位を受け継いでからは、全く売春に応じていないと言うのが、客の間では専らの噂になっているが。


「そこまで素直に褒めていただき、ありがとうございます。とはいえ、もうすぐ私も年季明けですから、この名前と地位は、間もなく譲る予定ですが」

 唄三線を一曲済ませた波琉は頭を下げながら言った。 

「ほう、どこぞの側室にでもなるのか」

 真徳は、先代の波琉のことを想い起こしていった。


「いえ、北の故郷に帰り、糸満に出稼ぎに行っている幼馴染と結婚する予定です」

 波琉の言葉に、真徳は驚いた。

「勿体ない。波琉の名を継いだのなら、それこそ王族の側室でも望めるだろうに」

 実際、尾類とはいえ、波琉くらいの高級尾類ともなると、尾類の年季奉公が明けた後は、王族や親方の側室、又は豪商等の正妻になってもおかしくない。


 たかが、尾類と言うなかれ、波琉くらいの地位まで上り詰めるとなると、芸事に通じ、周囲にも十二分な気配りができないとなれるものではない。

 それこそ尾類同士の足の引っ張り合いは、日常茶飯事だ。

 だからこそ、波琉になれるというのは、ある意味、有能な人格者でもある証ともいえる。

 それ故に王族の側室や豪商等の正妻にも、逆説的だが迎えられるのだ。


 波琉は、そっと耳元で真徳にささやいた。

「それなら、何で私を側室に迎えなかったのです」

「うん、それはな」

 真徳は言葉に詰まった。


 真徳自身がかなり迷わなかったというと嘘になる。

 しかし、正妻の妬心がかなり強いので諦めたのだ。

 息子を3人も産み、更に王族の正妻の娘であるのが自分の正妻だ。

 下手に波琉を側室に迎えては、正妻の怒りを買うし、その怒りに迎合、忖度した周囲の同僚にも足を引っ張られ、自分の出世の足かせになる可能性が高い。


 波琉は寂しげに微笑みながら言った。

「真徳殿のお陰で、年季奉公から抜けられます。その厚意に全く報いずに去るのも無粋。この身体で一度、報いた後、幼馴染の下に向かいます。幼馴染は私の商売を知って、それでも結婚したいと言いました。真徳殿の側室になれないのなら、幼馴染と結婚しようと想います」

「そう波琉が思うのなら、そうすればいい」

 真徳は、波琉の想いを尊重することにし、一夜の逢瀬を交わした。

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