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第4章ー3

 プリチャは、自分にとっては4人目、松一にしてみれば2人目の子の妊娠に気付いた時、素直に喜ぶことはできなかった。

 それこそ、もうすぐ張娃をアユタヤに呼ぼう、その手紙を書こう、と松一が内々に言い出した頃合いで、その出ばなを挫くような事態だったからである。

 松一にも、プリチャにも、そんなつもりは全く無いのだが、それこそ張娃をアユタヤに呼びたくないから、松一がプリチャとの間に子どもを作ったように思われて当然の話が起きてしまったのだ。


 実際、松一も、プリチャから妊娠したとの話を聞いた瞬間、困惑しきってしまった。

 まさか、側室が妊娠している真っ最中に、婚約者を呼んで正室に迎えるような話等、できるものではない。

 それに、そもそも張娃が、実はかなり嫉妬深い性格なのは、それこそ和子が産まれた時の騒動で、自分にはかなり想像がついている。

 時が来たので、張娃をアユタヤに呼んだら、プリチャのお腹は妊娠で膨らんでいた。

 アユタヤに来る張娃に対して、プリチャの妊娠を事前に知らせても、着いた後で知らせても、どちらにしても大騒動になるのが目に見えている。


「困りましたね」

「困ったな」

 二人揃って、本来なら喜ぶべき妊娠の筈なのだが、二人共に頭を抱え込む羽目になった。


 その一方で、

「やったあ」

 と快哉を叫ぶ者らもいる。

 言うまでもなくタンサニーらである。

 更に言えば、この2年間でタンサニーらの味方はいつか増えていた。


 これは幾つかの要因がある。

 そもそもプリチャが松一の愛人、側室になったのは、張敬修の働きかけがあったのは、それなりに知られている話で水面下でかなり語られていた。

 だから、プリチャと松一の関係について、悪く言う人の多くが矛先を向けるのは張敬修だった。


 また、張敬修がシャム人ではなく華僑であり、ルソン、マニラに居を構えているのも、良くなかった。

 目の前にいる自国人の女性プリチャと、目の前にいない外国人の金持ち張敬修、どちらに自然とアユタヤの住民が味方したくなるか、といえば言うまでもなくプリチャだったからだ。


 そのために、冤罪を被ったのが、張敬修の娘になる張娃だった。

「あの張敬修の娘の張娃が、松一の正室になるのか」

 それを聞いた瞬間に、何となく嫌な感じを覚える人が多かったのだ。


 更にプリチャの人柄もある。

 手代の元女房が、主の側室になって上手くやりやがって、と悪く見る人もいたが。

 プリチャは周囲からそう見られているのを重々承知していたので、身を慎んだ。

 そして、料理が元から好きで上手だったこともあり、日頃の家族の料理は自分で作り、使用人に対して手料理を振舞うこともあった。

 こうしたことから、松一やプリチャの傍にいる多くの者が、松一とプリチャの同居生活が長く続くことを徐々に願うようになっていたのだ。


 また、タンサニーも折に触れて、プリチャと松一の同居生活が長く続いて欲しい、と自分が願っていることを、プリチャと松一のみならず、周囲に訴えた。

 その際に、タンサニーが巧妙だったのは。


「やっぱり、張娃さんが来たら、私やプリチャ母さんは家から追い出されるのかな」

「いや、そんなことは無いと思うよ」

 と幼女のタンサニーの言葉を聞いた人は慰めながら、そのことに想いを馳せて。


「私、生さぬ仲だけど松一父さんが好きで一緒にこのままずっと住みたいの」

 そうタンサニーが更に訴えたら、

「よし、タンサニーに味方しよう。張娃はどうも気に食わない」

 とタンサニーに内心で味方する者は増える一方になったのだ。


 だから、タンサニーや彼女に味方する面々にしてみれば、プリチャの妊娠は大歓迎する事態だった。

 プリチャが出産して落ち着くまで、と言う理由で張娃を呼ばずに済むからだ。

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