閑話ー1 和子の誕生とその波紋
閑話になります。
上里松一の長女、和子が産まれたことは周囲に波紋を広げます。
プリチャとに間に産まれた和子を初めて自分、松一が抱いた時、自分は嬉しかった一方で、頭を抱え込みたい想いが奔ったのが現実だった。
まさか、プリチャと愛人になって1年も経たない内に、子どもが産まれるとは。
プリチャと初めて会った時、正直に言って、プリチャは私の目からすれば、余りにも痩せすぎていて、子どもを無事に産んだことがあるのか、と疑いたくなる程だった。
これでも2人、子どもを産んだことがある、と聞いて、女体の神秘と言う言葉が頭の中で浮かんだ程だ。
その一方で、義父の張敬修の言葉もあり、自分はプリチャを側室、現地妻として迎えることにした。
とはいえ、自分には婚約者の張娃がいる。
プリチャとの間では避妊を心掛け、子どもを作らないようにしようとも自分は想った。
でも、実際にプリチャとの同居生活を自分が営む内に。
プリチャの連れ子タンサニーは、自分に弟妹が欲しい、とせがむようになった。
もし、その願いを叶えるということになると、プリチャとの間に自分は子どもをつくることになる。
また、プリチャは安楽な生活を営めるようになったせいか、徐々に健康的に(怒られそうだが)太るようになり、本当に魅力的な体型になっていった。
そうした流れの中で、プリチャは妊娠し、和子を産んだのだった。
ともかく、流石に和子が産まれては黙っているわけには行かない。
私は頭を抱えつつ、張娃らに子どもができたことを伝える羽目になった。
張敬修にとって、この展開は少し意外だった。
まさか、こんなにすぐにプリチャが子を産むとは。
それこそ約9年間の夫婦生活で、プリチャは2人しか子どもができなかったのだ。
それなのに、こんなにすぐ松一の子を産むとは。
とはいえ、マニラに張敬修はいてアユタヤの現状を知らないので。
プリチャの連れ子(タンサニーら)と婿(松一)は、上手く行っていないだろう。
何れはその子をこちらで引き取れば、二人は円満に別れて済む、と楽観視していた。
一方、張娃は荒れ狂った。
(この時代なので)夫が愛人を持つことくらいでは、張娃は(少なくとも表面上は)気にかけなかった。
だが、いきなり子どもまでできるとは。
しかも、結果的にだが、子どもが産まれたという知らせを、いきなり受ける羽目になったのだ。
更に追い打ちを掛けたのが。
「お父様が、その愛人を勧めたですって」
張娃は声を低くして、いわゆるドスの効いた声を出す羽目になった。
真徳が、プリチャが松一の愛人になった経緯について、うっかり口を滑らせたのだ。
真徳にしてみれば、松一から積極的に愛人に作った訳ではない、という想いから話したのだが、張娃にしてみれば、父が自分を裏切ったことに他ならなかった。
「どうしてよ。私が一緒に行けばよかった。そうすればこんなことには」
張娃は泣き喚いた。
真徳は張娃を懸命になだめた。
まだ、10代前半の幼いといってよい身空ではないか。
言葉が通じず、しかも戦乱がいつ起きるか分からない所に、婚約者を連れて行かない方が通例だと。
とはいえ、理屈ではその通りだが、そんなことで荒れ狂った感情が収まるものではない。
「アユタヤに何としても行きたい」
と張娃は主張し、真徳は、張娃が松一から琉球政府に預けられた人質の立場だという、張娃の公式の立場を持ち出して、張娃のアユタヤ行きを拒むことになった。
そのために数日にわたって、張娃は涙にくれる羽目になった。
そんな荒れた事態が、琉球にいる張娃と真徳の間では起こったが。
アユタヤでは、逆に和気藹々という雰囲気が流れた。
「私の妹なのね。本当に可愛い」
とタンサニーが和子を可愛がり、松一とプリチャは、それを心から温かい想いで見守るという事態が起きたからだ。
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