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第3章ー5

 私の妊娠ということは、上里松一にしてみれば困惑する事態ではあったが、その一方で、私の妊娠を松一が素直に受け止めてくれて、色々と手配りをしてくれたのは、私にとって嬉しい誤算だった。

 それを見ると、私のことを松一が気にかけてくれることがよく分かったからだ。

 また、私の娘のタンサニーにとっても、この私の妊娠は嬉しいことだった。

(息子のサクチャイは、まだ満3歳になる前で、私の妊娠がきちんと分かっていなかった)


「えっ、私の弟か妹が産まれるの。嬉しい。どっちが産まれてくるのかな。弟はいるから、妹が欲しい」

 タンサニーに、私の妊娠を言うと、タンサニーは素直に喜んだ。

 タンサニーはまだ満6歳になるか、ならないかだったので、父親が違う弟妹になることが分からないのか、と私が思っていたら、次の言葉でそうではないことが分かった。

「松一父さんの子でもあるのでしょう。お母さんと松一父さんが仲の良い証で、とても嬉しいの」


 タンサニーは、私と松一が仲が良いことを素直に喜んでいる。

 でも、と私は心の片隅で想わざるを得なかった。

 タンサニーの実父でもある私の夫サクチャイは、(公式には)行方不明の身なのだ。

 だから、私は夫がいる身でありながら、不倫をしていると言っても良いのだ。

(実際には、行方不明になった時点で、周囲も死んだとみなしているので、私は余り非難されないけど)


 更に言えば、松一にしても、張娃という婚約者がいるのに、私を妊娠させたのだ。

 幾ら側室、愛人を持つことが世間的に大目に見られるとはいえ、少しは婚約者を大事にしてはどうか、という周囲の声が、松一に対して(陰から)挙がるのが目に見えている。

 だから、私自身としては、そういったこともあり、私の妊娠を素直に喜べなかったのだ。

 でも。


 私がこの妊娠中に、松一やタンサニーの態度を見ているうちに、私の思いも徐々に変わった。

 松一は初めて自分の子が産まれるということもあるのだろうが、私のことを第一に考えてくれている。

 また、タンサニーは素直に喜んで、私のためにと懸命に考えて行動してくれている。

(そのために、松一へのタンサニーのいわゆる試し行動は、完全に止んでしまう程だった)


 それを見ていると、こんなに私の周囲は動いてくれているのだ。

 それに感謝して、松一やタンサニーの私への想いを素直に受け止めねば、という想いが私の中で湧き上がるようになったのだ。

 それに、私が松一の愛人になったのは、半ば強いられてのことではあったが、松一が私に強いたのではなく、松一の婚約者である張娃の実父、張敬修が私に強いたのだ、という想いも私の頭の片隅にあった。


 そうしているうちに時間は流れて、私は臨月を迎えて、出産の時を迎えた。

 松一は私が無事に出産できるようにと、裏の手段まで使って、シャム王室の出産の際に産婆を務める女性を密かに確保してくれて、私の出産に立ち会わせた。

 そのためもあったのだろう。


 私は無事に松一の初子を安産することが出来た。

 産まれてきたのは娘だった。

 松一は、この子が平和な中で無事に育ってほしい、と願いを込めて、和子と名付けた。

 そして、松一やタンサニーは、和子が産まれてきたことを素直に喜んだ。


 私も表面上は素直に喜んだが、その一方で。

 この子が無事に産まれたことを、張敬修や張娃はどう受け止めるだろう、というのが気になった。

 松一は和子を私と共に育てたい、と想っているようだったが、張敬修や張娃はどう考えるだろうか。

 松一の子であることを理由に、張敬修や張娃は私から和子を奪い取るのではないだろうか。

 また、もし、夫のサクチャイが生きていて、このことを耳にしたら。


 私は和子が産まれたことを喜べなかった。

第3章の終わりです。

次話で間話を1話挟んで、第4章になります。


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― 新着の感想 ―
[一言] プリチャにとっては子どもより旦那と世間体。 子どもたちにとっては前の旦那より今の旦那。 上里松一にはどっちも大事。 うむ、本当にままなりませんね。
[一言]  互いに不本意ながら結ばれた男女が、本当に予想外の人生を歩むこととなっていますね。  ただし張娃は本妻としてその後自分から上手く立ち回っているのに対して、先に子を成したプリチャの方が愛人で…
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