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第3章ー4

 そんな感じで、私と松一の同居生活は始まった。

 なお、この同居生活は、松一にしてみれば、長くとも2年もあれば終わる、と最初は考えていたらしい。

 何故ならば、このアユタヤに松一が来たのは、(その頃の私はよく知らなかったが)ルソンにいる皇軍の将兵の食糧となる米の買い付けのためだったからだ。

 だから、ルソンにいる皇軍の将兵が自給自足生活ができるようになれば、自分はお役御免、と松一は考えていたのだが、そうはならなかった。


 松一が、私との同居生活を初めて半年程経った頃、ため息を吐きながら言ったのを私は覚えている。

「硝石やジャンク船まで取り扱えか。更に硝石が自給できるようになるまで頑張ってくれか。何年、自分はアユタヤにいないといけないのかな。最低、5年は住まないといけないのかな」

 その時、実は私は物陰にいて、松一は周囲に誰もいないと想って、そう言ったのだ。

 なお、この時のことを、何故に私は覚えているのかと言うと。

 私が自分の思わぬ妊娠が完全に分かって、どう松一に伝えようか、と悩んでいた時だったからだ。


 実は夫のサクチャイと私は、私が数えの16歳の時に結婚したのだが、中々子宝には恵まれなかった。

 サクチャイも私も子どもが欲しい、と頑張ったのだが、私の生理が不順というより(三月の間、全く無かったことさえあった程に)稀なこともあったせいか、初子のタンサニーが産まれるのに5年余り掛かり、故郷の身内の間で、私達夫婦の間には子どもが産まれないのでは、という噂が流れる程だった。

 そして、タンサニーに弟妹を作ろうと私達夫婦は頑張ったが、またも3年以上というより4年近く掛かってサクチャイが産まれる有様だった。


 だから、私は松一と同居しても、子どもはできないだろう、と思っていたのに。

 半年も経たない内に、私は松一の子を身籠ってしまった。

 男女の身体の相性というものがあるのだ、と私は思い知らされたが。


(後年になって、私が尼僧になった後、(その頃は美子と名乗っていた)大人になったタンサニーに聞かされた話によれば、半ば必然的な結果だったらしい。

 何しろ、松一と同居するようになってから、私はきちんと食事を摂れるようになり、痩せ細った状態から健康的な体型の持ち主に徐々になっていたそうだ。

 これまで生活に苦しんで、精神的に追い詰められ、また、身体も痩せ細っていたのが、安楽に暮らせるようになって身も心も安定したので、生理も徐々に順調になり、身籠ったのだろう。

 実際、松一の子を身籠る前、1月半もしない内に次の生理が来ていて、私自身が驚く羽目になっていた)


 ともかく、いつまでも一人で悩んでいてもどうしようもない。

 私は、妊娠4ヶ月になった頃、自分が身ごもったことを松一に告げた。

 松一は自分の子ができることを喜ぶと同時に困惑した。

「まさか、こんなにすぐに子どもができるなんて。張娃に何と言えば」

 松一は、本音を思わずこぼした。


 実際、私も松一に半ば同情した。

 幾ら愛人、側室が(この世界では)ありふれた存在とはいえ、正妻の張娃にしてみれば、愛人の私が産んだ子というのは微妙な存在だ。

 まだ、自分に子どもが産めないとかならともかく、正妻(厳密に言えば婚約者)がいい気分がしないのは半ば当然の話だ。


 だが、その一方で、思ってはならないことと思いつつも、私の心の中で張敬修父子に対して、少し溜飲が下がる思いがしたのも事実だった。

 私の弱みに付け込んで愛してもいない男、松一に私が抱かれるように仕向けたのは、張敬修なのだ。

 実際に子どもと一緒に松一と生活するようになってみると、これはこれで幸せと言える生活ではないか、と私自身思えたが。

 それでも不快感はあったからだ。

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