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第3章ー2

 翌朝早々に現れたプリチャは、私、張敬修に対して、毅然とした態度で言った。

「昨日の申し入れを受けて、愛人になりたいと思います。でも、相手が受け入れるのでしょうか」


 そう言われてみれば、と私自身があらためて想った。

 確かにプリチャは20代後半の女性で、それなりの容姿ではある。

 だが、美女と言われるかと言うと、実の父親や兄弟しか男性は美女だとは言わないだろう。

 醜女とは流石に言わないが、平凡な女性に過ぎないし、むしろ痩せすぎにも思える。

 ここは、上里松一の判断に最終的には任せよう。


 そう私、張敬修は考えた。

 

 上里松一は、余りの状況の激変についていけない想いさえしていた。

 海軍兵学校を出て、海軍士官に任官したと想ったら、最終的に対英米との戦争に祖国日本は突入した。

 そして、敗北主義者と言われそうだが、内心ではこの戦争で自分は死ぬだろう、と観念していたら、いきなり周囲ごと、過去(?)の戦国時代に赴く羽目になったのだ。

 そして、このような状況の中、裏切り者と周囲から言われようとも、少しでも故郷の沖縄、琉球のために働かねば、と自分が頑張ったところ、故郷は救われたが、自分は海軍から半ば追い出されてしまった。

 更に。


 この過去(?)で出会った華僑の張敬修に、自分は気に入られてしまい、娘婿になることになった。

 それだけでもついていけない気がするのに、更に愛人まで迎えてはどうか、と自分は言われてしまった。

 単なる海軍尉官の自分が、愛人まで持つ身になるとは。

 夢の世界にいるのではないだろうか。

 そう上里松一は考えざるを得なかった。


 だが、夢にしては、妙に現実的な話が待っていた。

 目の前に現れた女性は、自分より3歳程年上で、平凡で痩せ細った容姿の持ち主だった。

「プリチャと言います。あなたの愛人になっても構いません」

 その女性はそう言った。

(厳密に言えば、通訳を介してということになるが)


 更に詳しい話を彼女と自分はすることになり。

「そうなのですか。ご主人は攫われて消息不明に」

「ええ。それで、この際、愛人になるのもやむを得ないと」

「お子さんも構わなければ、同居しませんか」

「えっ」

 自分でも、何故にそこまで言ったのかは分からない。


 でも、琉球(沖縄)からアユタヤまでの船旅の中で、義父(?)の張敬修と四方山話をする中で、愛人を迎えて同棲しても構いません、むしろ、そうすべきでしょう、と張敬修に言われたのが、自分の頭の片隅にあったのは確かだった。

 更に言えば、仕事(商売)に自分は励まざるを得ない以上、いわゆる家の面倒を見る者がいた方がいい、という想いも自分の頭の片隅にあった。


 目の前の女性は、自分の愛人になる覚悟はしていたようだが、所詮は通い、と考えていたようだ。

「でも、子どもが何と思うか」

「同居して上手く行かなければ別居しましょう」

「そこまで言われるのなら」

 彼女は、自分の言葉に同意した。


 プリチャは、帰宅して早々、タンサニーに告げる羽目になった。

「ある人と同居することになりました。それで一緒に暮らしていくことになります」

「このまま、お母さんと皆で暮らせるのね」

 タンサニーは無邪気に言った。

 その言葉は、私の心の奥底をえぐった。


 娘はどこまで現状を察しているのだろう。

 愛してもいない男に自分は抱かれて、今後は、事実上の家族として暮らしていかないといけないのに。

 夫がビルマ軍にさらわれて行方不明になった、おそらくは奴隷になった、と聞かされてから、1月も経たない内に、自分は全く愛していない別の男の愛人に身を堕とそうとしているのに、娘はそれを素直に喜んでいる有様なのだ。


 自分の目の前の娘タンサニーを思わず、私は心底憎みたい想いが奔ってしまった。

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