第三戦記 大きな前進と小さな同盟
ただただ驚いている自分がいた。
「今、なんて言った」
「俺と組んでくれないかといった」
即答だった。
「正確に言えばお前の左腕になろうということだ」
「私の、左腕?」
「そうだ、いくら科学技術が発達したと言ってもな人間ってのは不思議なものだ、やはり今までどおりに戦うことは難しくなる。そこで俺の出番というわけだ」
「あなた、何言ってるかわかってるの?あなたの母を殺した星の兵士の仲間になるって言ってるのよ?」
「俺はおふくろが死んでから考えた。あまりにも不自然すぎるとな。」
「?」
「よく考えてみろ、主要都市で死んだやつほぼ全員に死亡届が遺族に送られているのに俺の家だけ送られてこなかった、あくまで行方不明として処理された。」
「...」
「もしかしたらおふくろは何かしらの形で政府と関わっていたのかもしれない、そして混乱に乗じて殺された、そんな気がする。地球にいたときから武器商人をしていた俺の家族のことだ。政府や軍と何かしら関わっても不思議ではない。」
「でもそれと私についてくることが何に関係してるんだ?」
「かんたんなことさ、おふくろの行方の真実を知りたいだけさ。死んだかどうかすらわからない。死亡手続きが発行されないから墓をたてて弔ってやることもできない。そんなのはあんまりだろ?」
「わかった、ただし条件がある、君と組むと私はfoxからも離脱しないといけない。つまりこの惑星の中で2つの軍から逃げ続け私はこの星を制圧する。これを理解してくれ。」
「よし、そうこなくっちゃな、じゃぁまずは義手とお前の大好きな弓の調達だな。あとお前の持ってたfoxおとくいのSMAはまだ動くのか?」
「わからない、でも私は昔は昔エンジニアだった。直せるかもしれない。そしてもう一つ補足だ、弓は私が自分で作る、腕が帰ってきたあとにな」
「よし頼むぞ、義手に関してはこちらで用意するからな、明日から準備を始めるからちゃんと今日は休めよ。」
扉の閉まる音が聞こえる。
私は今日、敵の一人と休戦協定、いや同盟を組んだ。
たった二人の同盟、とても小さな同盟。
それでも私は少しホッとした。
そして強く思った
決して仲間の死を無駄にはしないと。
次の日はとにかく忙しかった。
まず付近の住人に foxの兵士だとさとられないよう服を買い、入れ墨を隠し、そしてSMAの修理に励んだ。
SMAの外部の損傷は見当たらないが亜空間転移を行うNOXが内部から壊れていたため一度モジュールを取り替える必要があった。
モジュールの取り替えに伴って特殊合金の交換も必要だった。
亜空間転移には莫大なエネルギー量を物体物質に保ち続けることで初めて安定して維持できる。
エネルギーは亜空間とこちらの世界の物質の差分を利用して常に発電し続けることができるのだが、問題はオーバーヒートだった。
莫大なエネルギーを一度に使用するSMAは長時間使用するとすぐにオーバーヒートしてしまった。
特殊合金で発熱部を覆うことでなんとか物体物質に影響を出さないような工夫がされていた。
しかしmexには最も重要な合金素材チタンがなかった、そのため様々なシャーリーなりの工夫が必要だった。
そしてもう一つの損傷、それはリミッターだった。
亜空間転移する際の命綱となるリミッター。
亜空間転移を13.4秒以上行うと原子核ごとプラスとマイナスで打ち消し合われ、結果的にこの世から消滅する。
それを阻止するために基本的にSMAにはリミッターという装置がついており、簡単に言うと亜空間に10秒間いると強制的にSMAの動作が停止しこちらの世界に戻ってくるというものだ。
つまりfoxの兵士は最大で10秒しか亜空間にいることしかできない。良く言えば消滅する可能性はごく少ないマシントラブルを除き0に等しくなる。そもそも亜空間転移装置が開発、軍に適用されてから亜空間転移で消滅した人間は0人だ(兵器、弾丸、投擲物は除くが)。
そんな中でリミッターが壊れてしまったのは絶対に自分でこちらの世界に戻ってこない限り、一度でもミスをすると消滅するということだ。
リミッターの損傷はどうしようもなかった。
交換する部品もなければ修理するためのモジュールもない。
シャーリーは腹をくくりリミッター無しで行く危険な行為に出た。