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9話 同族先輩発見!

 僕が連れてゆかれた場所は、予想通り監獄みたいな場所だった。


「……あ、ぅ」


 首のロープを強引に引かれるものだから、体が痛いのに耐え、小さな悲鳴を上げながらついて行った。

 薄暗くてジメジメとした牢屋。多少排泄物のような臭いがするが、最初の村の小屋よりも悪臭はマシな感じである。僕の鼻も丈夫になったものだ。3日間も鼻が曲がるような悪臭が立ち込める場所にいたのだから、ちょっとやそっとではめげないさ。ここも美味しい空気みたいなものだ。


 薄暗い通路の両脇には隔離された牢が数部屋並んでいる。

 中に収容されているのは犯罪者だろうか? 囚人服のようなものを着せられた猫の獣人さんが、粗末なベッドのようなものに横になっていたり、新入りが珍しいのか、はたまた看守にここから出してくれと懇願しているのか、鉄格子を握り叫んでいる猫の獣人さんもいる。

 それでも僕の姿を見ると、一様に目を剥いて押し黙った。

 マッパ同然の人間がそんなに珍しいのだろうか?


 前の世界と違うところは、男女とも一緒くたに収容されているところだろうか。

 前世で刑務所に入ったことはないが、確か男性の刑務所と、女性の刑務所は別れていたはずだ。でもここでは一緒に入れられている。問題はないのだろうか……。

 どうやら牢屋は二人部屋らしく、ベッドが二つあった。

 でも、さすがに男女で同じ個室に入れられているところはないようだ。


 まあ、そんな心配しても仕方がない、僕もこの猫の獣人達と同様に、鉄格子の中に入るのだから……。


 しばらく進むと、最奥に達した。

 どうやら僕は監獄の一番奥に収容されるみたいだ。


 首のロープを解かれ、後ろ手に縛られた拘束も解かれ、代わりに手枷のようなものを嵌められた。後ろ手ではないところは安心材料である。少しは手が使えるようになる。

 足にも何か嵌められた。金属の環に鎖繋がり、その先に金属製の丸い玉が付いている。

 おお、これは囚人用の鉄球付きの足枷か! 初めて本物を見た!

 と、喜んでいる場合ではない。実際につけるのは僕だ。まさか異世界にまで来て囚人になるとは思わなんだ。真面目にどうにかしてほしいよ……。


 鉄格子の小さな扉が開かれて、僕は牢へ頭を問答無用で下げられ、低い入り口に押し込まれ中に入れられる。

 抵抗などする暇もない。別にしないけど。

 今更抵抗したところで無駄な労力だし、体が痛くて抵抗する力なんて最初からない。

 僕が薄暗い牢屋に入れられると、ガッシャンと乱暴に扉が閉じられた。看守らしき獣人さんが何かを言っているようだが、意味不明だ。


 ──おや? ベッドがない。


 牢屋を見てまず最初に気づいたのは、他の牢屋にはあったベッドがなかった。

 なんだ? どう見ても他の囚人さんよりも待遇が悪い牢屋だ。そういえば囚人服も与えられないし、マッパ同然で放り込まれた。

 そんなに寒くはないけれども、この薄暗くてジメジメとした場所で、マッパ同然はどうかと思う。

 それよりもベッドも何もないってどういうこと? まさかこの敷物も敷いていない冷たそうな床の上で寝ろということだろうか。待遇悪すぎでしょ!

 そんな僕の気持ちを知ってかしらずか、看守らしき獣人さんは、「ふん」と鼻で笑いながら嫌味な笑みを顔に張り付けて去って行った。

 歓迎されていないのは一目瞭然だ……。


「……ぅ‼︎」


 そして、今更のように気づいた。

 どうやらこの牢屋にはもう一人収容されているようだ。先客というか先輩囚人さんである。

 薄暗い牢屋内の隅の方に蹲るようにしていたので気づくのが遅れた。

 看守らしき獣人さんを恐れているのか、もしくは寒いのか、体を小さく丸めて震えている。


「……う、ぇ‼︎」


 その姿を確認して僕は目を剥いた。


 ──え!? 女の人?


 そこにいたのは、()()の女性だった。

 なんと、初めて出会った人間が、囚人でした! それも女性。

 ちょっと待って、男性と女性は同じ房に入れていなかったよね? どうしてここだけ待遇が違うんだ?

 そう考えるが、看守らしき獣人さんの意図などわからない。

 とりあえずは同族らしき人種がいたことに少なからず安心した僕だった。


 ボサボサの長い髪の毛、髪の毛の隙間から怯えるような目で僕を見ている。

 この薄暗さにようよう目が慣れて来た僕の目に、その女性の姿が判明した。


 ──って、裸じゃん!


 薄汚れた肌で、最初裸だとは思わなかったが、間違いない。彼女は裸同然の恰好をしていた。


 なんと、先輩囚人の彼女は僕と同じくマッパ同然だった。

 縮こまっているので全体像は分からないが、おそらく今の僕と同じく、下半身の大事な部分だけ腰蓑のような物を装着しているようだ。


 年の頃なら幾つくらいだろうか……薄暗いし、髪はボサボサであまりよく分からないが、たぶん前の世界基準に当てはめると、10〜15歳の間ぐらいではないかと判断する。

 少女といっても差し支えないと思う。


 とにかく裸の少女以上に、同じ人種に出会えただけで僥倖だ。

 この世界にも猫の獣人さんだけでなく、普通の人間がいたことに少なからず安心した。いや、嘘じゃないからね。裸だから僥倖だなんて思わないし! だって髪はぼさぼさで、貞子みたいなんだよ。興奮条件にも満たないよ、ね……。


 ともあれ言い訳は済んだ。

 少女は終始部屋の隅で膝を抱え縮こまり、何かに怯えているように体を震わせている。

 まあ、どんな罪を犯してここに入れられたのかは分からないが、一人で牢屋に入れられるのは、やはり少なからず恐怖ではあるよね。

 僕も一人でこんな牢屋に入れられたなら、たぶんあんな風にビクビクすることだろう。

 先輩囚人、それも同じ普通の人間がいて、少しは落ち着いていられるようだ。


 とりあえず言葉が通じるかどうか分からないけど、話しかけてみるか。


「あ、あのぅ、ね、ねえ……」

「──‼︎」


 僕がそう声をかけると少女は、ビクッ! と極端に身体をびくつかせ、ヒュッ、と息を呑む音が聞こえた。


 ……ええーっ……そんなに驚くこと?


 それでもめげずに話しかける。


「……き、きみは、どうして、こ、ここ、に……?」


 未だ声が出し辛いが、なんとか言葉にはなっている。

 しかし少女は、今度は明らかに警戒の色を強くした。


「──ふーっ‼︎」


 と、ボサボサの髪の毛の間から覗く瞳を剥き、まるで猫のように威嚇してくる。

 なんか怒らせるような事言ったか? いや、普通に話しかけただけだよ。それも僕が得意とする低姿勢を心掛けて……。

 やはり言葉が通じないのか? もしかして今の挨拶程度の言葉のどこかに失礼にあたる単語が入っていたとか?


 それなら迂闊に話しかけられないではないか。


 あまりにも少女が怯えているので、僕はそれ以上話しかける事なく、少女と反対側の奥隅に移動し、おとなしくすることにした。

 とりあえず馬車での移動で疲れてもいるし、体の痛みもまだ全然取れないのだ。回復に努めよう。


 しかしどうしたものか……。

 言葉でコミュニケーションを取れないとなると、情報収集にも事欠く状態だ。結局はこうして流されるしかないようだが、少しはこの世界のことも知りたいと思うのは当然ことだろう。

 でも、既にこうして異世界に来た途端に囚人扱いだ。最底辺まっしぐらだよ……。

 このまま檻の中で一生過ごすのか? 異世界に来てまだ何もしてないよ……。


 無理ゲーというよりもクソゲーじゃないか。こんな世界になんで来たのだろうか。全く理解に苦しむ。

 神様とやらの戯れか? まるっきり不親切仕様じゃないか!


 僕をこの世界に送った何者かに向かって心の中で悪態をつくのだった。




 そしてひんやりとする壁にもたれかかると、僕はすぐに眠りについた。


 この先僕はこの世界でどうなるのか。

 そんなことも考えられずにただ眠るのだった。


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