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66話 古代遺跡の遺物

 僕、こと水口竜也は困惑する。


 目の前に日本語で印刷れた本がある。

 古代遺跡から発掘されたとされるその本は、いったい何を示唆しているのか。

 考えられる要因は4つ。


 1.僕のような転生者がこの世界の過去に転生していて、日本語を広め印刷できるまでの技術が過去にあった。


 2.物質転移などでこの世界に紛れ込んだ。


 3.宇宙を航行できるハイテクノロジーを持った何者かが、地球からこの惑星に運び込んだ。


 4.ここが元々地球である。


 その4パターンが漠然と思い浮かぶ。

 しかしよく考えればどれも信憑性に乏しいものだ。その最たる要因は、


「古代遺跡から発見されたというお話ですが、その古代文明とは、今からどのくらい前にあった文明なのですか?」

「そうですね、ハッキリとは言えませんが、数千年から数万年前に繁栄した文明であろうと考えられています」


 ハイネス奥様がそう言うと、旦那様も静かに頷いた。

 考古学的にそのような見解なのだろう。おそらくこの世界には放射性炭素測定などといった高度な年代判定機器はないのだろうから、予測的なものなのかもしれない。幅が大きすぎる。

 ということは、この本が古代遺跡から発掘されたというのは、途方もなく保存状態が良かったことになる。

 実際この手の印刷物、紙がどれくらい保存できるのかはよく分からないが、数千年から一万年もの間型崩れもせず、紙が捲れて文字が読めるだけ保存できるものだろうか? うろ覚えだが、確か普通紙で長くて200年とか、和紙で1000年ぐらいとか聞いたことがあるが、この本は普通紙に見える。

 よほど暗所で紫外線に当たることもなく、湿度も適度で酸素が極限まで少ない状態、カビなど菌類も繁殖しないような無菌状態、ともすれば真空パック状態とか、そんな状況下でなければ数千から数万年もの間残っているわけがない。


 その昔僕がまだ中学生の頃、田舎のばあちゃんのところに夏休みに遊びに行った際、雑木林に捨てられていた雑誌(エロ本)は、数ヶ月も経過していないのに、ページは捲れないくらいにベリベリに張り付き、表紙も紫外線で色褪せてしまい、カラーページは色移りがしていて読めたものではなかった。(根性で読んだが……)


 それを考えれば、そんな長い年数もの間、文字が読めるだけ保存できていたとは、とうてい考え難い。

 古代遺跡がどういった所なのか見当もつかないが、地上なら風雨などで間違いなく風化するだろうし、地下でも地下水とかがあるのだろうから、保存状態は劣悪ではなかろうか?

 となると、後から持ち込まれたというのが推測として妥当と考えられる。そうなれば2か3の案となるのだが、証明するものが何もない。


 だがここで、ござるの、いや、オタ友の声が思い出された。


『その世界は本当に異世界なのでござるか? 思い出すでござる……』


 軽い頭痛を伴いそんな言葉が頭に浮かぶ。

 僕は今の所ここは異世界だと思っている。目の前にいるのは猫の獣人だし、人間、ここでは裸猿と言われているが、その裸猿は前の世界の人間とは程遠い存在だ。

 それに気候も天候も何もかもが全く違う。ここが異世界でなくてなんなのだ?


 しかし記憶の奥底から聞こえてくるオタ友の声は、それを否定するような内容だ。


「その古代遺跡とは遠いいのですか?」

「そうですね。かなり遠い地で──」

「──お! タツヤ君も古代遺跡に興味があるのかね?」


 奥様の返事に被せて旦那様が身を乗り出して発言して来た。

 奥様はペシリと旦那様の太腿を叩きながら睨むが、気にした風でもない。


「ええ、これを見て少し確認したいことができました」

「そうか! ならば一緒に行こうか!」

「あなたが行けるわけないじゃないですか!」


 表情を輝かせて一緒に行こうと言う旦那様を、間髪を入れずに諌める奥様。


「いいじゃないか少しくらい……」

「少しではありません! 行くだけでもひと月ぐらいかかる場所なのに、領主の仕事を放っぽり出して行くというのですか!?」

「じゃあ、誰かに代理を頼んで……」

「代理になれるような方がいるのですか?」

「君ならできるだろ?」

「あなたは……」


 旦那様の意見に盛大に嘆息する奥様。

 言われているのが僕ではないにもかかわらず、背筋にスーッと冷たいものが走る。


「あなたの労力を減らそうと学校の校長までしている私に、そのうえ領主の仕事まで押し付けるつもりなのですか?」

「いや、君ならできるだろう、と思っただけだよ……」


 旦那様は恐々とした面持ちで言い澱む。


「分かりました。あなたがそのようにお考えでしたら、私はもう何も致しません。これ以上研究の邪魔はされたくありませんし、タツヤが行きたいと言うのなら私が連れてゆきましょう。その代わりあなたは、ちゃんと校長の仕事もお願いしますね」

「ええーっ! そ、それは……」


 これは離縁も考えたほうがいいかもしれませんね、と付け加えると、旦那様は顔を蒼くして謝り倒していた。


「旦那様も奥様も、もうその辺りで……僕が悪いのです、そうすぐにでも行きたいとかではないので、喧嘩はやめて下さい。ミルキーご主人様とも相談しない内に口走ってしまいすいませんでした。この話はなかったことにして下さい」

「いいえ、タツヤが悪いわけではありません。私の研究の時間を奪おうとした主人が悪いのです」

「ほんとーにゴメンなさいーっ‼︎」


 旦那様……弱いな……。


「ところで、この書物は何が書いてあるかタツヤには分かるのですよね?」

「あ、はい、何となくですけれど、印刷されている文字もある程度読めるので、おおよその見当はつきます」

「で? で? 何が書いてあるの?」

「そうですね……」


 2、3ページを慎重に捲り目を通す。


「ええと、これは専門用語が多いので、かなり難しいと思いますよ?」

「専門用語ですか? どんなことが書いてあるのですか?」


 奥様はキラキラと瞳を輝かせ、ワクワク顔で僕を見る。まるで子供のようだ。

 でもこれは……翻訳してもこの世界では使い道がなさそうな内容だね。


「これはとある機械のマニュアルのようです」


 何かのコンピュータの付属機器のマニュアルみたいな感じだ。特殊機器らしく、かなり難しい説明がなされている。


「機械の、まにゅうある、とは何ですか?」

「ええと、端的に言えば、手引書とか取扱説明書みたいなものですかね」

「取扱説明書、ですか……」


 そう聞いてもピンとこないのか、首を傾げる奥様。


「えーと、そうですね。例えばとある魔道具があって、その使用方法や基本性能の説明、それに故障した時の対処方法等が書かれている本、といったところです」


 そんな基本スペックやトラブルシュートの記述を解読したところで、この世界に無い機器の説明書など何の役にも立たない。


「なるほど、おおよそは分かりましたが、それがなぜ翻訳しても難しいと?」

「この世界に存在しない機械の使い方など知っても、意味がないです。言葉にしても専門的な言葉が多く使われているので、言語を学ぼうとしても普段ではあまり使わないでしょうし」

「その機械を作れないのですか?」

「いえ、無理でしょう。もし作れたとしても、これ単体では何の役にも立たないでしょうから」

「そう……残念だわ……」


 奥様は非常に残念そうに本を見詰めた。

 おそらくこれは大型コンピュータの付属品の説明書か何かだろう。それ単体では何の使い道もないものだ。

 僕が工業系の大学を出ているとはいえ、何もないところからこんな高度なものを作れる技術も頭もない。そもそも電気すらない世界だし無用の長物でしかない。絶対に作れるわけがないな。


 しかしなんでこんなものが古代遺跡からでてくるのだろうか。

 やはり何者かがこの世界に持ち込んだのか?

 だがいくら考えても今の時点で分かることは少ない。古代遺跡とやらに行ってみれば何かわかるかもしれないが、今すぐには行けそうにないので諦めるしかないだろう。


 ともあれ興味を惹かれたことは確かだ。オタ友の声も何かを示唆しているようだし、いずれ足を運んでみてもいいのかもしれない。


「その遺跡からはこの本しか発掘されていないのですか?」

「いえ、まだ数点あったはずですけど……あなた、どこに保管しているのですか?」

「ああ、王都の研究所でボクの研究チームが管理し研究しているよ」


 なんと数点発掘されたものがあるらしい。


「まだあるのですね。それらにもこの文字が書いてあったりするのですか?」

「ボクもまだ見ていないものがあるし、チームの報告では、違う文字が記されているものもあるそうだよ」

「なるほど……興味深いですね」

「タツヤ君も興味があるみたいだね?」


 僕が興味を持ち始めたので、旦那様もウキウキしだした。


「一度タツヤに見てもらった方がいかもしれませんね。この本がタツヤの世界の言葉で書かれている以上、タツヤがその遺物を見て何かが分かるかもしれませんよ」

「そうだね、時間を作ってでも見てもらった方がいいね」


 どちらにしても研究所も王都にあるらしいので、時間を見つけて見にゆくことになった。

 これも忘却している記憶に繋がりそうな気がするので、見てみるのも一興だと思う。何かの手掛かりになるかもしれない。



 こうして僕たちは、4日間の旅を終え王都へと到着するのだつた。


お読み頂きありがとうございます。

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