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49話 独白2 (ミッチェル)2

 結局は旦那様がお嬢様に籠絡させられました。


 お嬢様は旦那様へ、一緒に寝る権利をチラつかせ、賭けに出たのです。

 噂だけでは物足りなかった情報も、ジェイソンが直接語った内容の方がはるかに信用度が高いとお嬢様はお考えになったようです。


 これには旦那様もノリノリでした。まさか言葉を話す裸猿などいる訳がないだろうと高を括ったのでしょう。その時点ではわたくしもそんな裸猿はいるわけがないと思っていましたから当然でしょう。


 ですから旦那様は、親バカ丸出しの笑顔でその賭けに乗ってしまいました。

 お嬢様の思うツボでした。


 結局は裸猿二匹を買わされ、研究室までお嬢様に取られる始末でした。

 一緒に寝る権利に釣られさえしなければ、こうも損害を被ることもなかったのに。全く親バカなんだから、と同情する場面もありました。


 しかしここから苦労するのはわたくしです。

 なんと同時に二匹もの裸猿の面倒を見なければいけなくなるのですから、途方も無い苦労が今から目に見えるようでした。

 少しお暇を頂こうかしら。と、本気で考えた程です。

 しかしお嬢様の筆頭メイドとしては逃げるわけには参りません。他のメイドたちも嫌がっているのが見え見えですので、わたくしが面倒を見るしか無いのです……。

 お嬢様の信頼は、一手にわたくしにあるのですから……とほほ。


 と落ち込んでいる暇もありませんでした。

 苦労を覚悟していたわたくしは、とんでもないものを目の当たりにしてしまったのですから。


 ──えっ? なんか喋ってる!

 ──嘘! 服着てるし!

 ──テーブルで餌を食べてる!

 ──スプーン使ってるし!

 ──食器を割らない!

 ──コップで水を飲む!

 ──ちゃんと片付けてる!

 ──布団で寝てるし!


 翌朝。


 ──部屋が綺麗!

 ──ベッドメイクしてるし!

 ──臭くない!

 ──雌が綺麗になってる!

 ──え─────────っ‼︎ わたくしの名前を口にした‼︎


 わたくしは目眩がしました……。

 どんな冗談でしょうか?

 下等生物で有名な裸猿の行動とは到底思えませんでした。

 わたくしは二匹もの裸猿を躾しなけらばならないと、途方もない苦労を考えていたのですが、それ以上に精神的に苦悩することになったのです。

 全く手のかからない裸猿なんて、あり得ない。どこか化け物を見るような気がしたのです。

 言ってみれば、野良猫が自分で服を着てスプーンで食事を摂り、教えてもいないわたくしの名前を口にしたようなものである。全く理解に苦しむ。

 げに恐ろしき生き物かな……そんな強迫観念に駆られるのでした。


 裸猿が名前を持っていたことにも驚きです。

 雄はタツヤと名乗り、雌はマロンというらしい。

 賢いのは雄のタツヤでした。雌のマロンは今までと同じような裸猿のような気もしないでもなかったのですが、タツヤがそばにいるだけでどこか他の裸猿とは違って見えました。

 現に余り怯えなくなって、暴れなくなったのです。それに危惧していたようにすぐ死ぬこともありませんでした。

 きっとタツヤと一緒にいる環境が、マロンを精神的に安定させているのだ、とお嬢様は確信しているようでした。


 そうして忙しなくもマッタリとした日々が流れてゆくうちに、わたくしもタツヤとマロンに愛着のようなものが湧いて来ました。

 タツヤが最初何を考えているか分からずに警戒していたのですが、その柔らかい物腰と、真剣に勉強に取り組む姿勢を見て、わたくしは信用することに決めたのです。

 お嬢様は早々から信用していたみたいですけど、やはり得体の知れない下等生物が、何をしでかすのか警戒するのは当たり前でしょうから。


 しかしタツヤはほんとうに真面目で真摯な裸猿でした。

 言葉を理解した時には驚き以上に怖くなったほどです。おまけにマロンまで少しずつ言葉を口にするようになりました。


『ミーチェ、ルゥー、あーと、いて、だく、ます!』


 餌を与える時にそう言われては、微笑ましい気持ちが湧いてくるものです。

 わたくしも一緒になって、マロンに言葉を教えるのが日課になってしまいました。

 それと、体力をつけるための訓練をお嬢様から依頼され、喜んで引き受けたのです。



 そして悪夢の時が訪れました。


 屋敷に賊が押し入り、タツヤとマロンを攫われてしまったのです。


 これは完全にわたくしの失態です。

 明らかに体力のないタツヤをしごき過ぎた結果です。

 申し開きもありません。


 なぜかマロンよりも体力のないタツヤに、どうしても並ぐらいの体力をつけたかったのです。

 もしかして体力がなくて死んでしまったりしたら、今度こそお嬢様が悲しまれる以前に、気力もなくしてしまうのではないかと考えたのも原因です。

 わたくしもこれまでの経過でタツヤを見て来ました。だから死んでほしくなかったのです。

 体力をつけ、ちょっとやそっとでは死なないように鍛えたかった。ただそれだけだったのです。


 しかしそれが裏目に出てしまいました。

 タツヤとマロンは攫われ、そしてタツヤは戻って来ましたが、今にも死にそうな状態です。


 わたくしのせいです……わたくしがあそこまでしなければ、きっとタツヤ達を逃がせたはずなのです……痛恨の極みです。

 そして未だにマロンは帰って来ていません。


 お嬢様は気にするなと言ってくれましたが、わたくしはそういうわけには参りません。

 わたくしの失態でタツヤを死の淵をさまよわせ、マロンは攫われたままなのです。

 もしタツヤの命が繋がったとしても、マロンがいないことを知ったタツヤはどう考えるでしょうか。

 きっと失意の底に身を置き、他の裸猿同様精神を病んで死んでしまうのではなかろうか。

 そんな予感がわたくしを苛みます。


 だからわたくしは決心したのです。



 攫った賊を見つけ出し、必ず捕まえてやる、と。


お読み頂きありがとうございます。

またレヴューが付いた! と思ったら、奇妙なレビューでした……消した方が良いですよね?


皆様のお陰で初めて総合ランキングに載ることができました。ありがとうございます。(とはいっても下から数えた方が早いですけど)<(_ _)>

よろしければ、ブクマ評価頂ければ嬉しいです。よろしくお願い致します(/・ω・)/

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