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46話 生きなさい! ★

レビュー頂いたので、追加投稿いたします。

 広間での話し合いがお開きとなり、後片付けや新たに父や母が相談を始め、各々行動を始めた。


 私は着替えてからタツヤの部屋へと戻った。

 タツヤは相変わらず血の気の引いた真っ白な顔でベッドに横になっていた。目を覚ます気配もない。


「私が代わります。あなたは仕事に戻りなさい」

「いけませんお嬢様。こういった仕事はわたくし達にお任せください」


 タツヤを看ていたメイドに私が交代すると告げるが、メイドは私に任せようとはしない。


「いいのです。私がみていたいのです」

「そ、そうですか……」


 私が強く言うと、メイドは渋々折れた。

 水と流動食の入った皿をテーブルの上に置き、部屋から出て行った。


「……タツヤ、頑張りなさい。マロンは必ず助け出します。ですがあなたが死んでしまったら、マロンも死んでしまいますよ? それでいいのですか?」


 私はタツヤの手を取りながらそう言って聞かせる。手がとても冷たい。

 マロンを救い出せたとしても、タツヤがいなければ、きっと今までの裸猿と同じようにマロンは精神を病んで死んでしまうだろう。だから死なせない。まだやりたいこともたくさんあるし、異世界の話だってまだわずかしか聞いていない。タツヤは私に協力してくれると言ったのだ。協力してくれるって……。


 水分と栄養分を溶かした流動食を、スプーンで少量ずつ口に運んでやる。

 なんとか飲み込めているようだ。

 呼吸は安定してきたが顔色は未だ悪く、いつ心臓が止まってもおかしくない状況だ。

 しばらく様子を見ていると部屋がノックされ、ミッチェルを先頭に母とキャンディーが入ってきた。


「ミッチェル、怪我も治ったばかりで本調子ではないでしょう? あなたは早く休みなさい」

「いいえ、お嬢様がお休みになられないのに、わたくしが先に休むわけにも参りません。お嬢様こそお疲れの御様子です。湯浴みの準備も整っておりますので、お疲れをとり早めにお休みになられなければ、明日に差し支えます」

「ええ、でも、もう少しだけ……」


 私が目を離した隙にタツヤの命がその体から零れ落ちそうな、そんな気になって目を離したくない。


「ミルキー、ミッチェルの言う通りですよ? パパに一日の猶予を頂いたのでしょ? でしたらそれに向けて英気を養うのも今の貴女には必要なことです。睡眠不足でいい仕事などできるのですか? マロンを攫い彼をこうした犯人を捕まえるのでしょ?」

「はい、お母様……」


 母が私の横に来てそう言う。

 母も我が家に押し入った賊と、それを依頼したであろう黒幕を許せないのだろう。研究をしている時のような厳しい表情をしている。

 ミッチェルが怪我を負わされ、タツヤとマロンが攫われ、タツヤが帰ってきたはいいが、瀕死の状態。マロンは未だ戻らない。

 ここまでされて怒らない方がおかしいだろう。


「それにしても、危険な状態のようですね」


 母はタツヤの首の辺りに触れ、体温と脈拍を調べてそう言った。


「ええ、血液が足りてないのでしょう。体温が低く、危険な状態が続いています」

「水分は摂れているのですね?」

「はい、少量ずつなら飲み込めるようです」

「では、これとこれを薄めて与えなさい」


 母は二本の小瓶を私に手渡してくる。


「これは?」

「強心薬と回復薬です」

「えっ!? そんな高級な薬品をタツヤに……よろしいのですか?」


 強心薬とは、よく騎士や兵士が戦いの前に飲む薬である。一時的に身体能力を上げるような、そんな薬だ。心拍数が少し上がり、身体の機能が若干向上する。

 回復薬は、名前の通り身体を回復させるための妙薬である。しかしその薬効成分は入手しづらく、回復薬はあまり出回っていない。もちろん金額も箆棒に高い。一本で裸猿を数十匹買えるような値段である。


「しょうがないでしょう? 彼が死ぬ方が損失は大きいと考えるのなら、これくらいの投資は研究者にとって安いものよ。おそらく彼は今後二度と現れない特別な個体になるのでしょ?」

「はい……」


 同じ個体が二度と現れないのは、どれも同じだが、タツヤはそれ以上に貴重な存在だ。

 何と言っても異世界の記憶を持ったままこの世界に存在しているのだから。


 しかし、問題は強心薬である。

 健常者が使用する分には問題ないだろうが、弱り切った状態のタツヤには負担になり兼ねない。


「しかしお母様、今強心薬を使うとタツヤの負担になるのでは?」

「そうですね、もしかしたら心臓がその負担に耐えられないかもしれません。ですがこの状態ではそう長く持たないのも事実です。既に血流が滞り、末端部分の細胞が死にかけています。壊死する前に何らかの手を打たねば、もしも死ななかったにしても、脳にまで障害が残る可能性がありますよ?」

「……」


 確かにその通りだ。手や足の指先から冷たくなり紫色になってきている。血流が滞っている証拠だ。生物学的には、身体が危機に陥ると脳を最後まで保護しようとして、末端部の血流から遮断してゆく身体的機能がある。それが始まっている。

 それに死ななかったにしても、脳にまで障害が残ったら、何の意味もない。


「これは賭けです。強制的にでも心拍数を上げ、少ない血流を巡らせる。そして回復薬で内臓機能を十全に働かせ、血液を増やすしか方法がありません」

「そうですね……タツヤの生命力に賭けるしかないのですね……」


 私は母の提案を受け入れることにした。

 とりわけ虚弱な裸猿には無謀な投薬になるかもしれないが、ただ指を咥えてタツヤの死を待つよりはましだろう。そう考えることにした。


「ミッチェル、お願いします」

「畏まりました」


 私はミッチェルに薬を渡し、タツヤに飲ませるようにお願いした。

 水に薄めてから少量ずつ、飲ませる。


 しばらくすると、鼓動が少し力強くなり、わずかばかり血色が戻って来た。

 私は少し安堵した。しかしまだ予断は許されない状況には変わらない。薬の効果で一時血色が戻ったにすぎないのだ。


「ふう、これで様子を見ましょう」

「そうですね」


 母も一頻り安堵の溜息をついた。


「あら? これは何のノートかしら?」


 母はタツヤの枕の下に何かを見つけたようだ。


「それは、タツヤにあげたノートですね。日記を書くと言っていましたが」

「そう、日記ですか……」


 母は枕の下からタツヤのノートを引き出し、ぺらり、とノートを捲り始める。


「お母様、他人の日記を読むなど、悪趣味でしてよ?」

「……こ、これは!」


 私がタツヤの日記を読み始める母を窘めると、母は私の声など耳に入らないかのように驚きの声を上げた。


「お母様どうかなさったのですか?」


 その様子を見たキャンディーが母に尋ねた。


「ミルキーもキャンディーも、この日記を見たことはないのですか!?」


 母は目を丸くして日記を私達の目の前に広げて見せた」


「はい、タツヤの書く記号は意味も分かりませんでしたし、タツヤも見せたがらなかったので、見ていませんでした」

「わたしもです」


 メモ用紙に勉強していた時の記号で書いているようだったので、興味も湧かなかったというのが本心だが。


「この文字に見覚えはないのですか?」

「……?」


 確かにどこかで見たようなことがある記号だとは感じたが、どこで見たか思い出せなかったのは事実だ。


「どこかで見たことはあると思うのですが、定かではありません。というよりもそれは文字なのですか?」

「ええ、これは古代文字の一つです。未だにその意味すら解明できてない文字です」

「えっ? 古代文字?」


 古代文字とは、古代遺跡から発掘された遺物に、時折文字らしきものが見つかることもある。それを古代文字といっている。多種多様な文字があるので、未だに解読できている文字はないに等しい。

 その中でも最近発掘された遺物の中に、タツヤが書いたものと似たような文字があると母は言った。

 そうか、そういえば以前父と母の研究室でそんな遺物、本のようなモノにそんな文字らしきものがあったことを思い出した。


「この文字を書くということは、この文字を読めるということですよね?」

「たぶんそうです。読めなければ書かないでしょうし、こちらの言葉を勉強している時も、こちらの文字の横にその文字で注釈みたいなのを書いていましたから──ミッチェル、そこの本棚からタツヤが文字の勉強をしていた時、メモを取っていたノートを持って来てちょうだい」


 タツヤが勉強を始めてからこの部屋に本棚を設置した。

 そこには数十冊ものタツヤが勉強のために単語をメモしたノートがあるのだ。


「奥様、こちらです」


 数冊のノートを母に手渡す。


「ん? んんん? こ、これは……」


 母はノートをペラペラとめくりながら唸る。


「す、素晴らしい‼ これは驚くべき内容です‼ 大発見です‼」


 母はノートを抱きしめて立ち上がってそう叫ぶ。


「どうしたのですか? そんなに驚くことですか?」

「これは益々彼を死なせるわけにはいかなくなりましたよミルキー! わたしのメイドも張り付かせて寝ずの看病をさせましょう!」


 そう言うと母はミッチェルに自分のメイド数名を呼んでくるように頼んだ。

 私の質問などもう耳に入っていない。

 床にドカリりと座り直し、テーブルにノートを拡げ、


「なるほど……この文字の意味がこの単語ということなのね……ふむふむ……で、これがこの単語と……これは発音を意味しているのかしら? ……うん、研究の余地ありね……」


 などと没頭し始める。研究者の血がそうさせているかのように……。


「お、お母様、ですから何がそんなに驚くべき……」

「静かになさい! 今いい所なのです‼」


 再度質問すると怒られた。昔よく研究の邪魔をして叱られたことがあるが、その時と同じだ。研究の虫になっている。


「お姉様、お母様がああなってしまっては、なにも耳に入りません。ここは諦めて落ち着くまで待ちましょう」


 妹のキャンディーが苦笑いをしながらそう言った。


「そ、そうね」

「お姉様、わたし達も明日やらねばならないことがたくさんあります。ここはお母様とメイド達に任せ、わたしと一緒にお風呂に入って早めに休みましょう」

「そうね……少し心配ですけど、そうしたほうが良さそうですね……」


 キャンディーの言うことは正論だ。明日一日で何かしらの証拠を集めなければ、王までこの騒ぎが伝わってしまう。そうなれば益々厄介な事が増えるだろう。

 できれば、内々で片がつけばいいのだろうが、それにしても証拠が足りなすぎる。

 本当にゲイリッヒ侯爵が赤猫盗賊団を使って仕出かしたことが確かなら仕方がないが、どうも引っかかることが多い。何か別の勢力がゲイリッヒ家と私達を貶めようとしているような感じにも受け取れる。

 ここは慎重に行動しなければ、全てにおいて失敗しそうな気がする。マロンも取り返すことができなくなり、ゲイリッヒ家の強い恨みも買いかねない。それと同時に王都で騒がれ、マロンは問答無用で王都の研究室に取り上げられる可能性だってあるのだ。

 そんなことはさせない。そもそもマロンはタツヤがいなければおそらく長くは生きられない。予測では五日以内に探し出さなければ、マロンの命も危ぶまれるのだ。

 その為には明日中に何らかの手を打たねばならない。


「ではここはお母様に任せて参りましょう」

「そうね……」



 私とキャンディーはタツヤの部屋を後にし、明日に備えて早めに休むのだった。


ミ「タツヤ! 大変よ! またこの物語にレビューが貰えたわよ!」

タ「ほ、本当ですか、ご主人様!?」

ミ「ええ、裸猿のタツヤが認知されつつあるわね! 頑張った甲斐があったわね!」

タ「はい! 辛かったです、苦しかったです、痛かったです……」

ミ「でも、安心するのはまだ早いわよ! これからが勝負なんだから」

タ「はい!」

キ「ヤーっ! タッ君やったね!」

タ「ありがとうございますキャンディーお嬢様! これでランキングという世界に浮上できるのですね!」

キ「まだ甘いよタッ君! まだポイントが少し足りないよ! ここからの踏ん張りが大切なんだよ!」

タ「ハイ! 読者のみんな! みんなの力がもう少し必要なんだ! 僕にもう少しだけ力を分けてください‼ 最終話下部に評価欄があるんです! そこをぽちっとしてください! それで僕はランキングというまだ見ぬ大海原に旅立てるのです! よろしくお願いします!!」

ミ、キ「「よろしくね~♡」」

マ「ターチャ!」


一日に二つのレビュー、本当にありがとうございます<(_ _)> 

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