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36話 モブ確定?

 結論から言おう。


 僕はこの世界で最底辺の存在だった、と結果が出てしまった。


 魔力量が最低だったのはいうまでもなく、体力まで最低以下だった。

 平均以下ではありません。最低以下ですから。


 魔法に関しては魔力量と属性の測定を行ったが、魔力量が御主人様ですら初めてみるほど最低だった僕は、余りにも魔力が少ないようで属性すら判別がつかなかった状態だった。

 微かに属性を検知する魔石が光ったような気がしたが、どう見ても気のせいだった。

 マロンが属性判定をした時には、光と風の属性が煌々と光っていたので、僕の時はなにも光っていなかったと判断するしかない。


 ご主人様の話では、マロンに最初から二つの属性に適性をもつのは、非常に珍しいケースだと言っていた。ご主人様の知る限り、獣人でも複数光るのは珍しいということだ。

 一応それぞれ明暗の差はあるが七つ全部の魔石が光り、そのうちの最も輝く魔石が、自分に合った属性らしい。

 マロンはその最も輝いている属性が二つもあったとさ。

 僕にはなにも光らない……。


 ──あーもうっ! どんどんドツボにはまってゆく感じがするんだけど‼ なんなの? 異世界ってどこまで僕に厳しい世界なんだ?

 だが無いモノは仕方がないのだ、無い物ねだりをしても途方に暮れるだけ、前を向こう!


 よし! 魔法はダメだったが、体力測定が残っている。それに期待だ!


 はたして僕は体力測定に期待を込めて臨んだのだ。

 しかし、先に結果を述べておこう……僕はあえなく撃沈した……そう、撃沈。


 体力測定とは、身長、体重、各部位の筋肉量をまず測定し、それからその数値に見合った力が出せるかどうか、を測定するらしかった。

 筋肉量を測定するらしい魔道具があることには驚いたが、僕はこの体の年齢的に標準並みの筋肉量だと結果が出た。


 そして各種力の測定に入る。


 握力、背筋、垂直跳び、反復横跳び、瞬発力、打撃力、キック力、諸々を計測し、筋肉量と照らし合わせて、どれほどの「神の補正」が掛かっているのかをはじき出す。ということらしい。


「タッ君、結論から言うわね……」


 キャンディーお嬢様は、少し期待外れ感が滲み出した表情でそう切り出した。


「タッ君の筋肉量的には、平均的な力か、それより少しだけ高い数値を出せなければいけないのだけれども、結果は平均値を大幅に下回っています……」

「えっ……?」


 平均値を下回る、それも大幅に。

 それを聞いた僕は愕然とした、かと言えばそうでもない。その結果は明らかに自分自身で分かってしまっていたからだ。

 なんの測定をしてもマロンよりもできないし、おまけに鈍臭い。

 握力なんかマロンの半分以下の握力しかなかった。単位がkgかどうかはわからないが、こちらの世界の単位で、マロンが60、僕が23ってどういうこと? まるで前世の女の子並みの握力しかないって、これで男子と呼べるのか?

 この年齢ぐらいの男子なら、平均でも40kg以上はあるはずだ。僕が前世の高校一年の時の体力測定では、握力は確か52kgぐらいはあったはずだ。背筋では160kgぐらいだったと思う。(高校デビューしようかと考え、少し鍛えた。結果はオタク仲間しかできなかったが……)

 マロンが背筋230で、僕が90ってどういうことだろう。

 見た感じの筋肉量でも、僕の方がマロンよりも勝っているのに、その実、力の出せる割合が全く異なっている。


 これは神の補正がマロンに掛かっているのか、逆に僕に神のマイナス補正がかかっているかのようだった。いや、実際にそうとしか思えない。それでなければ、見た目で筋肉の少ないぽよんぽよんの女子の二の腕のマロンに負ける要素などない。


 俺が本気で力を出しても、訳もわからず平然と測定しているマロンに負ける悔しさたるや、筆舌に尽くしがたいものがある。


 解せぬ……。


 僕は魔法も体力も最底辺の裸猿。

 なんかもう異世界なんて滅んでしまえ! と言いたくなるような気さえしてきた。

 そうやって恥も外聞もなく落ち込んでいると、ポンポン、とキャンディーお嬢様に肩を叩かれる。


「でもタッ君! これはチャンスよ!」

「チャンス、ですか?」


 なにがチャンスなのかもよくわからない。キャンディーお嬢様の研究のチャンスなだけではないかと内心思う。


「そうよ! 想定の力も出せない筋肉が、どんなことをすれば神の補正を受けられるのか。細かなデータが取れるじゃない」

「は、はぁ……」


 やはりキャンディーお嬢様の研究のチャンスだった。

 ちなみにご主人様とキャンディーお嬢様の体力測定の数値を聞いてみたところ、僕よりも数倍も数値が高かった。ご主人様は学校で騎士科という学科もトップクラスの実力を持っているらしく、剣の腕もとても優秀だという話だ。キャンディーお嬢様ももちろん幼い頃からご主人様を目標にしているようなので、年齢の割には強いらしい。


「まあタツヤもそう落ち込まないで。私も協力するから、一緒に頑張りましょう!」


 ご主人様も僕を励ましてくれる。


 確かにこの結果に関していえば愕然とするしかない。

 しかしこの世界に来てからここに至るまで薄々感じていたはずだ。この世界は僕にとって厳しい世界なのだ、と。

 いきなり血塗れで崖の下で目を覚まし、死にそうになって森を彷徨い、そして奴隷になってここに至る。少しも救われるところがなかった。強いて言えば、優しいご主人様に拾ってもらえ、今も生きている。それが最大の救いだろう。


 たんに僕の理想の異世界像ではなかったのが大いに残念なだけで、本来の世界とはこういったものだろう。

 仮に異世界でなくとも、元の世界で突然マッパで一人、アフリカ大陸のど真ん中に放置されたら、きっとここのように厳しくも過酷な人生が待ち受けているはずだ。間違いなく死ねる自信がある。


 僕はラノベやアニメといった架空の物語を想定していただけに過ぎないのだ。神様や女神様から現実では考えられない力を貰い、異世界を謳歌する物語。(現実の自分は無信心者なのにね)

 だがそんな甘っちょろい現実は前世同様、異世界にもなかった。何故ならこれは物語やゲームなどではなく、現実なのだから。

 結局僕は無条件に理解するしかない。僕はこの世界でも前世同様主人公キャラでなどではなく、だだのモブ的存在でしかない、と……。

 よほどご主人様の方が主役っぽい。頭は良いし、魔法も剣も優秀、それに若くして研究者としても活躍するスーパー猫娘。なおかつ貴族のお嬢様とくれば、文句のつけようもない。

 強いていえば、マロンも主人公枠になる。最底辺の裸猿が実は凄かったんです! みたいに、物語の中心人物になりうる要素を持ち合わせている。


 モブ。僕にピッタリな良い響きだ。モブの僕はこの異世界でも謙虚に生きるのだった。(最終回?)



 ただこの世界には魔法もあるし、神の補正とやら謎めいたものもある。

 故に努力すれば報われるではないが、地道に生きていけば、それなりに僕だって力をつけられるかもしれない。それにそれらを研究している姉妹が目の前にいるのだ。

 それなりにアドバンテージはあるのではないか? いっしょに研究(僕はモルモット的な存在だが)に携わり、効率的な神の補正とやらを授かる方法を発見すれば、それこそ最底辺からの脱却も夢ではないかもしれない。

 奴隷なのはさておき、幸いにも体は若くなっているし、人生これからだと思えばどうってことないだろう。


「はい、ご主人様とキャンディーお嬢様のご協力があれば、僕も普通ぐらいにはなれそうな気がして来ました。研究の一助としていただければ幸いです」

「うんうん、相変わらず謙虚ね。でもあまり無理はさせられないわよ? 基本的に裸猿は虚弱で、すぐに死んでしまいますから。いくら異世界からの転生者とはいえ、無理は禁物ですよ」

「はい、心に留めます」

「あーぃ!」


 ご主人様の注意事項に僕とマロンは真摯に返事を返す。

 マロンは意味が分かっていないようだが……。


「では今日はこれでお開きにしましょう。明日からは午前中はミッチェルと、軽い訓練からから始めてみましょうか」

「頑張ってねタッ君!」

「はい!」


 ご主人様とキャンディーお嬢様は、眩しい笑顔でそう言った。

 キャンディーお嬢様などは可愛く拳を握り両腕を振って応援している。なんか癒される。


 明日の午前中、ご主人様は学校に登校するらしく、本格的な研究は午後から行うらしい。

 午前中はメイドのミッチェル様が、僕たち二人に、何らかのトレーニングを用意させるという事だ。

 軽い訓練がどれだけ軽いのかは未知数だが、虚弱な僕が死なない程度にお願いします。


「それとタツヤはマロンに言葉をしつかりと教えてくださいね。タツヤは異世界の記憶は持っているけど裸猿の生活の記憶がないでしょ? マロンは裸猿の生活を送っていた記憶があるはずだから、言葉を覚えたら裸猿の生態が詳らかになるでしょうから」

「はい、了解致しました。しかしそう早くは覚えられないかと思います。今も少しずつではありますが、聞いた言葉を理解して来ている節がありますので、気長に耳から覚えてゆくのが良いかと愚考します。もちろんこれまでよりも話し掛ける頻度を上げて、多くの言葉を理解させてゆきたいと思います」

「ええ、それで良いわ。お願いね」

「はい」


 マロンの教育係決定です。



 そしてモブ枠の僕は、翌日からミッチェル様の訓練とマロンの言葉の勉強、それとご主人様とキャンディーお嬢様の研究も始まるのだった。


お読み頂きありがとうございます。

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