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34話 実験前のひと時

「ターチャ! ターチャ!」

「ん? どうしたの、マロン?」


 僕がベッドの端に腰掛けて本を読んでいると、暇を持て余したのか、マロンが僕の名前らしきものを叫びながら、横に座ってくる。座るというよりは頭を突き出してくる。


「うー、マーロ、かみ、なでなでー」


 きっと髪の毛を梳かして欲しんだと思う。

 最近は毎日僕が梳かしているので、癖になっているのかもしれない。

 言葉も徐々にではあるが理解しようとしている。

 マロンは自分のことをマロンだと完璧に理解しているようだが、まだ自分のことを「マーロ」としか発音できない。残念ながらあと一歩だ。


「分かったよ。どれどれ」


 仕方がないので読みかけの本を置き、髪の毛を梳いてやる。


「はぅ〜」

「おいおい、少し近すぎるよ……仕方ないなぁー」


 気持ちよさそうな声を出しながら、僕の膝の上に頭を乗せてくる。近いというよりも接触している。これでは髪を梳かし辛い。


 昨日ミルキーご主人様から、裸猿の生態を少しは聞いた。

 裸猿は、群れの結束だけは強いようで、同じ裸猿同士でも違う群れとでは、あまり仲良くないそうだ。

 故にマロンがこうも早く他の群れの個体と慣れ親しむ姿は、とても珍しいケースだと言っていた。

 毛繕い(グルーミング)は、親兄弟間か番いでしか見せない行動らしい。


 やはりこの行動は毛繕グルーミングいということだ。

 というか親子? 番い? マロンはそこまで僕に気を許しているということなのだろうか。


『ぎゅふゅふゅ、竜也氏! 3次元の嫁ゲットでござるな! うらやまおめでとうでござる!』


 脳内オタ友のそんな声が聞こえてくる。


 ──うるさいよ! まだ嫁でもなんでもないし! そんなに羨ましいならお前も3次元嫁はよ見つけろ!


『フゥ〜、竜也氏、それはもう無理でござる。拙者、既に〇〇様と〇〇神宮にて婚姻の儀を済ませているでござるよ』


 ──えっ‼︎ マジですか⁉︎ あの噂になっていた2次元アイドルと結婚したという超キモオタはお前だったの?


『ぎゅふ、拙者の嫁は、3次元のように裏切らないでござる。いつだって若いまま、拙者の嫁として死ぬまで連れ添ってくれるでござるよ。永遠の嫁にござる!」


 ──………………ええと、キモい以前に、君、チョット頭おかしいんじゃない? オタクといっても、そこまではちょっと引くわー……。


『何を申すか竜也氏! 竜也氏こそ異世界なんぞに行って、獣人をモフるのが夢だと言っていたではないでござるか。その夢が実現したのと、拙者が嫁を迎えたのと、どこが違うでござる!』


 ──あ、いや、すみません……言い過ぎました。でもそれは、たんに偶然にも夢が叶っただけであって、その現実は想像以上にシビアな世界だよ? 神様とやらから特殊な能力もなにももらえていないようだし、なんてったって気づいたら囚人から奴隷だよ、奴隷。それもここでは人間は動物以下の存在だよ? それにご主人様は猫の獣人だけど、モフれるわけもないじゃないか……。


 現実はかくも厳しいものなりけり……。


 そんな脳内一人芝居は置いておこう。


 まあ、マロンがあの監獄で檻の中に何日閉じ込められていたのかは不明だが、よほど怯えていて心細かったということだろう。最初は僕も警戒されていたけど、僕が同じ種族だったので、その寂しさを埋めようとしていたのかもしれないしね。

 トイレの使い方を躾けられ、覚えるだけの期間は檻の中にいたと考えられる。物覚えが悪いといわれている裸猿の生態では、一日や二日ではないはずだ。

 まあ妹枠的存在として、マロンは定着しつつはある。


 どうもご主人様の話に依ると、裸猿は群れから引き離されると、そう長くは生きないそうだ。

 ご主人様曰く、寂しさがストレスになり精神的に病んで、すぐに死んでしまうのだとか。


 ──寂しくて死ぬなんて、兎かよ!


 と思わなくもなかったが、ご主人様が今まで研究した裸猿は、概ねそんな感じだったらしい。

 あの監獄で僕と出会わなかったら、マロンはもう死んでいたかもしれない。


 そう考えると、どこか愛おしく思えてくるものだね。

 僕はマロンの髪の毛を梳きながら、そんなことを考えた。




 さて、午前中は読書の時間として自由に過ごしている。

 ご主人様は、久しぶりに学校へ行くと行っていたので、午前中は研究もないそうだ。その代わり数冊本を貸してもらい、この世界のことを勉強中なのだ。

 知識があるないで、この先僕の運命が大きく変わるかもしれないからね。なるべくこちらの世界のことを頭に入れておこうと思っただけだ。


 かといって、今の最底辺にいる僕が、この世界でなにができるかなんて考えることもできない。ラノベの主人公のように、世界を救う使命が、とか、異世界で成り上がるんだ、みたいに、壮大な夢を見る現実でもない。

 なんの力も持たない以上、この世界で生きて行く上で必要なのは知識しかない。もっともご主人様の庇護があればこそ、という前提はあるが、この先世の中をうまく渡って行くためにも、いろいろなことを知っておくべきだと考えたのだ。


 確かに特殊な能力はなにもない。けれども今日これからご主人様が行ってくれる研究で、その真価がわかるかもしれないと思うと、若干の期待をする僕がいる。

 魔力測定と体力測定、なるものを実施するらしい。

 もしかしたら膨大な魔力を隠し持っているかもしれないし、未知の力やスキルなんかを持っている可能性だって否定はできないだろう。なんてったって異世界からの転生者なのだから、そんなチートもある可能性にかけてもいいよね?(まだ諦めてない)


 期待に胸膨らませる僕である。



 そうそう、この間初めて鏡らしきものを発見した。

 長く伸びている髪の毛を切りたいと言ったところ、ミッチェル様が鏡らしきものを持ってきたのだ。

 ガラスのようなものが少し透明度が低いようで、鏡として使えなかったのかどうかはわからないが、その鏡は金属を磨き上げたようなものだった。

 銅鏡とかそういった類かもしれない。


 そこに映し出された自分の姿は、とても幼く見えた。

 もっとも記憶にある前の姿が30間近のおっさんなので、それも仕方がないと思う。

 見た目は前世の記憶と照らし合わせると、15歳くらいだった。ご主人様にも聞いて見たのだが、だいたい同じような答えが返ってきた。マロンもおおよそ僕と同じくらいの年齢だろう。

 ちなみにミルキーご主人様は16歳だそうだ。まあそのぐらいに見える。

 それとキャンディーお嬢様が10歳。10歳にしてはしっかりとしているように見えたが、貴族という家柄がそうさせているのかもしれない。

 ついでにメイドさん然りとしたミッチェル様は28歳だそうな。元の僕のひとつ下とは思えないほど若々しい。

 僕が老けていたともいうが……以前の僕なら告白したかもしれない美人さんだ。まあ振られるのが関の山だろうけど。


 鏡で見た僕の顔は、うん、まあ、まあまあ? そんな感じだろうか。ダークブラウンの髪の毛と同じような色合いの瞳、まだ若々しい張りのある肌、少し太めの眉はどこぞの原住民を連想させるが、眉毛がつながるほどそこまで毛深くもない。高くもなく低くもない鼻、唇は薄くて自分で言うのもなんだが、可愛らしい口かもしれない。

 額に大きな傷跡が残っていた。回復魔法でも傷跡は消せないようだ。魔法の万能性はこの世界にはないのかもしれない。しかしもっと優秀な治癒師とかなら傷跡や、もしかしたら欠損部位まで再生できるのかもしれないし、要検証か。

 額の右上から左眉まで見た目の悪いギザギザの傷跡があり、自分で見てもとても痛々しかった。こんな大きな傷でよく生きていたな、ぐらいのレベルだ。

 まあ顔の見た目はそんなに悪くはなかったのでホッとしたのは事実だ。

 前の世界でパッとしなかったオタク向けな顔よりも、数段見栄えは良い。


 ちなみに髪の毛は自分で切った。目にかからない程度に前髪を揃え、後ろは見えないので、邪魔にならない程度、適当にザックリと切った。

 今度床屋があるようなら、きちんと切ってもらいたいものだ。

 ついでにマロンの前髪だけ揃えておいた。後ろは長くても良いだろうし、縛り紐があれば僕好みのポニーテールもできるし、ツインテールだってできる。見た目が可愛いからきっと似合うと思う。今度やってみよう。

 出会った当初は貞子と思うほどだったが、身奇麗にしただけで変わるものだ。


 ちなみにご主人様にハサミを借りたら、ミッチェル様が鞭のようなものを手に戦々恐々としていたことは余談である。ハサミを武器として襲いかかると思っていたらしい。ミッチェル様には、まだ全面的には信用されていないようだ。

 まあ、ご主人様の身の安全を最優先にしているのだけは間違いない。有能なメイドさんみたいだ。



 お昼の餌を頂いた僕達は、久しぶりにゆっくりとお昼寝をして、夕方ご主人様が呼びに来るまでマッタリとした時間を過ごすのだった。


お読み頂きありがとうございます。

ブクマ等いただければ嬉しいです(●´ω`●)

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