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31話 生徒会 ★

 エインリッヒ先生に思わぬ時間を取られた。


 バーンの影がちらほらと覗えるような質問だったが、何とか誤魔化し切ることができただろう。母の懸念もあるけれど、それ以上に研究者としても有益な情報は、同じ研究者には簡単に明かせないのですよ。

 残念でしたね。


 その後私は研究室にある私物の資機材と、倉庫に保管されている機材を召使に頼んで自宅へと運んでもらい、私は次の仕事のために生徒会室へと向かった。

 私も今年で卒業するし、もうじき次の会長選挙もあるので余計な仕事は残しておけない。

 昨日妹のキャンディーにも文句を言われた。でも実際3期生の選挙で生徒会長に当選して以来、四年もの間会長の椅子に座ってきたのだ。少しぐらい多めにみてくれてもいいと思うのだが、キャンディーは許してくれないみたいだ。とほほ……。


 こうなったら私の最年少会長記録を塗り替えてやろうかしら。次期会長にキャンディーを推薦して、現会長の根回しで組織票をドバーッと入れてやれば当確よね。

 むふふふふ、と悪巧みを含んだ笑いを零しながら生徒会室へと入る。


「みなさんごきげんよう」


 私がそう挨拶すると、あ、生徒会長ごきげんよう、と挨拶を返してくる。

 数人の生徒会役員が机に座って色々なことをしていた。


 年度後半のこの頃になれば、単位を取り終えた生徒達は気ままに過ごすことが多い。

 単位の先取りの為に次の学年の講義を受けるもよし、騎士科でもっと強くなるために鍛錬するもよし、魔法科で魔法を極めようとするもよし、各研究に打ち込むこともよし、生徒会の活動を推し進めることで事務的スキルを伸ばし、内申点を稼いでもいい。

 生徒会を有能に回し、学校側から高い評価をもらえると、卒業後とても優遇されるのだ。王城に召喚され文官として採用されたなら、それこそエリート街道まっしぐらである。

 それでなくともこの学校は優秀な卒業生を輩出する学校なので、引く手数多なのだが、それ以上に野心的な生徒が多いということだ。

 真面目に取り組んでいる証拠である。


「生徒会長どうしたのですか、なにやら楽しそうですが?」


 ひとりの生徒会役員が、私の悪巧みを含んだ笑顔に気づいた。


「いいえ、何でもありませんよ」


 むふふふふ、と笑いながらそう答える。

 まだ確定ではないので、キャンディー会長推薦のことは明かせない。


「みなさんにはご迷惑をお掛けしております。勝手に妹を生徒会長代理にし、会長の席を外してしまい本当に申し訳なく思っています」

「いいえ、キャンディー様もミルキー生徒会長に、負けず劣らず優秀ですので、わたくし達が少しだけお手伝いするだけで問題なく処理なさっておりましたよ」


 なんと、妹はみんなの少しの手助けだけで、卒なく生徒会長代理の仕事をこなしていたという話だ。まだ一期生なのに優秀だと、みんなは口々に褒めちぎる。

 まあ私の妹だから当然でしょうけどね。オホホホホ!


「残している案件は、会長でなければ決裁できないようなものだけです。そんなに数もございません」

「そうですか。それでもみなさんの協力があってこそです。ありがとう存じます」


 生徒会の仕事に差し支えはなかったようだが、少なくとも教える労力は使わせたのだ。いちおう迷惑はかけているので頭は下げておく。


「いいえ、迷惑などとんでもない。仕事も有能ですし、できれば次の会長選挙ではキャンディー様を推薦しようかと、みんなで話し合っていたところなんですよ?」


 おおっ! 私が手を下す前に外堀が埋められている!

 これは逃れられないよ。覚悟なさいキャンディー……むふふふふ。


「あら、みんなさんのご迷惑ではなくて?」


 心にもないことを言ってみる。


「いいえ、わたし達にも若干の下心はありますので」


 そう言いながら全員がニヤッ、と悪巧みを隠せぬ笑みを浮かべた。

 ここにいるのは今年卒業の生徒もいるが、多くは下級生だ。

 ──なるほど……学校理事と校長の娘を抱き込むことで、内申点を毟り取ろうといった魂胆があるのか。

 とはいえ、みんな手を抜かずに生徒会を運営してくれるので、私もみんなには良い内申点を与えてもらえれば嬉しい。その辺りは了解済みだ。実際に口添えしたこともあるしね。


「そう、では私からも妹にお願いしてみますわね。生徒会役員一同の総意と伝えておきます」

『はい、よろしくお願いします!』


 全員がニッコリと嬉しそうに返事を返していた。現金な人達だ。

 まあ自分達が生徒会長に立候補して当選すればもっと内申点も良くなるのだろうが、在期中生徒会が思わぬポカをすれば、全てが生徒会長の責任になる。そうなると生徒会長一人が貧乏くじを引く形になる。

 それよりも会長の補佐をし、自分の保身も兼ねた役員の方にメリットがある。と計算高い者達は考えるのだ。

 キャンディーが会長なら、多少のポカをしても理事と校長が何とかしてくれるとも考えてのことだろう。


 これはもう次期会長はキャンディーで決定みたいなものだよ。私を恨まないでね……。


 さてと。会長の机に座り、決裁待ちの書類を手にする。

 本当に少ない。三か月ほど放置していた椅子だが、然程書類が溜まっていなかった。これらの他は全て妹が片付けたのだから、みんなが言うほど優秀さが伝わってくる。

 それはそうと、キャンディーが言うには、問題があるという話だったよね。


「あら? ハイド様は、今日はまだ来ていないのですか?」


 バーンの弟ハイドは、兄とは比較にならないほど優秀だ。

 故に2期生の頃から生徒会に所属している古株でもある。


「ええ、ハイド様は午前に7期生の講義があるそうで、それを取得してからだと思います」

「そう、さすがハイド様ですね。もう7期生の単位も残り少ないのではないでしょうかね?」

「そうですね。もう二つぐらい講義を受けて、試験を申し込むだけだと思いましたよ」

「それでは今年で全て履修ですね」


 今期5期生のハイドは、残り二年を残して全ての単位を履修するか。

 兄のバーンにもその優秀さの欠片でも分けてあげればいいのに。バーンはあと何教科残っているのやら……卒業できるのかな?

 とにかくバーンは、学科は微妙、騎士科は履修済みだが、魔法科は途中で挫折した。本来は騎士科、魔法科のどちらかを履修すればいいので問題はないが、貴族の嫡男ともあろう者が途中で魔法過程を投げ出したことは汚点でしかない。騎士科での成績が優秀だから見逃されている節があるが、本来なら恥ずかしくて大手を振って校内を歩けない(面の皮が厚い)だろう。

 それに学科も成績は下から数えた方が早い順位だ。卒業が危ぶまれるぐらいには……。


 弟に優秀な脳を持って行かれたのかな? 兄には体力はあるけど脳みそまで筋肉のようだからね。御愁傷様……。


「失礼します」


 そうこう書類を片付けながら待っていると、講義を終えたハイドが顔を出した。

 その後ろには、なぜか顔を蒼くしたキャンディーも一緒だった。


「ハイド様ごきげんよう。講義は順調なようですわね」

「うわーミルキー生徒会長! いらしていたのですね!」


 私の姿を確認するなり、ハイドは挨拶も忘れて駆け寄ってくる。

 キャンディーは俯いたままトボトボと歩いてきた。


「良かった! ミルキー様へ早めにご相談したいことがあったのです」

「あ、はい、キャンディーから伺っておりますよ……」

「では、少しばかりお時間を戴けないでしょうか?」

「今すぐでしょうか?」

「はい! できれば今すぐに」


 私もできれば書類を終わらせてからにしてほしいのだが、ハイドは私の机に身を乗り出すようにして急かしてくる。

 余程緊急性がある用件なのだろう。


「分かりました。で、相談とはどのようなものでしょうか?」

「先程また厄介な事態が露見してしまいましたので、できれば内密に話せる場所があれば助かります」


 私はこの場で聞こうとすると、ハイドは周りの生徒会役員の顔をチラチラと窺いながらそう発言した。

 どうやらその他大勢には聞かれたくない内容らしい。


「では、わたくしの研究室へ参りましょう。あそこなら多少の会話なら漏れることはありませんから」

「分かりました、では早速向かいましょう!」


 そうして私は席を立ち、先に生徒会室を出た。

 私の後にハイドが付いてきたが、その後ろからキャンディーも付いてくる。


「あら、キャンディーはよろしくてよ。ハイド様は内密なお話があるということですから」


 そう声をかけると、キャンディーはハッとして顔を上げる。明らかに狼狽えている。

 何かあったのかな? そう考えていると、


「いえ、キャンディー様にも同席してもらうよう、わたくしからお願いしていますので問題ありません」

「そうですか? それならば参りましょう」


 ん? ハイドの相談の一件にキャンディーも絡んでいるのかな? 接点が見えないけど……キャンディーの顔色からすれば……これは、告白系のイベントかなにか?

 もしかしてハイドは、キャンディーとお付き合いしたいとか言い出すとか? いやいや、それを姉の私に相談するのもどうかと思うし、キャンディーを同席させる意味もない。それなら二人きりで告白すればいい話だ。私の許可などいらないから勝手にすればいい。

 父が聞いたら(orz)こんな格好で泣くかもしれないけど。しかしキャンディーは、まだ10歳だから早すぎる、と激怒するかもしれない。

 でもその時はその時だよ。恋愛は二人の問題だから、年齢なんて関係ない。もしキャンディーがそれで良いというのなら、私は味方になってあげるつもりだ。

 あれ? なんでそんな恋愛関係の相談事として考えているのかな? まいいか。



 私達3人は、研究棟へと無言で向かうのだった。


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