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23話 魔法があった!

 水口竜也、享年29歳、独身。彼女いない歴29年。

(注:二次元の彼女はいっぱいいます。誰ですか? もうすぐ魔法使いになれますねって、失礼にも程があります。アキバの帰りに何度か〇原へ行ったことがありますよ。素人な童貞ってだけです)


 さてと、どういうわけか念願の異世界転生した僕は、前世で記憶が途切れた時点から、別の少年の身体で引き続き人生が再開しているといった珍現象に見舞われている。

 記憶が蘇ったのか、はたまた少年の身体を乗っ取ったのかは、未だ定かではないが、水口竜也という僕の人格がそのまま少年の身体で動いているのだ。


 はっきり言って待ち望んでいた異世界への転生を実際に経験したことに、やったぜ! とガッツポーズを決めたいところだが、その異世界は僕が考えていた世界とは程遠く、現実はとても厳しい世界だった。


 目が覚めたら死にそうなほどの怪我をしていて、生態系も全く違い、前の世界の知識なんてほとんど役立たず。せっかく異世界に行けたら活用しようと思っていた知識も無駄になる始末。似たような野草すら毒草って、どういうことさ。マジで厳しい世界だ。


 おまけに神様とか女神様なんかから、テンプレ的で特別な力などなにも貰ってない。なおかつ言葉すら理解できない世界で、どうやって生き延びろというのだろうか?

 言語ぐらい勝手に翻訳してくれなければ、小説にもならないじゃないか!


 そう憤ってもどうにもならない。

 前世で記憶が途切れてからこの世界で目覚めるまで、空白の時間があったような気がするが、それも思い出せない。神様とやらと出会っていたならば、必ず何か交渉をしていたと思うほどに、僕は異世界に憧れていたのだが、残念ながら何も思い出せないままだ。

 もし神様とやらがいるのなら、この状況に文句をつけたいぐらいだ。異世界転生などせずに元の世界に戻せと言いたい。

 けれど、あまり戻る気もしないけどね。


 という訳で、僕は状況に流されるまま、なんとか生き延びることができている。

 死にそうな怪我人から農作物泥棒になり、監獄に収容されそこからの奴隷落ち。最底辺をうろついていることには変わりないが、生きているだけまだマシだと思うしかないだろう。


 そして僕は、少し裕福そうな猫の獣人さんに買われたのだ。

 これが果たして僕のこれからにどう影響するのかはまだ分からない。しかし幾分生き延びる確率が上がったことだけは、今のところ安心材料とみるべきだろう。


 こうして僕の奴隷人生が始まるのだった。僕は異世界で奴隷王になる!(空しい異世界転生だよ……)



 そして僕は今、この世界に来て底辺を彷徨い奴隷にまで身を落とし、その僕を買ってくれたご主人様と、他の家族と思われる面々と対峙していた。


 前世を含め学校以外で、いまだかつてこんなにも女性に囲まれたことはない。それが全員猫の獣人なのだから、本来なら嬉しさの余り飛びついてモフモフしてしまいそうだ。しかし今の僕は奴隷の身、のっけから粗相をするわけにもいかない。我慢だ、我慢するんだ、僕。


 そこには初対面の猫の獣人さんが二人いた。恐らくミルキーご主人様の母親と思われる美人さんと、妹と思われる可愛い女の子だった。三人ともどことなく似ているのでそう思った次第だ。

 ミルキーご主人様と妹と思われる可愛い子は、同じような服装(制服なのだろ)をしているので、学校かどこかかに通う学生なのだと推測される。


 すると母親と思われる美人さんは、言葉が通じないと分かっているのに自己紹介らしき事をした。自分たちを指差し、分かりやすくゆっくりとした口調で名乗ったのだ。


 お母さんらしき美人さんは、ハイネスさんというらしい。

 妹さんらしき可愛い子は、キャンディーと聞こえた。

 ミルキーご主人様も可愛いが、少しキツそうな感じなので、単純に小さくて可愛らしいキャンディーちゃんは、前世オタクの僕に言わせれば、猫の獣人さんということもあり、絶対にモフりたいほどの存在だ。うずうずしてくる。


『コンチクショウ! ウラヤマでござる竜也氏! 拙者もモフりたいでござるよ‼︎」


 オタ友のそんな悲痛な叫びが聞こえてきそうだ。ざまーみろ、と心の中で優越感に浸る。

 とはいえ、奴隷の身分でご主人様の家族をモフれる訳ないだろうけどね……。

 それは置いておこう。


 さて、ハイネスさんは僕も指差して何か言っていたので、自己紹介しろと言っているのだと思い、僕も自分の名前を名乗って、さらに今朝名付けたマロンの名前も追加しておいた。


 するとみんな一様に驚いた表情をしていた。やはり僕達人間は、マロンみたいに言葉を発しないものとして認識しているものと思われる。

 マロンはみんなが来てからは怯えっぱなしで、僕の背中に隠れながら、うーうーと小さく唸って威嚇している。どうみても野生少女だ。

 これが本来の人間の姿だとしたら、とても恐ろしくなってくる。しかし僕達以外の獣人達には、マロンがデフォルトと認識されているのならば、僕みたいな存在はきっと初めて見るような驚くべき存在なのだろう。



 こうして自己紹介が済んだところで、場は急転直下で慌ただしくなってきた。


 また一人、初対面の猫の獣人さんの女性がミッチェルさんに連れられてくると、僕は一人だけ部屋を出された。残されたマロンは僕がいなくなった部屋で何か騒いでいるようだったが、僕にはどうすることもできない。

 この人達は別に悪い獣人達じゃないと思うよ。と頭を撫でて出てきたのだが、理解していないだろう。



 そして広い部屋、恐らく研究室に連れ出された僕は、ここでファンタジー的な出来事を目の当たりにするのだった。


 この世界には、やはり魔法があった。


 連れてこられた女性は、どうやら治癒系の魔法を使う魔法使いだったようだ。

 僕は有無もなくまた服を脱がされた。またマッパになるの? しかも僕以外が全員女性の前で?

 僕の今の見た目は多分12~15歳(姿をちゃんと確認していないので予測)くらいだろうけど、精神年齢は30近いのだ。フル〇ンマッパで、うら若き女性陣の衆人環視の目に晒される精神的苦痛たるや、想像できるだろうか。

 10歳前後と思われるキャンディーちゃんにはまだ早いよ! そう叫びたくなった。

 そう思って顔を蒼褪めさせていると、パンツだけは脱がされなかった。一安心である。


 そこからが魔法の出番である。


 僕は大きなテーブルの上に寝かされ、治癒魔法使いの女性に回復魔法をかけられた。

 ぐっと期待が深まる異世界魔法! ファンタジー色満載だ! と思ったのは最初だけだった。


 呪文を唱えてハイ終わり! のような小説やアニメのような簡単なものではなかったのだ。

 魔法使いの女性は、額に珠のような汗を浮かべ、何かを口の中で小さく呟きながら患部に手を翳している。

 手を翳された部分がムズムズとむず痒くなり、傷などがじわじわと回復してゆくさまが感覚として伝わってくる。痛みも徐々に引いてゆく。


 おおーっ! 魔法スゲエ!


 と、内心感動したが、それ以上に治癒魔法使いの女性は、真剣に魔法をかけ続けていたので、感動よりも感謝の念の方が強くなった。

 一瞬で治る魔法よりも、はるかに有り難味がある魔法のように思えた。


 ほんわかと温かい回復魔法に、気持ち良さとむず痒さを覚えつつ、暫くすると全身の痛みがほとんど無くなった。体感で2時間ぐらいだろうか。一番時間がかかったのは頭部の裂傷だろう。頭蓋にもヒビが入っていたかもしれないしね。


 治癒魔法使いの女性は、休まず魔法をかけ続けてくれ、グッタリとした表情でふらふらと僕から離れていった。

 なんとも献身的な方だ、僕の怪我を癒すためにそこまでして魔法を使ってくれるなんて……まるで聖女のような人だ!

 なんか物語でも治癒系の魔法使いや聖女なんかに、命を救われ惚れてしまうシュチュエーションがわかるような気がする。

 これが瀕死の状態だったら、間違いなく惚れるね。ああ、聖女様、僕は一生貴方の下僕としてお慕いいたします! なんて言っちゃったりするんだろうな。

 見た目はあんまり可愛くなくても、10割り増しぐらいに見えることだろうね。


 いえ、けしてこの魔法使いさんが可愛くない訳じゃないですよ。25歳ぐらいの女性で、見た目は普通だった。でも今は3割り増しに輝いて見えるよ。額に珠のような汗を浮かべ疲れきった中、それでもにっこりと微笑むところなんか、最高に慈悲深くて眩しい表情だ。


 癒しをありがとうございます! そう声を大にして叫びたかったが、言葉が通じないと分かり切っているので頭を下げるだけに留めた。

 今度お会いした時は、何かご馳走しますよ。とも言いたかったが、奴隷がそんなことできる訳ないだろうしね。お金もご主人様が支払っているのだろうし……。


 その後治癒魔法使いの女性が部屋から出てゆき、ミルキーご主人様が、僕の目、耳、鼻、口、手足などを入念に調べ始め、異常がないことを確認するまで検査のようなものをされた。


 言葉が分からなくても、丁寧に対応してくれる様は、とても優しく映った。

 僕は奴隷というよりも、なにか少し大切に扱われているように思うのだが、気のせいだろうか。

 僕のラノベ的認識では、男の奴隷に回復魔法なんかかけないし、逆に鞭打って強制労働させるような対象だと思っている。この世界の奴隷は、これが常識かもしれないが、そう思うのはまだ早計だ。

 奴隷商で見た他の奴隷たちは、一様に生気のない顔をしていたし、色々なご主人様の下で働くのが奴隷なのだろうから。

 もしかして僕は、やはり相当良いご主人様に当たったのかもしれない。僕の勘が間違っていなかったということだ。


 ミルキーご主人様は、僕の検査らしきものを終え、にっこりと微笑みながら頷いた。

 どうやら体に異常は見られないと安心した感じだ。


「タツヤ、ひksmaa、まalmwp」

「……?」


 ミルキーご主人様が、僕に話し掛けていることは分かったが。何を話しているか意味は分からない。

 しかし僕の目を見ながら、何度もゆっくりと身振りを加え、丁寧に伝えて来る。


 ──タツヤ、言葉を覚えなさい。


 そう言っているようだ。

 確かに言葉を覚えるのが、こちらの世界を知る早道である。何をするにも言葉が分からなければ奴隷としても、何の役にも立たないだろうからね。

 僕はご主人様の目をしっかりと見ながら頷いた。



 そしてこれから言葉を覚える勉強の日々が始まるのだった。


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