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17話 母に許可を貰いに行く ★

 ─ ミルキー ─



 裸猿を買った翌日、私は興奮したまま学校へと向かった。


 ハーネル国立学校は、一般教養の他、魔法科、騎士科といった専門科目を、国主体で教える学校である。国力増強の為、10歳から16歳までの7年間、学び、そして鍛える場所なのだ。

 国民として認められた10歳になった子供達は、希望すれば誰でも試験を受けることができる。しかし試験を受けた全員がこの学校に入学できるわけではない。

 国中に何校かそんな学校はあるが、この街の学校はこの国でも優秀な生徒ばかりが集められるのだ。王都にある学校は規模こそ大きいが、優秀さではこの街の学校に敵わない。

 いわばこの国のエリート養成学校のようなものである。


 私はこの学校の7期生。魔法科、騎士科の両方を既に履修済みで、後は卒業を待つだけ。

 故に既に学校に通わなくとも良いのだが、この学校は各種研究も盛んなため、卒業までの間研究をして過ごすことに決めていた。私は考古学、進化論、を主に研究している。謎だらけのこの世界の歴史を暴こうと考えているのだ。

 ちなみに卒業後も研究を続けたければ、教諭の助手として残ることもできる。研究の成果を国に認められると、そのまま教諭になったり、名誉学者として国の機関で研究を続けることもできるので、騎士や魔導士になって王国軍に帰属したくないと考える変わり者が多く集まるのである。

 当然騎士や魔導士は栄誉ある職業だ。でもそれ以上に探究心旺盛な優秀な人材が多く在籍する学校なのです。

 まあ学校の説明はそのくらいで。


 この学校の理事は、国王から任命され、この街の領主でもあるベッケン・ブリューゲル男爵が務めている。私の父だ。

 校長にはハイネス・ブリューゲル。私の母である。

 そして私がミルキー・ブリューゲル、16歳、生徒会長を務めています。

 ついでにキャンディー・ブリューゲル、10歳、私の妹で、今年からこの学校に入学している。


 父は領主の仕事もあるので、あまり学校には顔を出さないが、元々は学者として王都の学校に在籍していたのだ。父の研究成果が国王に認められ、新たに創設する学校の理事に任命された。それと共に爵位を叙任され、この街の領主としても任命されてしまったのである。

 本人としては研究に没頭したいとボヤいているが、そのぶん母が学校を切り盛りしているので、半分は研究者として活動しているようなものだ。

 母も校長など誰かに任せ、自分も研究に注力したいと思っている口である。


『あなたがハッキリと断らないから、こんな余計な仕事まで押し付けられたのですよ? 研究の時間が激減ではないですか!』

『し、仕方ないじゃないか。王命に背くと、それこそこの国にいられなくなるじゃないか。ボクだって貴族なんかにはなりたくなかったよ。いっそ今からでも返したいくらいだ』

『この国でなくとも研究はできます。そのくらいの気概をもって言ってやってもよかったのですよ? そもそもわたし達を国外追放したら他国の利益に繋がります、国の損失になるのが分かっているのですから、そのくらいは譲歩したでしょうに』

『多くの貴族のやっかみが絡んでいたんだ。丸く収めるには、この方法が一番だったんだよ……』

『それで研究時間まで失う羽目になるなんて、全く、あなたはお人好し過ぎます!』


 私が生まれてすぐだったこともあり、父も立場を危うくしたくなかったのだろう。学校創設時には、そんな喧嘩が絶えなかったらしい。


 そんな研究バカ二人の間に生まれた私も、自ずと研究バカに育った。

 父と母の研究成果を、生まれた間際から子守唄や絵本の読み聞かせ代わりに聞いてきた私が、幼い頃からこの世界の神秘ともいうべき謎に夢中になったのは言うまでもない。

 特に、生命の神秘と隠された世界の秘密。このお題が私の主題となっているのだ。


「お母様! 裸猿凄いんです! 色々研究用の機材借りていきますね! あ、それから、卒業までもう学校来なくてもいいですよね! じゃあ帰ります!」


 私は校長室にノックもせずに入り、言いたいことだけ言って踵を返そうとした。

 ちなみに母は、校長の仕事と研究で忙しく、学校に泊り込むことが多い。昨日も泊まり込みです。

 通勤時間すら研究に当てたいのだとか……研究の虫である。ちゃんと寝室もあるので寝てはいるようだから、あまり心配はしていない。


「こらこらこらこら! 待ちなさいミルキー!」


 母は娘のそんな行動を急いで制止する。


「何、お母様? 私とっても急いでいるの。研究を裸猿しなければいけないのよ!」

「あのね、少し落ち着きなさい。あんたいつも何かに興味を持つと、話の前後も脈絡もなくなるわね……今の説明で何をどうしろと言うの? 研究を裸猿するって意味不明ですよ」

「だって、お母様とお父様の娘ですから仕方ありません。ですから裸猿が凄いんです! だから早く帰りたいんです!」

「ちょいちょいちょいちょい、だから待ちなさいって!」


 再度帰ろうとすると、母に首根っこを掴まれてしまった。わたしは動物の子猫じゃありません。


「いいから、きちんと説明なさい。そうでなければ休学許可など出しませんよ? それに生徒会長の仕事だってあるのではないですか?」

「ぶぅー……いいじゃない、もう取る単位もないんだし……生徒会長は妹にでも譲ることにするわ」


 履修単位は4期生の時に全部取得済み。その後は自分の研究や、他の先生方のお手伝いをしながら色々教わり知識を深めているのだ。


「そう簡単なわけないでしょ。授業の補佐を先生方に頼まれているのでしょ? それに生徒会長は選挙で決めるんです。いくら妹だからといっても、簡単にキャンディーに譲ることなんてできませんよ」

「先生方には断ってきたよ。キャンディーには選挙まで、当面、生徒会長(仮)の代役で」

「またそう言って……大方先生方には、相談もせず一方的に断ってきたのですね……それにカッコカリって何ですか? まだ一期生のキャンディーにそんな大役を押し付けるのですか? イジメられますよ?」


 それでなくとも貴族の軋轢があるのに、と、ぶつくさと呟きながら、母は眉間をつまみ首を振った。

 まあ確かに先生方には、「裸猿が凄いんです! 今日から家で研究するので、もうお手伝いできません! ではご機嫌よう!」と言って来た。確かに急いでいるので、相手から一言も反論が返って来ないうちにその場を後にしている。でも、無断で投げ出す訳ではない、しっかりと筋を通して断ったのだから。


 妹のキャンディーにしても、まだ一期生だが、生徒会長の仕事なんてそんなたいしたことはない。ただ椅子に座って命令していればいいだけだ。困ったことがあったら、家で私に訊けばいいのだし。


「イジメられたら、逆に3倍返しでイジメ返せと普段から言っているから大丈夫よ。それでも解決しないようなら、私が少し根回しするから。イジメてきた連中の単位を落とすように」

「あんたねえ……」


 母はサーッと顔色をなくした。

 貴族間のトラブルは極力避けたい。新参貴族のブリューゲル家は、何かと風当たりが強いからだ。王より爵位を叙任され、国でも最高峰の学園の理事と、辺境の田舎ではあるが中規模の街の領主にまでトントン拍子に昇ったのだ。ぽっと出の平民が男爵位を得、街の領主になるという珍事に、面白く思わない上流貴族も多いのだ。

 だけど私には関係ない。親が貴族だからって、子供が貴族だとは限らない。下手をすればその代で没落する貴族だってない訳じゃないのだ。準貴族や騎士爵のように当代限りの爵位だってある。私から言わせれば、長く続く貴族は、身分の上に胡坐をかいている能無しばかりだと感じている。まあ例外もいるのだろうけど、親の七光りでそのまま爵位を継いだ能無しが多すぎると感じるからだ。


 元々平民上がりのブリューゲル家は、今でこそ貴族として確立しているが。それほど力がある訳ではない。だから父も母も今の所波風を立てたくないようだ。

 一応王からの叙任なので、男爵であっても上流貴族ぐらいの格付けはあるらしいが、そもそも根底は庶民なので卑屈でもある。平民は貴族に睨まれると弱いものだから。

 元々研究さえしていれば良かった家系に育った私にとって、爵位は邪魔なだけのように感じる。まあ貴族で良かったと思う点もないわけではない。それなりに研究費用が潤沢なだけ、普通の平民研究者よりは活動しやすい。利点などそれぐらいかもしれない。


 そもそも単位を落とすと貴族にとっては大変なマイナスイメージだ。この学校は、一期でも落第すると、強制的に退学処分になるのだ。学校の教育方針について来られないようなら、国家のエリートとして扱われない。故に国の重要な仕事など任せられないということだ。

 だから落第でもしようものなら、貴族界で一生笑われ、満足な仕事も与えてもらえなくなるのである。子は親に面汚しと罵られ、家を追い出された子息、息女もいたとかいないとか。


「まあその話は後にしましょう。先ずはきちんと説明なさい。裸猿が何ですって? まさかまた裸猿に執心しているのですか? もう止めるとこの前言っていませんでしたか?」

「あー、そんなことも言ったような……言わなかったような……詳しくは忘れました」

「はぁ……記憶力がずば抜けているあなたが、自分が言ったことを忘れるはずがないでしょうに……」

「テヘッ」


 お茶目に舌を出すと、母はやれやれといった感じで呆れた。


「まあ良いわ、わたしもそれなりに裸猿には興味がありますから、あなたの気持ちはわかります。ですが、そんなに興奮しているところを見ると、その裸猿には、今までにはない何かがあるという事かしら?」

「流石お母様!」



 私は昨日父と裸猿を買ったところから話すことにした。



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