表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/68

12話 囚人から奴隷へ

 僕たち二人が連れてこられたのは、また別な檻がある場所だった。


 ただし、兵士に入れられた監獄とはどことなく違う雰囲気だ。

 他に入れられている獣人達も囚人服のようなものは着ていない。なんというか、貫頭衣みたいなものを着用している。


 ──ここで発見しました!


 猫の獣人以外の獣人。

 基本的に猫の獣人が多いようだが、中には犬やウサギが元になったような獣人さんがいるみたいだ。全てを見られなかったし、じっくりと観察することもできなかったので、なんとも言えないが、あれは猫の獣人以外の獣人で間違いない。


 イェイ! これぞ異世界って感じ!?


 なんてはしゃいでいる場合じゃない。

 僕のこれからの処遇の方を考えろよ、檻から檻に移動って……底辺一直線じゃないか!

 しかし、今の僕では、いくら足掻こうともこの底辺ルートからの脱出は難しい。僕の意思などあってないようなもの。言葉も力も何もかもが通用しない。ただ流されるだけだ。


 僕の理想の異世界とは、程遠い世界だよ……。


 斯して僕たち二人はまた檻に入れられることになった。

 最初の牢獄と違うところは、僕達二人は檻に入る前に水をかけられ身体を隈なく磨かれた。

 ゴシゴシとデッキブラシのようなもので無理矢理洗われたので肌が痛かった。怪我もまだ治りきっていないので、苦痛な水行だった。

 二人共薄汚い腰蓑は外され、全身丹念に磨かれた。


 ──ちょ、ちょー、チョット! 待って待って! まさか股間をそれで洗わないよね⁉︎ や、やめてぇーっ‼︎


 僕の切なる叫びも虚しく、手枷を嵌められ抵抗できずに、内股で腰を引いた僕の股間は、それはそれは硬い毛のデッキブラシみたいなもので、ゴシゴシと洗われるという初体験をしたのでした……泣きたくなった……。

 あれは痛いでは形容できない何かがある。どんな拷問だろうかと思ったよ。


 さて、身体を洗われ檻に入れられた僕達は、相変わらず檻の中の住人だ。

 前の世界でも入ったことのない空間が、今は僕の住まいになりつつある。檻から檻の移動だが、前の檻よりは若干格調高くなったので気分がいい。格調高い檻があるなんて初めて知ったね。

 異世界に来て人生が大幅にドロップアウトするなんて、誰が想像できただろうか。ああ、異世界に来てまで郷愁が僕の胸に押し寄せて来るとは、ホントに最悪といってもいいほど最低な異世界転生だ……。


 さて、そんな郷愁に浸っていてもしょうがない。現実を直視しよう。


 ここは前の牢獄とは雰囲気もどこか違う。入れられている人たちは皆小綺麗にされ、悪臭もそんなに酷くない。

 犯罪者のような悪辣とした態度の人もいない。そして幼い獣人が結構いる。まだ犯罪に手を染めているような感じではない。まあ、万引きとかも重罪ならわからないけど。


 ただ共通しているのは、目に付く人達全員がどこか諦観しきった表情をしているのだ。確かに檻に入れられて楽しそうにしているのは、頭が少しどうかしている奴かもしれないけどね。


 とにかく檻に入っている獣人達は一様に暗い。

 これは僕の予想だが、たぶんここは奴隷商とか、そんな感じのところではないかと考えられる。

 身体を小綺麗にするのも、身体を確認し易いように貫頭衣みたいな服を着用させているのも、その為だろう。

 ここにいる人達は商品、なのだ。


 あぅ……目が覚めたら、怪我をしていて、大雨で激流に流され命からがら助かり、空腹で死にそうになりながら人里を探し、人里で畑を荒らし捕まる。犯罪者みたいに牢屋に入れられ、そして次は奴隷?


 気持ちいいぐらいに底辺まっしぐらだね……。


 ともかく今時点でこれ以上の選択が僕にできたかというと、間違いなくできなかった、とだけ言っておく。

 少しの選択ミスで死んでいた可能性の方が高かかったのだ。今こうして生きていられること自体奇跡的だと考えられる。


 だからって奴隷を甘んじて享受するってわけでもない。しかし僕には、これ以上未来を好転させる何かを残念ながら持っていないのだ。魔法も膂力も特殊能力もチートスキルも持ち合わせていない。自力ではどうすることもできないのだ。

 川の流れに逆らうことができない笹船のように、ただ流れに身を任せるしかないのである。


 あわよくば、奴隷を自由にしてくれる心優しい誰かが僕を買ってくれたらいいと願うが、そうも甘くはないだろう。

 いままでの経緯を見ても、この世界はそんなに甘くはなさそうだ。



 という訳で、おそらく僕達二人は、奴隷として売られる為にここに連れてこられたようです。この先誰が買ってくれるかわからないが、お行儀よくしていようと思います。


 さて、僕と前の監獄で出会った先輩囚人の少女とは、また同じ檻に入れられた。

 ここでまた他の獣人達とは待遇が違った扱いを受けている。

 今度は薄汚かった腰蓑まで外され、マッパです。二人共だよ。


 彼女はここに連れてこられている間、終始ビクビクと怯え、身体を洗う際は大いに暴れた。暴れて手がつけられなかったようで、先に僕が洗われた。デッキブラシみたいな硬い毛がついたもので大事な部分も洗われたので多少腰を引いたりしていたが、おとなしく洗われている僕の姿を見た彼女は、その後そんなに暴れずに洗われた。僕が彼女の側で宥めながら立っていたのも功をそうしたのかもしれない。


 そしてマッパで檻の中に入れられ、彼女は怯え疲れたのか、僕にしがみつきながら眠ってしまった。

 なんか今日1日で彼女との仲が急接近したようだ。どうも懐かれてしまったらしい。

 まあ、嫌われるよりも懐かれた方がいいだろう。素肌で寄り添ってくるので、色々と大変だ。柔らかいところとか、柔らかいところとか、柔らかいところとか。

 それでも邪険に遠ざけるのも気がひける。


 ──いや、嘘じゃないよ! だってすごく怯えていたしさ、かわいそうじゃん! (言い訳半分)けして全身綺麗に洗われたら、貞子さんが払拭されて、肌が凄く白くて綺麗で、顔も可愛かったって訳じゃないからね! (本音が見え隠れ)


 おほん! とまあ、その辺りは有耶無耶にして、僕は静かにお行儀よくしているのです。




 そして翌日。


 ここの牢屋での食事は、前の牢屋よりも少し豪勢だった。

 野菜を煮込んだようなスープは、幾分クズ野菜に見えないようなものに格上げされ、味も薄味からチョットだけ濃い目の味になっていた。そして驚くべきは、かなり小さかったが肉のような小さな塊がいくつか入っていたことだ。(カップ麺の合成肉みたいな塊)

 それと千切ったパンのようなものがひとかけら付いてきた。これはご馳走と言ってもいいよね?


 もう、喜んで食べたね。

 土の付いたカブのような生野菜から始まり、ジャガイモのような生野菜、そして味の薄いクズ野菜のスープと、段々と格上げされてきたよ。パンみたいなやつも、固かったけど意外と甘味があって美味しかった。これが俗に言う黒パンというやつだろうか。

 これはもう豪華な食事といっても差し支えないほどだ。

(この世界に来て最低のモノしか口にしていないので何を食べても美味しく感じる。木の木っ端でも薄く塩を振れば美味しく感じるかもしれない。前世で食べたらきっと吐き出すレベルだと思うが、生きていくには文句は言えない)


 いやー美味しかった。大満足です。

 奴隷(仮定)って結構いい食事を与えられるんだね。これなら少しはマシに生きていけるかもしれない。底辺にいるけれども、野たれ死ぬよりはマシだろう。

 まあ、奴隷だったら少しでも健康的に見せないと、売れないのかもしれないから当たり前なのかもしれない。商品価値を下げることはしないということだろう。


 今日になって何人か客みたいな人達がここに訪れているようだった。

 他の檻に入っている獣人を買いにきたのか、何人かはこの檻のある部屋から連れ出されて行った。

 あー、やはり奴隷商で間違いなさそうだ。これは覚悟しないとだね。


 ちなみに僕達の檻には、今の所誰も見に来ない。

 お客さんが僕等を望んでいないのか、はたまた奴隷商側が見せないのかは不明だが、従業員が僕達の檻までお客を連れてこないのだ。やはり見せたくないのだろうか? マッパだから僕としても見て欲しくないけどね……。

 それでも何人かの客は覗きに来たが、皆一様に興味なさげに、「けっ!」みたいな悪態をついてその場を後にしていった。

 やっぱり僕等の種族は嫌われているのかもしれないね。

 まあ奴隷商に奴隷を買いに来るお客は、あまり良い感じはしない。言葉は分からないけれども、大概が横柄な態度の人達のようだ。特に僕等に悪態をついていた奴は、買ってくれるとしても、こちらから願い下げしたいような奴等だよ。


 そしてそうこう退屈な時間を檻の中で過ごしていると、たぶん昼を少し回ったぐらいだろうか、閉所なので時間感覚はないけど、そのくらいだと思う。

 奴隷商の従業員らしき猫の獣人さんが僕達の入っている檻の前に現れ、僕達は檻から連れ出された。そしてまた身体を丹念(比較的乱暴)に洗われたのだった。


 こうして毎日洗われるものなのだろうか。一応綺麗好きな日本人だったので、僕は毎日お風呂に入る習慣はあった。けれども水浴びは冷たい。それにデッキブラシみたいなもので洗われるのもチョット遠慮したいんですけど。と文句も言いたいが、されるがままなのでどうしようもない。

 その行水が若干気持ち良くなってきたということは内緒にして欲しい……。


 彼女も同じように身体を洗われたが、昨日ほど暴れなかった。僕が側でまた宥めていたからだろう。奴隷商の従業員らしき人達も、洗いやすそうにしていたからね。


 身体を洗われた後、また元の檻に戻された。

 今日もまたこのまま過ぎるのだろうと思っていたら、夕方になって状況が変わった。


 それは僕達が入れられている檻の前に、数人の獣人がやって来たのだ。

 その中には昨日監獄から僕達二人を連れて出してくれ、ここへ連れてきた四十がらみの獣人もいた。そしてその後ろには、まるで貴族然りとした格好の、親子らしき猫の獣人が、瞳を輝かせて僕を観ている。

 貴族然りと思ったのは、四十がらみの獣人の衣装よりも、格段に豪華だったからだ。


 前の世界の貴族的衣装とは若干違いはあれど、これぞお貴族様と言いたくなるような出で立ちだった。

 ちなみに親子と思ったのは、父親と娘のような関係に見えたからだ。


 そしてその娘は気品があるというよりも、どこか勝気な性格のような気がする。

 この世界での美的センスはまだ分からないが、前の世界を基準にすると、綺麗な顔立ちをしているといっても過言ではない。たぶん15~17歳くらいだろうか? 多少幼さが残っているから、美人というよりは可愛いと表現したほうがいいだろう。


 やったね、猫耳美少女! きっと前世で普通に出会っていたら、狂喜乱舞の小躍りを披露していたに違いない。


 さて、僕等の檻の前に脇目も振らずに来たということは、この人達は僕達を観に来たということだろう。

 それじゃあ少しでも行儀よくしないとね。

 なにより、この親子になら買ってもらってもいいと思えるからね。


 初対面だけど、僕は人を見る目は、それなりに確かだと思っている。

 前世でも人の顔色を伺って腰を低くして生きていたのだ。それなりに危険そうな人物や、人を騙しそうな人物の見分けぐらい付くのだ。そのぐらいの処世スキルは身につけているのさ。

 さすがにブラック企業だけは見抜けなかったけどね……。

 だってそうだろ? 『我が社は楽しくをモットーに、社員に仕事をしてもらっています』なんて、嘘は言っていないのだから。命令する上司は楽しく命令し、社員はその命令を聞いて仕事をするのがモットーなのだ。そこに社員が楽しいとは、一言も言っていなかったのだから。言い換えるのなら『我が社は、楽しく社員に仕事をしてもらうことをモットーにしています』だよね。日本語は難しいよ。


 まあそんなことは今更どうでもいい。要は今である。

 目の前の親子は、僕の見立てでもそんな悪い人には見えなかった。

 今日見た客の中では一等まともそうだし、特に猫耳美少女に悪い奴はいないのだ。(オタクの偏見)

 だから奴隷としてでも、少しでも有利な条件をもぎ取るためには、僕は僕自身を売り込むことにする。


 檻の前で色々と話しをしているようだが、四十がらみの獣人が従業員らしき人になにやら命令した。

 ここ数日同じような言葉を聞いたので、「おい、立たせろ」と命令したのだろうと理解した。


 僕は従業員らしき人が檻に入ってくる前に、先輩囚人の少女の手を取り、檻の中で立ち上がった。一応股間は手枷で隠しています。いくらなんでもマッパは恥ずかしいですから。

 大事ないちもつを猫耳美少女に見せたくないからね。



 そして僕達を買ってくれるであろう親子に小さくお辞儀をして、買ってくださいと媚びを売るように作り笑いをする僕だった。


 さて買ってくれるでしょうか。

 ねえ買っておくれよ猫耳美少女さん‼


お読み頂きありがとうございます。


気に入って頂けましたら、ブクマ評価頂ければ、作者は小躍りしながら喜びます。よろしければお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ