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1話 プロローグ

話サブタイ後ろの★マークはヒロイン視点です

 

 仕事を終え、駅前の行きつけの書店で読み逃していたラノベを数十冊買い、スーパーで数日分の食材を買い込んだ僕、水口竜也は、暗い夜道を家路に就いていた。


 明日からの久しぶりの長期休暇に向け、完全に家に引きこもる予定でいる。

 とはいえ、長期休暇といっても、ただの連休ではない。つまり僕は今日会社を辞めて来たのだ。

 毎晩遅くまでサービス残業を強要され、残業手当も付かず薄給でこき使われる毎日に、ほとほと愛想を尽かした結果といえるだろう。それでも5年も我慢し、そんなブラック企業に勤めていた自分を褒めてあげたい。出入りの激しい社員が多い中、ふと気付いたら僕が古参になり始め、なんと役職をもらえることになってしまったのだ。


 それを機に会社を辞める事にした。

 たった4、5年で管理職になるような会社はろくなものじゃない。管理職とはいえ、結局は部下である社員達に残業を強要し、薄給でこき使う役目を任せられるだけなのだ。悪者まっしぐらである。

 会社のトップは僕に仕事を任せて遊びほうけ、役職を付ければ公然と残業手当をださなくていいようで、体よくこき使える駒として扱われるだけ。

 そんな分かり切った昇進なんてこっちから願い下げだ。

 自分だけが我慢すれば良かった仕事を、他人に押し付けたいとは思わない。そんな仕事方針は僕の矜持に反することだった。


『水口、5年も持ったんだから、やってみろ。なに、今までの鬱憤を下の者に押し付ければいいだけだ。簡単だろ? 楽しいぞ?』


 面談時、上司や社長にそうそそのかされた。

 なんと器の小さな人達だろう。自分がそうされたから他人にそうしろと言う気が知れない。

 そんな狭量な上司や社長に愕然としたものだ。


 とにかく僕は自分が管理職になり、理不尽な命令で社員をこき使う会社になど、もう嫌気が差したということだ。そしてスッパリと辞めて来た次第である。

 だから僕は、机の引き出しにいつでも提出できるようにと温存していた退職届を、伝家の宝刀が如く社長の顔面に叩き付けてやった。温厚な僕でも我慢の限界はあるということだ。

 久しぶりに少しだけ清々した気持ちになったよ。


「はぁー……」


 それでも自然と溜息が漏れる。

 これで3社目か。何故か勤める会社はことごとくブラック企業。僕はそうとうに当たりがいいらしい。

 今度こそはまともな会社だろうと思って入社したはいいが、結局はブラック。いや、頑張ればそれなりにいい会社だろう、と盲目的に頑張ってもみたが、結局最後までブラックだった。

 やはり僕には運がないようだ。


「ハロワにも行かなければ……」


 僕も来年で三十路に入る。それまでにはちゃんとした会社に就職したい。そう考えているが現実は多分厳しいだろう。(三十にもなって僕はないだろう、と言うあなた。これが僕のアイデンティティなのでご容赦ください)


「今度こそはブラック回避したいな……」


 そう何度もブラックを引き当てることもないだろう、と思うが、過去全てブラックなので、また引き当てそうで怖いものがある。

 求人票に書かれている完全週休二日制、残業月10時間未満、有給有り(完全消化制)、その他手厚い福利厚生あり、我が社は社員の自主性を尊重し、働きやすい職場を実現しております。なんて文言は、簡単に信用してはいけない。

 今度は面接前に充分にリサーチをかけてから受ける事にしようと心に決めた。2,3日は会社に張り付き、働いている社員さんにそれとなく会社の実情ってやつを聞き出すのもいいかもしれない。


 ともあれ、今まで心身ともに疲弊して来たので、しばらくはゆっくりしようと決めている。

 薄給だったがそれなりに蓄えはあるし、焦ってまたブラック企業を引き当てる事はしたくない。じっくりと腰を据えて就活する事に決めているのだ。


 しばらくは趣味に没頭しながら、ゆっくりじっくり決めればいいかな。

 アニメを見たり、ラノベを読んだり、ゲームをしたりと、最近忙しさにかまけて、そんな趣味すらご無沙汰している状態だった。30になる前の最後の充電期間、命の洗濯期間として、失業手当が貰えなくなるまで数ヶ月は遊び尽くしてやるぞ(これが本心)。

 現実逃避ともいうべき行動だが、既にそう心に決めたのだ。


 現実逃避といえば、


「あーぁ、なんかこう、楽しい事とかないかな……異世界とか行けないだろうか……」


 僕はとにかく異世界に憧れている。熱望、渇望して止まない、と言っても過言ではない。中学生ぐらいの頃から現在に至るまでその熱意は冷めやらぬまま。いや、むしろこんなブラック企業で働いていたら、その熱は否応なしに加熱してゆくというものだ。激熱である。

 アニメやラノベ、ゲームのような世界にいけないだろうか、と常々考えているのだ。それこそ現実逃避みたいだろうけど止められない。

 異世界があると僕は信じているし、必ず行けるのだ。と、思い込んで、日々異世界に行ける方法を模索し続けているのである。



 ──そんな世界があれば、きっと楽しいはずだ。こんなつまらない世界なんて早くおさらばしたいものだよ。


 などと夜道を歩きながら考え、この世界とは別の異世界へと想いを馳せ、ふと夜空を見上げると……。


 その時、世界が一変した。

 目も眩むほどの閃光が夜空を真っ白に染め、次いで猛烈な熱風が僕を襲うと、次の瞬間、僕は意識を失ったのだった。




 その時一体なにが起きたのか、僕には知る由もない。これがトラックなどに轢かれたのなら異世界へのフラグなのだろうが、そんなテンプレ的要素は微塵もなかったと最後に記憶している。


 そしてこれが僕の第二の人生の始まりとなるのだった。



 □



「い、痛ひ……で、す……」


 目が覚めたらそこは真っ白な世界だった、とか。

 目が覚めたらそこは鬱蒼とした森の中だった、とか。

 目が覚めた見知らぬ天井が、とか。

 目が覚めたら、オギャーと生まれたばかり、とか。

 目が覚めたら見眼麗しき女神さまが目の前にいた、とか。

 目が覚めたら貴族の末の御曹司や第12ぐらいの王子様だった、とか。


 そんな異世界転生、転移を想像していた僕にとって、目が覚めたら薄暗い谷底で倒れていて、血塗れでとても痛かった。は、どう考えても異世界転生、転移から逸脱しているように感じる。


 何故異世界に転生したかと考えたのかと言えば、話は簡単だ。

 最初は、最後の記憶通り何かの事故に巻き込まれ、怪我をして倒れていたのかと考えたのだが、これは全く違う状況と判断できたからだ。


 谷底に倒れていた僕は、以前の僕ではなく、まったく別の僕だったからに他ならない。

 わかり辛いかな? 簡単に言えば、僕の前の身体ではなく、別の身体に僕が入っているという事。29歳で若干のメタボの僕が、少年のような体付きをして血塗れだったのだ。


 ──そう、僕は大望の異世界転生を果たしたのだ。



 こうしてこれから、僕の波乱万丈な異世界生活が始まるのだった。


主人公は当分の間底辺を驀進します。物語の後半で異能を手に入れますので、よろしければ完結までおお付き合いいただければ幸いです。

ブクマ等いただければ嬉しいです。よろしくお願いします。


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