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第二王子はヘタレない

作者: 千鶴

ヴァイスは苦悩していた。

自室の椅子に座りながら、眉間に盛大な皺を刻んだ彼はこの国の第二王子である。

兄である第一王子は金髪碧眼の王子らしい見た目をしているが、第二王子であるヴァイスは銀髪に翡翠色の瞳を持つ。

そんな彼の悩みというのが愛する婚約者であるブラオ侯爵家のアリシアのことだ。


先日、定期的に開催されている二人きりの茶会にて、アリシアは穏やかに微笑みながらヴァイスに言ったのだ。

「ユリア嬢とはいつ結婚するのですか」と

これに驚愕したヴァイスはしばし唖然としてしまった。

何故彼女の口からユリア嬢の名前が出るのか、何故話が結婚に飛んでいるのか。


正気に戻った彼は慌てて誤解を解こうと口を開いたのだが、ちょうどそこに彼女の使用人が迎えに来てしまい、茶会はお開きとなった。結果訂正も出来ないまま今に至る。

そもそもだ。そもそもヴァイスとアリシアは政略結婚のために婚約している訳ではない。

いや確かに第二王子と侯爵家、家柄や家格は重要視されているのだが、彼らが婚約した一番の理由はヴァイスがアリシアに一目惚れしたからだ。


今は昔、彼らがまだ幼い頃、王城へ挨拶に来たブラオ侯爵家当主とアリシア。

偶然そこに居合わせたヴァイスは体に衝撃を受けた。

これが天啓かと。彼女こそ我が妻に相応しい人だと。

電撃的で衝撃的な初恋に、彼らが帰った後ヴァイスは父王に詰め寄った。

アリシアを妻に迎えたい、彼女しかいらない、彼女を妻に出来るなら王子としていや未来の臣下として一層励むと。


そうして婚約出来たアリシアへ、ヴァイスは常々態度で分かりやすくアプローチしてきたつもりだが、今一手応えを感じられずにいた。

それがここにいたって恋しい彼女が甚だしい勘違いをしている事に気付く。


彼女の言ったユリア嬢とは学園にいる間、理由もなく馴れ馴れしく話し掛けてくる礼儀知らずな男爵令嬢のことだろう。

かの男爵令嬢は何を勘違いしているのか、婚約者のいる高位貴族の子息達にべたべたと絡んで来ては彼らに愛されているのは自分だと吹聴している。

貴族の責任として、また実際に婚約者を愛する者として、彼らはユリア嬢に甚だ迷惑していた。

しかし彼らが未だユリア嬢を断罪出来ていないのは、彼女が絡んでくる度に兄であるシロウ男爵子息がすっ飛んできて土下座せんばかりの勢いで謝罪するからだ。

よくよく言い聞かせると言う彼は実際その通り妹を注意し叱り、常に胃を痛める毎日を送っている。

特別優れた所はない男だが、誠実な行動を心掛ける彼には教師陣も何かと不憫に思っている節があり、ヴァイスもまたシロウ自身に恨みがあるわけではない。

二人の父であるホーク男爵も謝罪していることから、あとはユリア嬢の勘違いをどうにかすれば良いというところでこの事件だ。


何が悲しくて一目惚れした麗しい婚約者を差し置いて、世間知らず常識知らず礼儀知らずな男爵令嬢に入れあげねばならんのだ。

いくら自分がアリシアの前では、好きすぎて緊張して嫌われたくなくてぎこちなくなり愛を囁けるほど女慣れしていないヘタレだといっても、この勘違いはあんまりだ。死にたい。


このままでは不味い、完全に手遅れになってしまう。どうにか誤解を解き勘違いを訂正し、何とか彼女を真実愛していると理解してもらう。

あわよくば彼女に愛してもらおうと発起したヴァイスはその日からより直接的な行動を開始した。


それに手伝いを申し出てきたのはヴァイスの専属使用人であるファーベ。

彼は日頃、主であるヴァイスからどれだけ婚約者が愛らしく麗しく可愛らしいかのろけを聞かされては、嫌そうに話し半分で聞き流してきた。

いつまで経っても何も進展しないどころかのろけしか言わないヴァイスを鬱陶しく思っていたファーベは、どうせ手伝いをしろと駆り出されるだろうしさっさとくっついてくれれば自分の負担も仕事も今より少しは減るだろうと思った。


嫌気と打算にまみれた使用人と恋するあまり空回り遠回り気味な第二王子、そしてアリシアに世話になってきた人々の恩返しによる「第二王子ヴァイスと侯爵令嬢アリシアをくっつけよう大作戦」は学園を巻き込んだ騒動に発展していくのだが、彼らはまだ何も知らない。

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