7話 ダンジョンへ
――ゼブパーティの洞窟探索
「さぁ、それじゃあ中へ入ろうか」
私達は今この辺りに発生中の濃い瘴気の原因がこの洞窟だと断定し、中を調査……原因究明を果たすべくやってきている。この村の住民は濃い瘴気のせいで外へ出ることができない。魔装魂など、皆が完璧にできるわけではないのだ。
こんな瘴気の場所では、生半可な魔装魂ならすぐに気分が悪くなり、最悪死に至らしめる。私達を受け入れてくれた村の人たちには恩返しをしたい。瘴気に侵されていない新鮮な空気を吸わせてやりたいのだ。
「にしても四人でパーティーを組むなんて本当に久しぶりね!」
「そ、そーです。試練を受けたらすぐ帰ってくるって言ったのに……」
「ご、ごめんよカレナ。あそこは実験がすごく進んだんだ! 僕は一度降りると帰れないって条件だったからね……」
「まぁ結局こうやって降りてきちゃう事になったけどね!」
「ティタに子供ができるなんてびっくりです」
「ここを出た時紹介するわ! すっごい子達なのよ!」
「お前さんたちそろそろ魔物の気配がするぞい。武器を構えてくれい」
各自、さっと切り替えて臨戦態勢へと入った。
すると前方より、5m級のハイシャドウが現れた。ハイシャドウと言うが、シャドウが単純に大きく育ったような感じだ。
あそこまで大きくなると、中途半端な攻撃ではコアまで魔法が届かない為、ティタかモトゥルがコアの前部分を攻撃し、少し薄くなったタイミングで私がアイススピアを放ち、コアを消滅させるのが定石だ。
「まだそんなに奥まで行ってないけど、こんなのが出るのね……」
「なかなか手強そうなダンジョンだね」
倒したハイシャドウが落とした魂片を回収し、私は光魔法の浄化光を描いた触媒紙を取り出し、その場に設置した。
シャドウや魔物を倒して、瘴気が減った時にこれを設置することで一定範囲を浄化できる。効力は瘴気の濃さにもよるが5日間程と結構持つのだ。これを一定毎に設置しながら奥へと進んでいくことにした。
その間にもハイシャドウとシャドウがぼちぼち出てきたが、手際よく倒しながら進んだ。
「もっと迷路みたいになってると思ったのだが、意外と一本道だのう」
「迷わないでいけるから、良いことなのです」
「おっと、また前方から敵の気配じゃ。構えてくれ」
次に現れたのはシャドウウォーカーだった。ウォーカーになると人型の姿になり、はっきりと形が見て取れる。色の濃さで強さが変わるのだが……。
今回のは薄灰色……薄いとは言え、ウォーカーの時点で結構骨の折れる相手だ。
「ふむ。薄灰色[B-]って所かのう」
「モトゥル! 少し耐えてくれ!」
「おうまかせろい!」
モトゥルがウォーカーの攻撃を防いでくれている間に、私は触媒紙を取り出し、魔方陣を前方に移動させる命令と、3秒後に発動の命令を描き加えた。
そして、すぐに魔方陣を発動させた。触媒紙が消えながら魔方陣を生成、魔方陣がウォーカー目掛けて、真っ直ぐに向かっていった。上級魔法になると、魔方陣に移動術式を組み込まないと効果が無いようなものが増えて面倒だ。
立ち位置によって移動条件を変えなければならないから、書置きもなかなか出来ない。
丁度ウォーカーの足元に魔方陣が行ったくらいで、水魔法上級アイススパイクが魔方陣より発動した。ウォーカーにそれが突き刺さったが、まだ生きているようだ。
その瞬間、ティタがモトゥルの前にでて、柔型上級剣術[魔装・剣舞6連]を放った。閃光脚とブーストスラッシュを組み合わせた剣術で、閃光脚で敵の周りを高速移動しながら体を回転し6回全方位から斬りつける。ブーストスラッシュで加速しながら身体を回転させるから非常に速度が乗っていて重い攻撃になっている。またその攻撃はダンスを踊っているようで美しい。
ティタに一目惚れしたのも、これを見た時だったな……。
そんな事を思っている内に、ウォーカーは完全に切り刻まれ粉砕された。
「ふう、なんとかなったわね!」
「ティタ、少し怪我してるです。ヒーリング」
カレナはティタの腕についていた切り傷を治した。そして一息つこうとした瞬間、影から二体のシャドウウォーカーが突然攻撃を仕掛けてきた。
「危ない!」
モトゥルがすぐさま前衛に出て、攻撃を受けた。一体の攻撃はシールドで防いだが、もう一体のウォーカーの攻撃は被弾してしまった。
「ヒーリング!」
すぐさまカレナのヒーリングが発動、傷が完治した瞬間、後ろに下がっていつもの隊列に戻った。私もそのやり取りの間、アイススパイクの触媒紙2枚に発動条件を描いていた。
「行きます! アイススパイク!」
魔方陣は2体の元へ移動し、アイススパイクを発動させた。しかし、一体はかすった程度、もう一体には完全に避けられてしまった。
「濃い黄色と青色のウォーカーじゃ! 二体同時とはな!!」
モトゥルはシールドに闘気を込め、青色ウォーカーにシールドバッシュを叩き込んだ。
そのタイミングで私はアイススパイクを準備、すぐさま2発を青色ウォーカーに放った。
モトゥルの攻撃で倒れていた青色ウォーカーにアイススパイクは2発とも命中し身動きが取れなくなった。それを確認後――
「ティタ! モトゥルとスイッチ! 青色を叩いてくれ!」
濃い黄色ウォーカーと交戦していたティタは一瞬で後退し、横からモトゥルが濃い黄色ウォーカーに突進していった。その際、カレナがティタの剣に炎を付与し、そのままティタは閃光脚で青色ウォーカーの元へ即移動、魔装・一閃を放った。
アイススパイク諸共、大きな音を立てながら青色ウォーカーは両断された。
濃い黄色も同じ流れで、モトゥルのシールドバッシュで相手をひるませ、アイススパイクを放ち、ティタが魔装・一閃を放った。その技は見事にコアに命中し、濃い黄色ウォーカーは消滅した。
討伐後、瘴気が少し薄くなったので、浄化光をすぐさま設置した。
「ふうー……」
「今のは少しやばかったわね」
「ありゃどう見ても[B]と[A-]ランクのシャドウじゃ……」
「まだそんなに奥まで行けてないはずなんだけど、あんなのが出てくるとは……」
「ゼブ! さっきの戦いで剣がボロボロになったわ!」
「わしの盾もこの通りじゃ」
前衛二人の装備がかなり疲弊していた。剣も目に見えて歯がボロボロになっている。これ以上進むのは得策ではないだろう……。
「よし、今日はここでいったん引き返そう。装備を整えなおして再度挑戦しようか」
「それがいいです! このままでは危ないです!」
「装備を揃えるには、最後わしらが通ってきた、街まで戻ったほうがいいじゃろう……」
「そうだね。戻って準備に取り掛かろう」
「ウォーカーいっぱい倒したからお金いっぱいです!」
シャドウを倒すとでてくる魂片はこの世界の通貨だ。濃い黄色や青色がちらほら獲得できたから、装備は十分に整えられるだろう。
「にしても結構拾えたね……。薄いのはうちに帰ってから濃縮するよ」
「それじゃあ戻るわよ!」
こうして今回の様子見探索は無事に終わり、私たちは一旦帰ることになったのだ。