48話 冒険中
野宿と言うのに、ぐっすりと眠る事ができた。ここは程よい湿気に包まれ、少し肌寒い気候である。アルネさんをみるとあまり疲れが取れて無さそうだ……。
俺らが寝ている時、ずっと周囲の様子を見てくれていたのだろう……。安全に眠れる場所で、アルネさんにもぐっすりと眠って欲しいものだ……。
「お、起きたか。スープがもう少しで出来るぞ」
「おはよう御座います。凄くいい匂いですね……」
ミルクの様な匂いが漂う、クリーミーなスープをアルネさんが作ってくれている。
「さっき、シャドウラビットがおったんで、そいつの肉とチーズ、粉にしたミルクを入れただけの簡単なスープじゃよ」
スープを皿に入れ、俺はデバシーからパンを3つ出し、各自に渡した。
「ではいただくかのう」
この世界に来てからパンとスープをメインで食している。魔法で火と水は出せるから一番作るのが楽なのかもしれない。火を通して、煮込めば大体食えるだろうしな!
「食い終わったらすぐに出発するぞ。今日中に馬を借りられる村に行きたいからのう。夕方ごろには多分つくじゃろう」
「わかりました!」
さっと食事を済ませ荷物をまとめ、早々に出発する事にした。
・・・
木々の間から日差しが程よく差してくる。上を向くと葉っぱがキラキラしていて、とても綺麗な光景だ。
「この森ってこんなにも広かったんですね……」
「そうじゃよ。広大な森でずーっと気候もいい感じじゃ。住むにはとてもよい所じゃな」
「そういえば暑かったり寒かったりは全然しなかったね……。ちょっと湿気が強いけど過ごしやすい気温だもんな!」
「ただ、あの村はちと奥地過ぎて出るのは大変じゃな……。瘴気に耐性が無いとまったく出られないからの……」
「ゼブ達が来たおかげで村周辺は瘴気が晴れておるし、村の住民もわしが住んでいた頃よりは遥かに元気になっておったよ。嬉しいもんじゃ」
「さすが父さんたちだな!」
「そうですね!」
そんな会話をしつつ、引き続き村を目指した。道中シャドウハウンド、シャドウラビットは出てきたがそれ以外は殆ど出現せず、順調に進んでいく事ができた。
「お、もう村が見えたぞ! まだ日は落ちておらんのに……。いいペースじゃな!」
そういいながらアルネさんは目の前を指差した。初めて目にする別の村だ。なんとなく緊張するな……。
「ここも基本的にいい人しかおらんよ。今日はここで休憩して明日の朝に出発するぞ。先に宿をとってその後は自由行動じゃ。だが! 村からは出ないようにな」
はーい! と二人で返事をし、まずは宿屋へと向かった。
「いらっしゃい。お、アルネさんまたいらっしゃったんですね」
「また世話になるぞ! あの時いうてた子がこの二人じゃ!」
「ほー。まだまだ小さなお子さんじゃないですか。それなのに凄いなぁ……」
アルネさんが何を宿屋の店主に言ったのかは分からないが、軽く会釈をしそのまま部屋へと案内された。
部屋に入ると大きめのツインベッドの部屋になっており、俺らのサイズなら余裕で一つのベッドで寝られそうだ。
「すまんのう。ベッドが二つの部屋が最大でな……なんならわしが床で寝るから二人は……」
「何を言ってるんですか! 僕達は一つのベッドで寝ますので、ゆっくり寝て下さい。大きいから余裕で寝れますし!」
「そうだよ、しっかりと休める時は休んで! そんなに気を使わないでよアルネさん!」
「そうか、いい子達じゃのう……。ではお言葉に甘えるとするかのう」
そういうと一旦荷物を降ろし、休憩することになった。
実際、しっかり休んでもらわないと、道中で何かあっては俺達だけではどうにも出来ない……。今回の旅でしっかりと冒険の基礎を覚えていかないとならない。
今後、他の人とパーティを組む事もあるだろうし、覚えていて損は無いはずだ。
「マッピングもいい感じに出来ましたね」
「そうだな。デバシーを見ながらならここまでさくっと行けちゃうね!」
「さて、私は準備と休憩をさせてもらうが、二人はどうする? 夕方になれば宿屋で食事も頂けるからのう。先に馬を見ててもいいし、武具を売っている店もあるぞ。特に、ネビアは軽量な盾くらいは装備しておいた方がいいと思うぞ。不意打ちを食らった時にとっさに防げるものはあるほうがいい。ここで探してみるのもいいじゃろう」
「たしかにそうだな。ネビアは現状装備なしって感じだもんな……」
「ですね、鉄のダガーは持ってますけど、実戦用ではないですし……」
「じゃあ、とりあえず武具屋を見に行こうぜ! 馬も気になるけど明日見れるしさ!」
「分かりました、ではアルネさん! ちょっと行って来ます!」
「あいよ。夕方にはもどるんじゃよー」
そういって俺達は武具屋の方へと向かった。
・・・
「いらっしゃいー。おや、小さなお客さんだね。ゆっくり見て行ってね」
とは言いながらも、接客する気は無いみたいだ。それもそうだよな……こんな子供が武具屋に入ってきても見て楽しむだけだと思うよな。俺だってそう思って放置するだろう。とりあえず値札と商品を見て、デバシーで写真を撮影、それにメモを添えていった。
大体の相場がこれで分かればいいんだけどね……。意味が無いかもしれないけれど残しておこうと思う。値札の書き方は木の剣[無5 薄黄1 黄3]とか、鎖張り木の盾[黄8 青1]とかで書かれている。ぱっと計算できるまで覚えるのが結構面倒だな……。
この世界では通貨として魂片を使っているけれど、触媒紙とかの材料だったり、武具に混ぜ込んだりと、燃料的な役割もあるもんな……。
石油とか鉄とかで取引しているようなものだよな。まぁでも濃縮できるから物凄くかさばる事もないし、困る事も無いのかな……。
「坊や達はどこから来たんだい?」
「あ、アルネさんって人と森の奥にある村からきました!」
「ほー。森の奥からかい! 大変だったねえ」
店の人がこっちの方を気にし始めた……。まぁわけのわからない道具出して何かしてるから気にもなるよな……。
「あの、すいません。僕みたいな小さい体でも付けられる盾とかありますか? 出来れば丈夫で軽いと助かるのですが……」
「うーん。君達本当に購入しようと来たんだね……とは言っても、安くてそんないい物はちょっとなあ……。あっちの棚にあるやつで何か探しておいでよ」
ちゃんと探してくれる気は無いみたいだ。どうせ買うなら一番いいものを頼むって感じだしな……棚にあるのは一番良くて鉄の盾か、バックラーじゃないから俺らにしたらかなり大きいものだ。
「ちなみに! このお店でそういう盾で自慢の一品みたいなのあるんですか! 買えないかも知れないけど……見てみたいです! お願いします!」
ネビアが咄嗟に出した提案だった。他にお客さんは居ないし、もしかしたら見せてくれるかもしれないしな!
「ふむ、あるっちゃあるよ! まぁ暇だし見せてあげよう!」
そういうとお店の人はカウンターの奥にある棚をあけ、一つの埃の被った布を取り出し、そこから小さな盾を出してきた。
「これは[シャドウマグマゴーレムのコア]で作ったバックラー、[溶岩の盾]だよ! 火耐性に関しては中々の物で重さも結構軽いんだよ!」
「あの、少しだけ触ってみてもいいですか?」
「うーん……まぁいいぞ! つけてみてもいいよ」
そう言われたのでネビアは早速溶岩の盾を装備してみた。
「バックラーだけど僕がつけたらほぼ盾みたいな感じになりますね……。でも凄く軽いですよ!」
「そうだろ! 先代の渾身の品だからな!」
「ちなみにこれはいくらで売ってるんですか?」
「これは一応紫4で販売しているよ。これが売れちまったら、一月半は店を閉めても生活が出来るね……」
一月半か……この辺の人は大体紫3位を毎月稼いで、それで生活しているのかな? 言ってみれば、月々30万くらいか……妥当な気もするな……。
「じゃぁおっちゃん! これ紫4つね、売って!」
俺は財布から紫を4つ取り出し、カウンターに並べた。
「へっ……? えっ! ま、まいど有難う御座います!」
おっちゃんの態度が一変し、手を揉んでいる。
「フィアン、いいんですか? 節約しないと……」
「言ったら命を守るための出費だろ? この位は生きて稼いだら良いんだよ! まぁ俺らは出し惜しむタイプの人間だけど、死んだら全部終わりだ! 出来る事はすべてやって命を張ろうぜ!」
自分で言ってなんだけど、何度も死に掛けてちょっと考え方が変わってる気がするな……。今、テレビゲームをやったら、出し惜しみなくエリクサーとか使うだろうな!
「もう日も落ちてきたし、宿にもどろーぜ!」
「またよかったらどうぞー!」
おっちゃんの気持ちのいい挨拶で俺達は店を後にした。
~デバシーmemo~
溶岩の盾を購入!
残金:赤1個・紫1個・青5個・濃い黄色20個




