44話 2度目の窮地
はぁ、普通こんな幼い年で二回も死に掛けるか……? まだ年齢二桁にもなってねーのにさ……まぁ自分の好奇心というか、自己責任だから何も言えないけどな。
さて、後ろから瘴気が迫ってくるまでに集中力を少しでも高めよう。
俺はもうほぼ吹っ切れていた。どこかで死ぬという事を受け入れている反面、どうせなら今の力を全部出しきって死にたいという欲があった。
――すぅ……
息を整え座り、集中力を高めた。回復と自身の心を少しでも落ち着け、最善の状況で戦いたい。
・・・
だいぶ迫ってきたな。さて、いくか。
腰を上げてシャドウノヴァを強く握りしめ、扉の先へと向かった。
くぐった瞬間、案の定というべきか……入ってきた扉は完全に瘴気に覆われ、戻れなくなってしまった。
それと同時に前方より鮮明に恐ろしく禍々しい気配を感じた。へたり込みそうになったが何とか踏み留まり、態勢を維持した。
「ほー今の威圧でへたり込まないなんて、君、結構やるね」
「え……?」
目の前から現れたのは、シャドウナイトの鎧とは比べ物にならない、禍々しいオーラが漂う、漆黒の鎧を纏った一人の青年が剣を持ち座っていた。
「まぁ、一人でシャドウナイトを倒したんだもんね。その程度では気圧されないよね」
その青年はその言葉を発した瞬間、自分の目の前まで来ていた。まったく見えなかった……。
「黙ってないで何か話したら? 所で君の持っている剣……」
その青年は俺の剣を指差した。
「僕のシャドウノヴァに似ているね。興味深いな……」
シャドウノヴァを持っている? いやそもそも状況が呑み込めていない……今は、ただただ恐怖を感じている……。
「あの、俺の……この剣を渡すので、帰してもらえませんか……? 元の場所に……!」
ダメだ、完全に戦意喪失してしまっている俺がいる……。
逃げることだけを考えている。死の覚悟ができただって……?
実際に圧倒的な死の予感を前に、そんな考えは甘かったと認識させられた。生きたい……逃げたい……!
「何を言ってるのかな? 別に君を殺して剣は貰うだけだよ。シャドウディメンションの餌にもすごく良さそうだよ君……!」
「それに、そんなまがい物の剣……僕は要らないな」
「まがいもの……?」
「たまたま僕が帰ってきているときにここへ来た、自分の運を呪うがいいよ」
青年はそう言うと流れるように剣を俺の胸に向かって突き出した。
「く……ッ!」
――キィンッ!
金属音が響き渡った。突き刺されそうになった剣を何とかガードし、思いっきりはじき返した。
完全に油断していた青年は弾かれ少し後退した。黙っていれば死ぬしかないのならやってやる!
「ほう……?」
「はぁああああ!」
俺は全身全霊を籠めて魔装魂を発動した。そして、
――ソード・カルテッド!
――エアソード・エクスプロージョン!
4本になった剣先で即座にエアソード・エクスプロージョンを放った。
「ブレードブラストか……そんなものは僕には効かないよ」
やっぱりな! こちらが絶対的に強者と感じている奴特有の、避けずに受けきる行為! そうしてくれると信じてたぜ!
見た目はブレードブラストだけど、当たったら爆発する俺のオリジナル技だ!
相手が武器を構え、攻撃をガードする隙に、闘気を剣先に思いっきり込めた。その瞬間、青年の剣にヒットした俺の技は爆発し、視界が悪くなった。
そしてそのまま閃光脚で青年へ一直線で向かった。
届け……ッ!
――魔装・一閃ノ四重奏!
4本の剣で魔装・一閃を放った。間違いなく、手ごたえはあった。
「頼む……死んでくれ……!」
思わず声が漏れ出してしまった。
基本的に、俺の戦法は不意打ち・速攻がメインだ。俺は打ち切った後はもう何も残されてないが、かなりのダメージは期待できる。
爆発の煙が引くと、無残に切られた青年がゆっくりと倒れていく。
「や、やった……!」
倒れた青年はそのまま消滅した……。
「へー、僕のシャドウコピー、倒しちゃうんだね。すごいや」
安堵の気分は一気に引き、自分でも顔が青ざめていくのが分かった。
「シャドウコピ―……技の制限はあるけどほぼ”今の僕”と同じ強さなんだけどな……君、名前は?」
「フィ、フィアンだ……」
椅子に座っている、傷ひとつない青年に俺は答えた。それと同時に今まで気付かなかったが、椅子の後ろに飲み込まれた時と同じような魔方陣が見える……。
というかあいつはここに戻ってきたと言ったな。あれに何とか入れれば外へ逃げられるんじゃないか……?
「フィアン……か。僕の名前はヴィスターン。君は、僕のペットのシャドウディメンションに運悪く捕まって挙句、僕の手によって、人生が終わる」
そう言いながらゆっくりと俺に近づいてくる。
「僕が消え逝く者に名前を名乗ったのは多分初めてだよ……。あの世で誇りに思ってもいいよ」
淡々とヴィスターンは話を続ける。俺は黙って聞く事しかできなかった。
「この技で一瞬で終わらせてあげるよ」
ヴィスターンはそう言うと力を籠めるような態勢をとった。
「堕天衣・黄昏」
堕天衣……!? ゼブと同じように片翼だが、禍々しい翼が生えている。こいつも天族なのか? いや、堕天使か……! てか、今しかない!
危うくその圧倒的な存在感に見惚れそうになったが、同時に大きな隙を感じた。技が完了する瞬間に、俺は閃光脚で全力で椅子の後ろの魔方陣まで超高速で向かった。
「いけ――!」
「あ……?」
後ろからさっきより更に……遥かに恐ろしい気を感じたが見向きもせず目の前の魔方陣でダイブした。
「間に合った……!」
その瞬間目の前に光が広がり、来た時と同じ感覚になった。
「……逃がしてしまったか。まったく、人が変身とかしてる時はしっかりと見るのが普通だろ。礼儀のない奴だ」
片翼を生やしたままヴィスターンはもう一度椅子に腰を下ろし、不気味な笑みを浮かべた。
「まぁ、またいずれ会うことになるだろうね。その時にはもっと強くなっていてくれよ……? 祭りが楽しみだ、くく……!」
そういうとヴィスターンは瘴気に紛れ消えてしまった……。