42話 シャドウディメンションの中
「油断は出来ないが、この通路……弱いシャドウしか出てこないな……」
さっきから出現するのはシャドウウォーカーの灰色が基本で、そこまで苦戦はしない。大体シャドウウォークからの不意打ち[ブレードブラスト]か[魔装・一閃]で即死してくれる。
お金(魂片)は美味しいからいいんだけども……。
「いや、フィアンさん……シャドウウォーカーでも最低4人PTとかで狩るそうですよ……? 普通にさっきから恐ろしいシャドウしか出てませんから……! 油断しないで下さいね……」
「油断しないよ! まぁ、ここに吸い込まれたのは油断したからだが……。町の外へ出たら緊張は解いてはいけないって事が十分理解できたよ……」
ちょっとした油断が命取りになるかもしれない。前の世界とは大きな違いだな。
まだ悪い人とかには会った事はないが、殺人とかもあるかもしれない……。気を緩めてはいけないのだ。にしてもネビアが居ないのは心細いな。ダンジョンはやっぱり一緒に潜りたいよな……。
「フィアンさんまた扉ですね」
長い一本道の先にまた大きな扉が見えてきた。それにしてもまた分かれ道とか無かったな。道はシンプルな方がいいけども!
「またぶった切るか。ルーネ下がってね」
――魔装・一閃!
目の前の扉は真っ二つとなり、道が開かれた。
「次は大きな部屋のようですね……」
「そうだな、しかもこの嫌な感じ……! シャドウナイトのときに感じたものに近い……」
そう思うとあの時、シャドウナイトに半殺しにされたことがフラッシュバックした。それと同時に底知れぬ死の恐怖が全身に巡り、背筋が凍りつくような気分で震えだした。
「くっ……! はぁはぁ……」
「フィアンさん! 大丈夫ですか……!」
「ふう、大丈夫だよ。やっぱり、シャドウナイトの時に感じた恐怖はまだ拭えてなかったみたいだ……でも止まるわけには行かない……!」
「フィアンさんっ!」
そういうとルーネが俺を強く抱きしめてくれた。すげえ安心できる……。
「フィアンさんもルーネの事もっと頼って下さいね? こんな事しか思いつかないですけど……」
その言葉に甘えて力いっぱいぎゅっとした。気づけば体の震えは止まっていた。
「ルーネありがとう……! 落ち着いたよ……」
「えへへ、どういたしましてっ」
「俺は、まだまだ弱いな……」
「フィアンさん何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよ。行こうか」
色々な技を覚えて、光属性の技も出来て、結構強いはずの親にも勝てた。ハッキリ言うと自分の力は相当強いものだと思っていた。いや、力だけなら今も思っているか……。
だけど、俺は絶対的に心が弱い。何も知らない赤子からこの力を手に入れたのならそれを存分に振るえただろう。しかし、生前の記憶があって、絶対的な威圧感のある強者と対峙した時、出てくるのは前の自分の精神と心……。何も出来ない自分が出てきてしまう。
もし、誰かが苛められていて、いじめるそいつが圧倒的に格下でも、俺は見て見ぬふりをしてしまうだろう……。一度でも味わった恐怖や負けを克服出来ずに引っ張ってしまう。
そんな自分が本当に嫌になる……。というか転生前の嫌な記憶がよみがえりそうだからもう考えるのはやめよう。
「フィアンさん、入りますよ! 集中してくださいっ!」
「あ……ああ、ごめんよ」
恐怖を引っ張ってしまう自分はこれから変えていく。形成されきった心を変えることが出来るだろうか……。俺は気持ちを切り替えて武器を構え扉をくぐった。
中に入った途端に案の定、入ってきた扉には濃い瘴気が回り込み戻れなくなってしまった。目の前には奴がハッキリと目に映っている。俺達が半殺しにされてしまった奴の姿が!
「また会ったな……シャドウナイト!!」
「フィアンさん、前のシャドウナイトは倒したから別のシャドウナイトですよ? 初めて会いますので初めましてですね!」
「いや、ルーネさん……。それは分かってるからね……? こう、何て言うか……よし、とにかく油断しないように!」
「はい! フィアンさん!」
危ない危ない……。一瞬気が緩みかけたけど、緊張が少しほぐれた気がする。いい感じだ。
「くるぞ!」
シャドウナイトは剣を振り上げるとシャドウウォーカー[紫]が地面から2体出現した。
「おいおい、いきなりだな……」
「紫色です! かなり手強いですよ!」
「ルーネ最初から全力で行こう! 纏光を頼む!」
「はい!」
――纏光! !
ルーネが光に包まれそのまま光の粒子となりフィアンの全身を包み込んだ。
「よし、行くぞ!」
――ホーリーソード・カルテット[聖剣の四重奏]
ライトペイントの効力を併せ持った闘気剣が3本出現。自在に動かすことが可能。
――ブレードブラスト・ライト
剣先に闘気を込め、真っ直ぐに突き、闘気を放つ。瞬間的に狙った場所へ刺さる。
「よし!」
ホリーソード・カルテットで計4本となった剣先からブレードブラスト・ライトを放った。それは向かって右端に居たシャドウウォーカーに4本とも刺さり、消滅した。
そしてそのまま間髪を入れずに左側のシャドウウォーカーへ閃光脚で飛び出し、魔装・剣舞4連を放った。
しかし、3連目のタイミングでウォーカーの前に来たシャドウナイトにガードされ、バランスを崩してしまった。超高速での剣舞だが、止められてしまった場合は致命的だ。
ダンス中に足を掛けられるようなもので、そのまま倒れこみそうになったが、瞬時にソードエクスプロージョンと閃光脚を発動し爆風に紛れ後退した。
「くっ!」
―――ブレードブラスト・ライト!
後退しながら溜めた闘気で着地した瞬間にシャドウナイトに放ったが、それと同時にウォーカーがナイトの前に出て、ウォーカーが身代わりになって消滅した。
「はっ……! 身を挺してそんな事も出来るのかよ……」
この時点で光の剣技を計3回使用している。理想はこの時点でシャドウウォーカー2体消滅とシャドウナイトに致命傷を与えていることだったが、シャドウナイトはノーダメージだ。
また、光技を放つ毎に大きく魔力を消費しているのが実感として分かる。
「決め切れなかったか……。ルーネ、纏を解除してくれ。そんで小さい状態で俺の服の中へ」
「はい! フィアンさん!」
ルーネも俺がかなり消耗しているのを感じていたんだろう。纏をさっと解除し、小さい精霊モード(と勝手に呼んでいる)になり、ライトウイスプのような状態となって俺の服にもぐりこんだ。
「怪我したらすぐに回復しますからね!」
「ありがとう。さて、第二ウェーブ開始だな」
シャドウナイトとの1対1となったが、必ず勝つ……!