41話 マッピング②
「うーん、たいした敵も出てこないし、訓練にはならないね……。本当にマッピング作業って感じだ。さっきの怪しかった洞窟、少し入ってみるかなぁ」
「だーめです! ダンジョンに入らないって約束ですよ!」
「でもただの洞窟かも……」
「いいですか! ただの洞窟なんてものはほぼ無いと思ってください! 基本的には瘴気が原因で突然洞窟が生成されるんですから! しかも明らかに洞窟の周りは瘴気が濃くて、シャドウもいっぱいいたでしょ!」
「はは……冗談だって! 行くとしてもネビアと一緒に行くよ!」
「そうしてください! まったく、シャドウナイトで普通懲りるでしょう……」
そんな雑談をしながらのんびりマッピングを続けていたが、急に寒気のようなものを感じた。
「何か嫌な気配だ……! ルーネ、俺の傍に来い」
「はい……!」
ルーネは俺と背中を合わせるように引っ付き、俺はシャドウノヴァを構えその場で止まり、辺りを警戒した。
「ふむ、気のせいなのかな……?」
そう言って戦闘態勢を解いた瞬間それは起こった。
「え! な、なんだ! 吸い込まれる……ッ!」
何もない目の前の空間が突如ひびが入ったように裂けて、パキパキと音を立てたと思った瞬間、そのひびに思いっきり引っ張られた。
身体にうまく力が入らず、そのまま引っ張られひびの部分に衝突した。その瞬間ひびが思いっきり割れて、中から魔方陣……と呼ぶのだろうか。
複雑怪奇な模様を立体的に描いたモノに吸い込まれ、光に包まれた。
・・・
「む、どこだここは……」
ハッと気がついた時には、よくわからない空間に立っていた。周辺は恐ろしく濃い瘴気の壁で覆われており、目の前には大きな扉があった。瘴気からは不気味な光を放っていたので、視界はそこまで悪くなかった。
「これは、フィアンさん……! やばいです……」
「突然飛ばされて訳のわからないとこだもんな。とにかくこの瘴気の壁は壊せない。目の前の扉を進むしかないな……」
「ルーネも実際捕まるのは初めてですけど……ここは間違いなく、シャドウディメンションの中です……!」
いつも元気なルーネが顔面蒼白でひどく怯えている。そんなにやべーとこなのか?
「ルーネ、落ち着いて……」
怯えているルーネを抱きしめて、安心させる事にした。
「フィアンさん……」
「ちょっとは落ち着いた? 俺が一緒にいるんだから、怖くなったりしたらいつでもぎゅってしてあげるからね! んで、そのシャドウディメンション? 知ってる事を教えてほしいんだ」
「はい。シャドウディメンションはとてつもなく、信じられない大きさのシャドウと言われています。今いるのはそいつの胃の中……というのが一番しっくりくる説明ですね……」
「ふむ、つまりあの魔方陣がそのシャドウディメンションの口みたいなもんで、それに喰われちまったって事か……」
「そうです。ここで死んで消滅したらシャドウディメンションの栄養になります。謎の失踪事件の多くはシャドウディメンションが原因と言われている程です……」
「出られないのかな……?」
「正直分かりません……。ただ、精霊界では脱出したという話は聞いたことがありません……ぐすっ……」
「よしよし、泣かないで。まぁ胃袋って事は異物が入ったと認識すれば吐き出してくれるだろう……。とにかく諦めずに進んでみようぜ!」
「はい……!」
「ルーネっ! 泣いてる顔も可愛いけど……いや、可愛いからそのまま続けて!」
そう言って俺はルーネの顔をじーっと見た。
「ふふっ、もう! フィアンさん、そんなに見られたら泣けないでしょ!」
「やっぱり笑ってるのが一番可愛いよ」
「むっ、もう! からかわないで下さい!」
俺はルーネをなでなでした後、目の前の扉と対峙した。この先に出口はあるのか……それは正直俺も不安だ。でもこの扉以外行く道はない……進むしかないな。
「よし、開けるぞ! 必ず脱出するぜ!」
「はい!」
意気揚々と目の前の扉に手をかけたが……。
「……ルーネ様、硬くて開きません」
「何故突然様を!? えっと……なら壊しましょうっ」
「確かに。ルーネちょっと下がっててね」
――魔装・一閃!
斜めに魔装・一閃をぶち込むと扉は綺麗に真っ二つとなり、その先には瘴気の壁に覆われた通路が現れた。
「よし、こっから気を引き締めて進むぞ。ルーネ、ライトウイスプだけ出しといてくれないか?」
「わかりました!」
ルーネがライトウイスプを放ち辺りが明るくなった。見れば見るほど不気味な空間だ……。シャドウナイトの時に入り口を防がれた濃い瘴気が全体にあるような感じだもんな……。
恐ろしく強い敵が待ってたりしないよな……? シャドウナイト位なら一人でやれるか……? あの頃よりは強くなっているはずだ……!
剣は構えたままで、シャドウウォークをしながら全身で警戒した。油断して死ぬのだけは絶対にしたくない……俺とルーネは今までに無い程集中し、通路を進んでいくことにした。