4話 魔法と剣と俺と俺
まず、半信半疑だったゼブに一通り出来るようになった魔法をお披露目した。
出し惜しむ必要も無いと思ったので、掌でライトペイントを操作し、ほぼ即時で全ての魔法を打った。
ゼブはぽかーんと口をあけて、一瞬止まっていたが、
「すごいよ! え、なんだい今のは! 魔方陣を描いてないじゃないか!」
ティタと同じように目を輝かせて質問攻めにしてきた。修行に支障をきたさぬよう全ての情報を伝えた。
「なるほど、ライトペイントにそんな応用が利いたなんてね……」
ゼブも試そうとしながら話していたが、一つの球を動かすのにも相当苦労していた。
「二人とも、それは大発見だよ。大体どこの魔術学校とかでもライトペイントで描ける様になったらすぐさま四大元素魔法の授業に移るからね。ライトペイントを極めるなんて、そんな発想は今までに無かったよ!」
「これは教え甲斐がありそうだ……」
ペンの握り方を覚えたらすぐ絵を書き出すのが一般的で、ペン自体を改造するような俺達の行動は理解できるものでは無かったらしい。
先ほどの半信半疑の目は完全に消えており、セブは俺らに如何に教えようかと頭を悩ましていた。
とにかく嬉しそうな両親をみて、俺もなんだか嬉しくなった。
修行に関しては、勉強・魔法練習・剣術・休日(二人で修行)この流れでずっと繰り返してきた。
ゼブとティタは仕事を交互に行くようになり、それぞれ教えてくれるような形だ。
休日、外に出るのは許可をもらったが、森の奥の光の線からは出ないようにと釘を刺された。
光の線の先は魔物やシャドウが出るそうだ。シャドウと聞いた時、シャドウナイトに近づいた気がした。すぐに詳しく聞きたかったが、変に興味を持ったと思われて森に行くのを禁止にされては困る。
今は触れずにいつか聞く事にしよう。とりあえず、こんな感じで割とハードなスケジュールだが、ネビアも一緒に付き合ってくれた。
修行を続けるうちにある差が大きく出てきた。そう、魔法と剣術の能力差だ。
ネビアは魔法に関しては俺のかなり先を行っている。嫉妬とか忘れてしまうレベルにだ……一方剣術に関しては俺の方がはるかに上達していた。
体力と言うのだろうか……。まず、その部分の差が凄かった。とにかくどれだけ身体を動かしても全然疲れてこないのだ。ネビアが剣術でぐったりしてる中、俺は元気いっぱいだった。
しかし、逆にネビアはどれだけ魔法を使っても疲れを見せなかった。俺は逆に魔法を使いすぎると物凄い疲労感に襲われてしまうのだ。綺麗に特性が分かれているもんだ……。
ちなみに、剣術にも階級が見習いから上級まであるのだが、3つの型がある。
・守りに徹する守型、装備は大き目のシールドと中型の剣
・攻撃力に特化した攻型、装備は大剣や長剣を使用する。
・攻撃重視の守りも行う柔型、剣と盾ではなく剣と篭手の様なものを装備する。
母親が柔型なのでそれを学ぶことになった。剣術といっても自身の身体的部分を魔力で強化し、爆発的な速さで移動や、攻撃を行う。
魔力を自身に纏うようなイメージだった。
俺が最初にネビアを背負って、かなりの速さで移動できたのは、剣術の初級、閃光脚という技を使用していたからだったらしい。
結局は魔力を使っているそうなのだが、身体の中の魔力の出所が違うというか……なんとなく決定的に違う力を使っている感覚があった。
事実、俺らにもかなりの差が出ているわけだから、魔力と一つの括りにしていいものなのか微妙である。
この違和感をゼブに話してみたが、
「身体に留めるのと、外に放つのではイメージが大分違うから、そのように感じるんじゃないかな?」
とあまり納得がいく回答は貰えなかった。
まぁその辺については、一旦今はあまり気にしないでおこう。
・・・
月日が経ち……俺達はちょうど4歳になっていた。自身の成長は喜ばしい事だが、正直言うとすごく焦っていた。何故なら、シャドウナイトを後1年程で倒さなければならないし、もうあまり時間が無い気がしていたからだ。
しかし、ここまで頑張ってきたおかげで、魔法と剣はかなり出来るようになった。
現時点で出来るようになった事をまとめようと思う。
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フィアン
魔法
火:中級 水:中級 風:初級 土:初級
剣術
柔型:中級 攻型:初級 守型:見習い級
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ネビア
魔法
火:中級 水:上級 風:中級 土:初級
剣術
柔型:初級 守型:見習い級
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ざっとこんな感じだ。魔法と剣術でやはりかなりの差が出ているな……。
4歳でこれだけ出来たら十分な気がするけど、念の為一般的な4歳がどれほどの実力かを両親に聞いてみたら、ものすごく興奮しながら話し始めた。
「天才って言葉じゃ足りないわ! 魔法は初級全部できたら立派な一人前って言われるのよ! その歳で中級を複数、ましてや上級ができるなんて……」
「剣術も中級が出来たら騎士なんて一瞬でなれるわ! 二人とも本当に凄いわよ!」
「二人とも……本当に凄いや。誇りに思うよ」
また、休日と設定している日は、森に二人で修行に行くのが定番となっていた。俺は家に忘れ物をしてしまい閃光脚で取りに行ったが、その時……。
両親の部屋からぎしぎしと音が聞こえてきた。しかも不用意に扉が半開きだ。生唾を飲んでこっそりのぞいてみたが……。
「ゼブ……ッ! ダメよ! もう足が言うことを聞かないわ……」
「まだまだこれからだよ。ヒーリング」
「ゼブ! お願い私にもヒールかけてよぅ……一人だけずるいわ……」
「君にかけちゃうと折角ここまでよくなったのも治っちゃうからね……駄目だよ? じゃぁ続きを始めよっか」
いかんいかん……両親の営みをこんなガン見するなんて。
にしてもゼブはプロレスの時は攻撃側になるんだな……。
普段見れない両親を見られただけでもよしとしよう。
俺は忘れ物を取って、こっそり森に戻ることにした。
俺は剣術をメインで特訓、ネビアは魔法をメインで特訓をするようにいつしかなっていた。
そんな中、ネビアの近くでごろんと寝転がった時に俺は、不意にある言葉を漏らした。
「どうせなら魔法いっぱいできるネビアのような感じで生まれ変わりたかったなあ……」
刹那、ネビアがすごく驚いた顔で俺を見た。
「フィアン……君も転生者なのですか?」
一瞬呆気に取られてしまったが、俺もその言葉を聞いて、ばっと体を起こしてネビアを見た。
「ネビア、君もってことはネビアも転生者なのか?!」
お互いその時、こいつただの幼児じゃねえって思ってた部分がぴたっと納得できた。
「おいおい、嘘だろ……? いや、こいつは普通の4歳児じゃねえ! とは思ってたけどまさか同じ転生者だったなんてな!」
「フィアン、私も同じ気持ちでしたよ。この4歳児は絶対におかしいって思ってましたもん」
顔を見合わせ二人で笑ってた。
そうなるとやっぱり話し出すのは生前のことだ。
お互い日本人だったこと、29歳の同い年だったこと。いろいろなことが分かってきた。
「フィアンは最後、何故こちらに来ることになったのですか? あ、いや……言いづらいことだったら言わなくてもいいですよ」
俺は最後にあったことを思い出して少し鬱な気分になったが、今は昔のことだ。むしろ同じ日本の話題ができるのはすごく嬉しかった。俺は赤裸々に愚痴をこぼすような感じで、こっちに来た理由を言った。
それをすべて聞いた時、ネビアは驚きのような、困惑のようなそんな顔をしていた。
「ネビア、そんな顔するなよ。俺は今、こっちに来て、幸せだし充実してるからさ。遠い昔話よ」
「フィアン……いや、違うんです。いやそんな……そんな偶然ってありますか……?」
ネビアが一人でぶつぶつ言っていた。
「ネビア……? どうしたんだ、日本のブラック企業でよくある話じゃないか?」
「フィアン!まだ少し信じられないというか……。あなたは---ではありませんか?」
ネビアは生前の俺の名前を知っていた。知り合いか何かなのか?いろいろ思考がぐるぐるしたが、続けてネビアは言った。
「フィアン、私も---なんです……」
え、どゆこと? 意味が分からないんだけど! もう思考が全く追いついてなかった。
「えっと、ごめん全く意味が分からないんだけど……」
「フィアン! 覚えてますか? まず、小学生の時――」
ネビアは生前の俺しか知らないような事をぺらぺらと全て話し出した。
俺も聞いてるうちに恥ずかしさやら色んな気持ちが混ざりつつも落ち着いていた。
「えっとネビア、つまり、ネビアは生前の俺で、俺も生前は俺だったと。元は一人だった人間なのに、こうして二つに分かれていると……」
「ほぼ……いや、絶対間違い無いと思いますね……」
「そんなことってあり得るのか……? 人智を超えてるな。まったく……頭でわかってても全然ぴんと来ないぞ!」
「それは僕も一緒ですよ。でもなんか変に気を使ったりしてたのが馬鹿らしくなっちゃいましたね」
「確かにな! 自分に気を使ってどうするんだっていうね!」
また見合わせて笑っていた。
「ネビア、お前も生前俺だったんだろ? 考えてることは一緒なんじゃないか?」
「この世界で何か大きなことを成し遂げる!」
二人の声が揃った。
「やっぱりな! そりゃすげえ頑張るよな! だってお前も俺だもん! もう俺がゲシュタルト崩壊しそうだ!」
そして俺は試練のことを切り出すことにした。
「ネビア、俺は5歳になるまでにどうしてもシャドウナイトってのを倒さなきゃならないんだ……それが出来なければ、きっとこの先後悔するんだ。どうか手伝ってほしい!」
「フィアン……それって試練ですか? 僕もそれしなきゃならないんです」
まじかよ! 試練も一緒なのかーい!
「話がすげえ早い! なんだよこれ、もっと早くに転生しましたって言ってみりゃよかったよ!」
「僕が普通の子供だったら、きょとんとしてるだけでしたでしょうね。でも今聞けて本当に良かったです」
「てか俺なのにそんな話し方してんかよ!」
「いや、魔法が結構できたので、知的な感じで行こうかなと思いまして……もう癖になっちゃいましたよ」
「なるほどな。まぁ俺もその立場だったら絶対そうしてたと思うよ」
「てか今思えばあれかな、めちゃ忙しい時にさ、俺が二人いれば……。って思ったよな。それが叶ったのかな?」
「ははは、そうかもしれませんね! 神様は見てたんですね!」
二人でまた笑ってた。今日はすごく笑った気がする。
俺たちは双子だけど、二人とも紛れもなく俺なんだ。
つまり転生したら俺が二人になってたんだ。これはこれで楽しいかもしれないな。