39話 続・複合魔法
「おーい、ネビアー、もう暗いから明日にしよーぜ!」
「そうですね……」
あれからネビアは必死に魔方陣を描き練習しているが、全く成功する気配がないようだ。それほど正確に間違いなく、適切なタイミングで書き上げなければならない。相当な難易度なのではないだろうか……。
「なぁ、ふと思ったんだけどさ、まず高熱の[サンドボール]を作るだけとか無理なのかな? 結合魔方陣が変わるのかな……」
「試してみる価値はあるかもしれないですね」
「おっとそれは多分出来るけど意味が無いぞ」
神冶さんが間からは割り込んできた。
「そうなんですか……?」
「高熱のサンドボール自体はそれで生成できると思うが、結合魔方陣が違うのと、タイミングが大きく変わる……しかし、3属性より2属性の方がとりあえず難易度は低いかのう……やっぱりやる価値はあるかもしれんのう!」
「もう! 価値があるのなら止めないで下さいよ!」
「最初は無いと思ったんじゃよ? 途中で考えが変わったんじゃよ!」
この人は相変わらずだな……。実際に2属性の方が4つの魔方陣で済むし、感覚をつかめるんだろう……。
「じゃぁ明日、そっちの方向で頑張ってみよーぜ!」
「にしても、ライトペイントの効果を持った球を飛ばして魔方陣を描くなんてのう……。ますます君達に興味を持ってしまったぞい! 約束どおり研究はしっかりと手伝うんじゃぞ!」
おっさんに興味をもたれても正直嬉しくない……たまに怖いからなこの人……悪い人ではないだろうけど!
「実験といって、変な事をフィアン達にしたら許さないですからね!」
ルーネが出てきて神冶さんに釘を刺している。一体どんな心配をしてくれてたんだろうか……。
「何を言うか! 研究を手伝うってことはそれに伴う実験は全てするんじゃよ? 体の隅々まで調べ上げるぞい! もちろん二人と一緒の精霊ちゃんも一緒じゃよ!」
「ひっ、フィアンさんこの人やばいです……逃げましょう……!」
ルーネが俺の腕にぎゅーってしがみついてびくびくしている。俺も少しびびってしまっているが……。
「ふぉっふぉ、冗談じゃよ! 魔法を放ってもらったりするのがメインじゃよ。魔力の流れを研究するんじゃ」
「よ、よかった……」
俺とネビアはほっと安堵したが、この人の言うことは冗談に聞こえないから怖いもんだ……。
「では、そろそろ失礼しましょうか。暗くなるまで付き合っていただき有難う御座います」
「いいんじゃよ! 今日もまた得るものは多かった! またお願いするぞい。光と闇の研究を進めたいのでな!」
「わかりました! あと、複合魔法打てるように頑張りますね!」
そういって俺達は帰路についた。
3人で仲良く帰ってきたら、ティタが不貞腐れていたのはまた別の話だ。
・・・
今日は二人で神冶さんの所へ行くこととなった。ゼブも一緒に行こうとしたが、ティタに物理的に刺されそうになったので、今日は一日ティタのお相手だ。夫婦は大変だな……仲が良くていいことだけどね!
「じゃあ、今日も行って来るね!」
「行ってらっしゃい! 気をつけるんだよ」
「あまり遅くならないようにするのよ! この前の様にね!」
「はい! 気をつけます!」
母さんを怒らさない為にも、約束は守ろうと胸に誓い、神冶さんのラボへとむかった。
「こんにちはー!」
「お、よくきたのう。今日はゼブはお留守番かの?」
「今日は一日ティタ……お母さんの相手をするそうです!」
「ほっほ。仲が良くていい事じゃのう」
「ゼブはすごく行きたがってたけどね!」
「そういえば、神冶さんは何処から来たとかその辺の話はゼブにしたんですか?」
「まぁ研究中に急に飛ばされて気づいたらここに居たとだけ伝えたぞい。詳しいところはゼブも聞いてこなかったしのう」
「もちろん二人の事は完全に秘密じゃから、ゼブが居ると言いにくいこともあったからのう。とりあえず昨日夜通しで研究してたどり着いた説を説明しよう!」
また説明が始まるのか! 正直聞くのは面倒だが、しっかりと理解した上で物事は行いたいと思うから、とりあえず聞くことにしよう。
もう忘れそうになっていたけど、ここに来る前は、ただやれと言われたことを理由を考えず、淡々とするだけだったよな……生まれ変わる前の大失敗は心に刻んで、絶対に忘れないようにしなきゃな! よし、頑張るぞ!
「てか、神冶さん寝ないで大丈夫なんですか?」
「心配無用じゃ。前にも行ったが、わしはほぼアンドロイドじゃ。何日かは平気で動けるぞ! たまに脳を完全に休めるだけでオッケーじゃ!」
「すごいですね……」
「では、説明をしたいと思うんじゃが、疑問に思ったことは途中でもがんがん聞いて欲しいんじゃ。色々な角度、視点からの疑問が多いほどよいんじゃ」
「わかりました! お願いします!」
「まず、この世で発生する事象は全て、わしらの居た世界での事象と似て非なるものなんじゃ」
「この世界には純粋な酸素と呼べるものは存在しないんじゃ。じゃが、火は魔方陣を描けば発生するじゃろ? 本来なら酸素、燃えるもの、高熱が揃って初めて火が発生するのに、酸素無しでこの世界は火が発生してるんじゃ。極端な話、この世界の火は宇宙空間でも、魔方陣さえ描けば発生するのではないかのう。まぁ、この世界だけの物質が何かの変化をもたらしているのかもしれんが……。結論から言うと、この魔方陣一つで科学的なところを完結させることが出来ると判断したんじゃ! メテオがその一例じゃよ!」
「なんだかよくわからないですね……火は火だけど火じゃない? こんがらがってきますね……!」
「まぁ難しく考えなくとも良い! この世界においては元の世界の知識を活用できることもあれば、その知識……概念が進歩の邪魔をすることもあると言うことじゃ」
「まぁあれだな、俺達の生きた世界の常識に囚われるなって事だね!」
「そういうことじゃの! とにかくわしはまず、メテオの魔方陣の解明を行おうと思う。光と闇の研究はそれが進んでからお願いしたいんじゃ! せっかく来てもらったのに、本当に申し訳ないのう……」
「いえいえ! それでは一旦僕も複合魔法の練習に戻りますね。何かあればコールして下さい」
そういってネビアはその場を後にした。