346話 想定外の事態
――ガシャン
扉の先はまるで円形ホールの様なフロアだった。
「……」
一番奥には玉座があり、その後ろには黒く輝く大きな宝珠が台座で浮かんでいる。
王座には奴……魔王影の姿があった。
「待ち侘びたぞ。想像より遥かに若く、小さい者たちだな」
「お前が……魔王影……!」
俺達を若いと言うが、この魔王影も見た目は若い男性だ。上半身裸な為鍛え上げられた肉体が目立つ……更に奴の周囲には銀河がのような瘴気が漂っている
存在感は今までのどの敵より……遥かに迫力がある。
「さて……貴様達と剣を交える前に、聞いておきたいことがあるのだ」
「……なんだ」
この機に及んで質問だと……? 定番の仲間にならないかって聞くのか?!
「我を倒して、何を望むのだ」
「……愚問だな。お前を倒して地上界の平和を取り戻すんだよ!」
俺は剣を向けて魔王影に言い放った。
「ほう、だがよく考えてみろ。我が力でシャドウ界と地上界全てのシャドウを吸収した。つまり、地上界はシャドウの脅威から解き放たれたのではないか? まぁ地下ダンジョンのシャドウは消えぬが……入らなければよいだけの事」
「……でも、天上要塞を堕とし、巨大なシャドウホールを出して地上界を混乱させただろう!」
「天上要塞の件は宝珠を取り返す為に手荒な事をしたな。だが、巨大シャドウホールも宝珠が天上要塞に渡ったのも全て[保守派]が勝手に行ったものだ」
「何をとぼけたことを言っているんですか……! シャドウ達が地上界を混乱させたのには変わりないです!」
たしかにそうだ。保守派どうこうではない……こいつを倒せば全て終わる!
「お前たちの言っている事は、地上界で例えるとすれば……フォート領が悪事を働き、その責任をワンド領に取れと言っているようなものだぞ。分かっているのか?」
「……」
くそ……確かに言っている事は間違っていない気がする。
「ふ、子供の割にしっかりと考える能力はあるようだな。貴様たちも過去に現れた勇者同様……壊れた星からの転生者なのか?」
「……! 壊れた星……?」
「ああ、隕石となって降り注いでいただろう? あれは[地球]という星の残骸だ」
「まじかよ……」
「そんな……! でも、やっぱりここは地球の後に出来た場所だったんですね」
「このままこの軌道上にいれば、いずれ全てが降り注ぎ、ここは全壊するだろう。何とかこの軌道を外れなければならぬのだ」
なんだこいつ……何を言っているんだ? お前のせいで隕石が降ってるんじゃないのか? なんかこの世界を救おうとしてないか……?
ネビアも色々と考え、混乱しているようだ。
そのうち、俺達の中で一つの素朴な疑問が浮かんだ……浮かんでしまったのだ。
"何故魔王影を倒さなければなならないんだっけ?"
確かに、俺達の母星である地球はこいつらの浸食のせいで滅んだ。だが生まれ変わってる以上直接的には壊れていようが関係ない……。
神治博士に言われた魔王影は地上界を侵食してくるだろうという言葉……
そして、宇宙空間で出会った女神の話……
俺達は色んな人から話を聞いて、魔王影は地上界を滅ぼす悪だと認識していた。
今思えば実際に自分で見て調べた訳では無い。全て人づてに聞いた内容だ。
結局……生まれ変わる前と同じ……人の言葉に惑わされている……? 自分で考えて行動が出来てないのでは……?
そんな考えが浮かび始めた頃、魔王影は追い打ちの様に俺達に言葉を投げかけた。
「我の目的はただ一つ。まずはこの宇宙を魔力と瘴気に満ちた世界に改変する事なのだッ!!」
「……!」
「その為に、この世界はしっかりと保護……もちろん地上界も今のままだ。シャドウが居なくなったということ以外はな。地上界に我が干渉する事はほぼ無いだろう」
「おい……ネビア」
「……なら僕たちがここまで来た理由は……」
「いやでもよく考えろ……嘘かも知れないぞ? 結局こいつの言葉も信用して良いのかわからねーよ……」
「はぁ……どうしてこんなに迷わせるんですかね……もっと物事はシンプルで良いでしょう……」
「本当にな……」
こうなってしまったらもう動けねえよ……レッドを倒した時みたいに、もやもやなまま事を進めるのはもう嫌なんだ……!
「そこでだ……フィアン、ネビア、ギャラクシーシャドウナイトすら押し退けた貴様らの力は本当に素晴らしい。我と共に宇宙を掌握せぬか……? 代価として貴様らの要求は全て聞き入れるつもりだッ! だが、断ると言うのであれば……貴様たちはここで消えて貰わねばならぬ」
前置きがかなり長かったが……この言葉が来てしまったか……。
話だけを聞くと、もはや魔王影と組む方が良いんじゃないかとさえ思えてしまっている。
俺達の目標は地上界の平和……これを戦わずして得られるのであればこれ以上良い事は無いんじゃないのか……?
俺とネビアは顔を見合わせ、困惑した。
だが、ずっと迷う事は出来ない。何かしらの答えを出さなければならないのだ……。
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