32話 箱の中身
ネビアはメモを読み続け、俺は慎重に箱を調査することになった。
「うーん……」
見た目を改めてじっくりと観察しよう。箱はパッと見て機械的だが、洗練されたフォルムをしており漆黒の大理石……。そんな表現しか思いつかなかったが、その中に機械の様なものがびっしりと入っている。大きさについては、人が一人入れるくらいの大きさだ。
こういうのは開けるとやばい人が出て来たりするのが定番だ。耳を当てると微振動しているし、換気扇のような音も聞こえる。箱からは天井まで二本の管が伸びており、不定期に小さな光が下から上、上から下へと移動している。はっきり言おう、全く意味がわからない。
もうこうなったら開けるしか無いと思いながらも、さっきみたいにスイッチの様なものは見当たらない。どうすればいいものかな……。
「ん……?」
そういえばある事に気がついた。綺麗なフォルムで長方形といったが、厳密にいうと五角形だ。というのも角にあたる部分が一箇所だけ綺麗に落とされている形だからだ。もうここに何か仕掛けがあるとしか思えない。慎重にかつ大胆にそこを触って見る事にした。
スリスリ……うむ、艶があってすべすべしている。ひんやりとしていて気持ちがよい。押しても触っても引いてもダメ……。詰んだわ、これはもう詰みましたわ。
「あの、フィアン?」
「まて! まだだ、まだ終わらん……!」
「いや、このメモ帳の中に開け方が載ってました……」
「……」
そういうと、ネビアはその画面を表示させた状態で筒からタブレットを引き抜き、それを俺に渡してきた。
「こうやって、複数の人に渡すこともできるみたいです。すごいデバイスですよね!」
「たしかにすげえ……」
とにかく俺は開ける方法に目をやった。
「なになに。三角柱を角に合わせる……あ、これか……?」
筒の出てきた先の壁側に長い三角柱が置いてあった。あの箱と色とかは同じだ。
「フィアン! 開ける前に、ざっくりとこの日記で見た情報を共有したいんですが……」
「そうだな。俺もすごく気になるし、そのあと一緒に開けようぜ!」
「わかりました。では、どこから言えばいいのか……。とにかくこれを書いた人は間違いなく私達の時代よりはるか先の未来からこの世界にやってきたようです。2482年に無数の隕石が降り注いで、地球は消滅したようなんです……。そして、この人はこのシェルターで一人いたわけなんですが、どういうわけかシェルターと一緒にこの世界に飛ばされてしまったようですね……。この人の時代はナノマシンが日常的に使われていて、そのナノマシンを外に放った結果、外の空気が吸えるものではないと断定し、しかたなく空気清浄が効いている、この研究所の中からナノマシンを介して外の情報を手に入れて色々な研究をしていたみたいですね」
「ふむ……俺たちは生まれ変わってこっちの世界に適応しているけど、この人はそのままの身体で飛ばされたんだな……。てかその人の身体に合わせた空気を吸っている俺たちは大丈夫なのか!?」
「その点は大丈夫みたいですね、というか今は空気清浄装置は動いてないようで、外の空気とほぼ変わらない状態のようです」
「ってことは、箱を開けても死体が寝ているだけってのが濃厚か……」
「いや、全て見ているわけでは無いので断定できませんが、外に出るための実験の中で長い年月をかければ対応出来る! という仮設も書かれています。箱はその仮説を試している可能性も……とか思ったり……」
「そうか。やっぱりそうなると一緒に見て開けた方がよさそうだな……」
「あと! 途中からナノマシンで情報を仕入れているおかげか、魔法の存在をしって、魔法研究ばっかり書いているところがあったんですよ! ここが本当にすごいんです! 生きていたら是非直接話を聞きたい仮説とかばかりです!」
「お、おお」
「2大エネルギーの仕組み……。これは魔力と闘気ですかね。あとは複合魔法とか魔法発動の仕組み、魔方陣の構造とか……。多分この世界の遥か先に行っていますよこの人の研究は……!」
「それはすごいな。読んでもわからないのか?」
「はい。日本語がメインで書かれながらも英語や化学記号? のような物が多すぎてその辺が全く分かりませんね……。もしかしたらこの人が考えた魔法用の記号とかなのかもしれません……」
「とにかく、箱を開けて、中を見る価値は大いにありってことだな!」
「そうですね! これを読んでいても始まらないですね! 早速開けてみましょう!」
俺たちは早速説明書を見ながら手順通りに箱を開けていくことにした。