310話 勇者エトワ
「まず、ワレは神治の言う通り、転生者ダ。この世界初めてノナ……少しだけ昔話に付き合ってクレ」
そう言って影じいは話を始めてくれた。
・・・
・・
・
――5010年前
「ここは……? おれは死んだはずじゃ……」
「勇者エトワよ……やっと目覚めたのですね」
エトワと言われた青年はまるで宇宙空間の様な場所に浮遊しており、目の前には女神の様に美しい女性が居た。
手には羊皮紙の様な紙を持っており、そのまま語り始めた。
「貴方は一度死にましたが、こうして新たに勇者として生を受けました」
「勇者……」
「この世界を食らい尽くさんとする魔王影がこの地に復活しようとしています。それを貴方の力で阻止して頂きたいのです」
「……」
エトワは唐突な事態に混乱したが、次第に状況を飲み込み、自身の役割を責任をもって果たそうと誓った。
女神から言われた内容は大きく二つだった。
一つ、シャドウに侵略された地上界の5つの国を救え。
二つ、地上界でシャドウが拠点とする大陸を制圧せよ。
その目的を果たすべく、エトワは唯一シャドウの侵略を防いでいる中央都市に降り立ち、行動していった。
エトワの潜在魔力と闘気は他の者を遥かに凌駕していた。故に中央都市を始め、他の大陸のシャドウ達も順調に消滅させて行く事が出来た。
・・・
10年の歳月が経ち、地上界と呼ばれる大陸から殆どのシャドウを払い除けたエトワは、遂にシャドウが拠点とする大陸を発見した。その10年間、常にエトワの隣にはもう一人の人物がいた。
そのもう一人の男の名は神治。彼のサポート無しではたった10年で大陸を発見する事は不可能だっただろう……。
――地上界側シャドウ大陸
灯台もと暗しとはこの事だろう。エトワ達が探していたシャドウの拠点大陸は中央都市の深い瘴気が漂う地帯に隣接していた。
この時代、エトワと神治以外この瘴気に耐えられる者はいなかった。
故に、二人だけでシャドウの拠点を攻めいる事となった。
「グォォォォォ!」
――シュゥゥ……
「はぁ……はぁ……今のがシャドウナイトって奴か。この先にもこのレベルが沢山いるとなると骨が折れるな……」
「……そうじゃな」
「神治、どうしたんだ? 心ここにあらずって感じだぞ。昨日の夜に見たっていう悪夢のせいか?」
「いや、遂にここまできたんじゃな……とおもってのう」
「ああ、思ったより小さな城で助かったな。奴らのアジトはこの扉の先だ。気を引き締めて――」
――ザシュ……
「な……神治……どうして……」
エトワの胸には神治の持っていた剣が深く突き刺さった。
「わしは……転生者を殺さなければならん……! 絶対にジャ……」
そう発言する神治の身体からは黒い瘴気が漏れ出していた。
その光景を見た時、エトワは別れ際に言われた女神の発言を思い出していた。
――精神を乗っ取られ、呪われた者には注意をしなさい……魔王影の呪いは貴方を危険に晒すでしょう……。
「神治……呪われていたのか……?」
エトワはそのまま膝をついた。だが、その目の闘志は消えてはいなかった。
「だが……ここまで来て諦められない……!」
エトワは最後の力を振り絞ると、全身が大きく光り始めた。
「こ……コレハなんじゃ……!」
「神治……お前も巻き込むが許せよ。女神から授かった最後の力だ。2回目の人生、危険いっぱいだったが楽しかった……お前もいたしな」
――無秩序な魔法・終戦
自身のエネルギーを全て収束し拡散、周囲一帯全てを光と闇のエネルギーで大爆発させる。
「ぐああああアア!」
そうして、周囲一帯は完全に更地となりシャドウの拠点と思われた城も跡形もなく消えた。
その際、この大陸は爆発の影響で地面は削り取られ、切り離された。
エトワは人知れず地上界側のシャドウ拠点の破壊に成功し、束の間の平和が訪れた。
エトワのその後を知る者はいない……。




