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293話 魔王影と勇者

「おい! フィアンがやばいぜ! 早く助けに行かねーと!」


 ケイトが操縦しているサクエルに対して声を荒げた。


「いや、待ってください……」

「は!? ネビア、何で止めるんだ? 大事な兄弟がピンチなんだぜ?」

「ケイト、落ち着いてください! シャドウホエール達に敵意を感じません」


 そんな会話をしている内に、シャドウホエールはフィアンの目の前まで来ていた。


「こんなに近いけど、痺れたりしないな……」


 少し手を伸ばせば、シャドウホエールの頭に触れられる……そんな距離まで来ているが麻痺はしない。


「なんだ? お礼でも言いに来たのか?」


 親と思われるシャドウホエールとフィアンはじっと目を合わせた。


 しばらくして、フィアンは右手でシャドウホエールの頭を撫でた。


「ずっとここで縛られていたんだな……お前たちはもう自由だよ」


 フィアンがそう言った瞬間、3匹のシャドウホエールは突然光り輝き、ゆっくりと魂片になり始めた。


「シャドウホエールですよね……? あの鯨って……。亡骸を残さず全て消えていくように見えます」


 シャドウシャークやシャドウクラブは等しく亡骸を残したのに対して、目の前のシャドウホエールと思われた鯨たちは亡骸を残さず、端から消えていく……。


「――有難う……解放してくれて……これで私達も帰れる……」

「……ああ。ゆっくりと休んでくれ」


 魂片に消えていくシャドウホエールから、人の形をした光が一瞬だけ見えた。そして、そのまま跡形もなく、シャドウホエールは消えていった……。


「……フィアン!」

「あ! おお、どうしたんだ?」

「何度も呼んだのに……どうしたんだじゃないわ! とにかく一度こっちに戻ってらっしゃい!」

「今戻るよ!」


・・・

・・


「ふう……何とかなったな」

「お疲れ様フィアン。最後は何故ぼーっとしてたのかしら?」

「あ、ああ……シャドウホエールが最後消えるとき、うっすらと人の形に光る魂片が見えてさ。あれはシャドウホエールじゃなくて、海神族だったのかなって……」

「海神族……ね」

「とにかく! 無事に奴らは居なくなったわけだ! 早速入ろうぜ!!」

「ええ、そうしたいのだけれど、入り方を調べている所よ」

「そんなにすぐは分からないんだぜ! フィアン、とりあえず軽く休んどくべきだぜ。何があるか分からないしな!」

「ケイトの言う通りです。少しでも横になっといてください」

「わかった。入る前には起こしてくれよ!」


 海の中で魔力は結構消費してしまっている……言葉に甘えて、少しだけ休ませてもらおう。


・・・


「フィアン! いい加減に起きて下さい!」

「あ……入り方分かった……?」

「もう起きないから入っちゃいましたよ」

「おお、まじか!」


 どうやら俺が寝ている間に入り口を発見し、潜水艦ごと入り口らしき所まで来たようだ。

 鯨が括りつけられていた付近の地面が大きく開き、、そのまま入場出来たようだ。


「じゃぁ行くわよ。空気があるから生身で大丈夫よ。潜水艦はまたしまっておいてね、フィアン」

「おう」


 潜水艦をデバシーに収納し、照明魔法のライトウイスプで周囲を照らした。

 ここは船着き場の様な形になっているが、雰囲気は例のごとく、神治さんの研究所のように壁や天井が鉄やパイプで張り巡らされている。

 そして、目の前には大きなゲート扉があり、空中に電子パネルが浮いている。


「入り口はこの目の前だけのようね」

「何があるか分からない。武器はしっかりと構えておこう!」


 俺達は全員で武器を構え、目の前の扉を開けた。

 その瞬間……


――バシュン!!


「むっ!」


――キンッ!


「ふふ……成長しましたね。フィアン。私はまた心臓をしっかり狙ったんですけどね」


 俺は突然飛んできた超高速の飛来物を剣で弾いた。

 この静かな発砲音と弾の形は覚えている……!


「ジャック……!」

「まさか……この場所まで見つかってしまうとは思いませんでしたね」

「ここで何をしているんだ……ジャック!」

「貴方達に説明しても仕方がありません。むしろそれはこちらの台詞ですよ。何しに来たのですか? 私のラボへ」


 くそ……どうする! こいつは何を考えているか分からないが、間違いなく敵だ!


「ふふ……まぁその辺りはどうでもいいです。地上界でやるべき事が今全て終わりましてね。君達とはもう会う事は無いでしょうし」

「……シャドウ界に行くのか?」

「おや、ご名答です。シャドウ界の事は知っていたのですね」

「ジャック! シャドウ界への行き方を教えろ!」


 俺は剣先をジャックに向けた。シャドウ界にはいずれ行かなければならないだろう。ジャックが方法を知っているのであれば話が早い!


「ふふ、怖いですね。教えてあげてもよいですが、今の君達が行っても、すぐに死ぬだけですよ。そもそも[資格]があるかどうかも……」

「それはお前が決める事じゃない! 俺達は宝珠を取り戻さなければならない! どうしてもな!」

「宝珠……ですか。残念ですが君達が思う形では既に無いですよ? もう宝珠は役割を終え、力を失っていますし」

「……!」

「それに、魔王影様は既に復活していますッ! 後は深い眠りから覚めるのを待つだけ……もはや止める事は出来ないでしょう!」


 ジャックは大きな声を出した。


「魔王影って一体なんなんだよ……」

「魔王影様は……この世界の創造主……世界そのものと言ってもよいでしょう」

「は……? どういうことだよ! お前の言う事は訳が分からないぞ!」

「それだけ大きな存在という事ですよ。さぁ、どうしますか? このまま帰って、魔王影様が眠りから覚めるその時まで平和に過ごしては如何ですか?」


 全員が無言のままジャックを見つめている。

 リッタなんか目が点になっていて、まったく理解できてないようだ。

 まぁそりゃそうだ……俺だって分からない事だらけだ。

 だが、地球まで壊れてしまって、この世界も魔王影が完全に目覚めてしまったらどうなるか分からない。

 やる事……答えは決まっている!


「ジャック! お前の言っている事全てを信じた訳じゃねーけど……魔王影が眠りから覚める事で、俺達の世界がどうにかなっちまうなら……」


 俺は息を大きく吸った。


「その前に魔王影をぶっ倒すだけだッ!!」


 俺の言葉に皆は少し驚きを見せたが、力強くうなずいてくれた。


「それに宝珠にも少しは力が残っているかもしれません。取り返して母さんやヴィスの姉さんを元に戻して見せます!」


 ジャックは一瞬驚いたような顔を見せ、不敵な笑みを浮かべた。


「あっはっは! 面白い子達ですねえ。まるで世界を救う、[勇者]の様なセリフですね。 ……いいでしょう! そこまで言うのであれば、地上界側にあるシャドウ界へ行って、己の実力の無さを知るといい!」

「地上界側のシャドウ界……?」

「ふふ、中央都市から海の端を目指し、ひたすら真っ直ぐに進んでみるといい」

「海を……?」

「それと、貴方達が持つ海神族の宝……宝珠と同じ効果がありますよ? それでやりたい事は代用できるでしょうね」

「……まじかよ!」


「ジャック、何故そこまで私達に有益そうな情報を教えてくれるのかしら?」

「ふふ、サクエルさん……でしたね。ただの気まぐれですよ。さて、私はそろそろ行かなければなりません。シャドウ界に来るのであれば、また会うかもしれませんね。では……」

「あ、おい! まだ話が……」


 言葉を言い切る前に、ジャックは消えてしまった……。


「ジャック……!」

「フィアン、今はとにかくナノマシンを探しましょう」

「ああ、そうだな……」


 ジャックはまた、新たな情報と謎を残して消えていった……

 [勇者]……か。ふっ……そんな言葉は俺には全くふさわしくないな。

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