278話 海の魔物は美味い
「ふう……」
「皆、もう遅い時間になったから、今日はここまでにするわよ。停泊できるところを探すわ!」
スピーカーからサクエルの声が聞こえた。今日進むのはここまでの様だ。
真っ暗な海を潜水艦の光だけで突き進むにはリスクが大きすぎる訳だな。
「お、あそこに停めるみたいだぜ」
目の前にはとてつもなく大きな岩礁が並んでいた。サクエルはその隙間にうまく入り、潜水艦をゆっくりと停めた。
「初めての操作なのに、上手いもんだなー」
潜水艦が完全に止まった後、周囲には黒い瘴気の様なものが展開された。これも機能として備わっていたようだ。
「皆、食事にしましょう! 仮眠室へ!」
サクエルの言葉で俺達はシートベルトを外し、座席から降りた。
「くうう。腰に来るぜ」
「座りっぱなしもしんどいもんだな」
そんな事を言いながら俺達は仮眠室へと向かった。
・・・
「皆お疲れ様、うまく撃退してくれていたわ」
「いやいや、サクエルさんの操縦も凄かったですよ。ビックリしましたよ」
「ふふ。私は天才なのよ。大体見たらできるようになるわ?」
「出来たぜ!」
そういってケイトはキッチンから料理を持ってきてくれた。
「シャドウシャークのひれスープとステーキだぜ!」
「うおおお! いい匂いだ! 早く食おうぜ!」
館内には簡易食糧もあるし、俺達の食料も一応持ってきてはいるが、倒した敵が食えるのなら食おうって方針だ。
というのもこの世界での大型の魚介は本当にレア食材なのだ。普通に釣りをしたところで釣れるのは純粋な生物ばかりで、殺してしまうと魂片に戻る。だからこの世界では、そういった生物の魚を大きな網の中で泳がせ育て、シャドウに憑依させ捕まえるという手間が必要なのだ。
但し、その方法で捕獲できるのはもちろん小型の魚だけである。理由は単純で憑依された大型魚が強いからだ。
小さいシャドウでは大型魚には憑依できない。憑依するとすればハイシャドウクラス以上となる。そうなれば捕獲が大変なのもうなずけるだろう。
「うめええ! 魚なんていつぶりだ?!」
「宿に泊まってた時が最後ですかね?」
「すごいにゃ! こんな大きな魚は初めて食べたにゃ!」
「なぁ、サクエルは食べないのか?」
「私は結構よ。若い君たちと違って食べるとすぐここに出ちゃうのよ」
そういいながらサクエルは自身のお腹を見せた。見た目は20代のお姉さんなんだけどな。一体何歳なのだろうか……。
「ふああ……このスープ、濃厚ですねっ! このひれの出汁と他の具材が良い具合に調和してますっ!」
そう言いながらルーネはひれを口に運んだ。
「そして、このひれ自体もその調和した出汁をしっかり吸っていておいひーですうっ」
「……やっぱり私にも一杯頂戴!」
「おう! いっぱいあるから好きなだけ飲んで欲しいぜ!」
「あはは。ルーネの感想は聞くだけでお腹空くからな!」
真っ暗な海の中に居るというのに、それを忘れてしまうかのような食事だった。
やっぱりどこに居ても皆で食う飯は楽しいし、美味いもんだな……。
・・・
・・
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――――その頃
――地下ダンジョン55階
「こいつで最後ダ……!」
(ヴィスターン)――冥装・墜闇槍影式
自身の天力と瘴気を混ぜた大きな闘気剣作成し、相手に落とす
ヴィスターンは圧倒的な威力で目の前の大型シャドウキメラを屠った。
「モウイナイカ」
「いないよ☆ 早くそれを解除しなきゃヴィス!」
――シュゥゥゥ
「はぁ……はぁ……」
まるでシャドウそのものだったその姿はまた元のヴィスターンの姿へと戻った。
「ヴィス、少し回復した方がいいよ☆」
「黙れ。こんな所で休んでる暇はないんだ」
(アリシア)――サモン:シャドウスワンプ
魔方陣の上にいるものも足元に影の沼を発生させ、動けなくする。
「なっ! おい何するんだアリシア!」
「休まないと言うなら強制的に休ませるだけだよ☆ それにシャドウはもういないでしょ? 怪しい所を探してきてあげるよ☆」
「お前に頼れるか! 僕自身が探す方が早い!」
(アリシア)――サモン:スリーピングフラワー
強力な睡眠作用のある花を出現させる。
「ぐ……またその花……か」
「毎回素直に休まないヴィスが悪いんだよ☆」
アリシアの魔法により、ヴィスターンは深い眠りについた。
(ヴィス……胸辺りの放射状の痣の範囲が明らかに増えている……このままだと……)
・・・
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