249話 ケイトも!
(なんだこれ……この前入った時より遥かに苦しくてつらい……息が……!)
覚醒の泉に入った瞬間、強烈な脱力感と苦しさがフィアンを襲った。
(力を抜くわけにはいかない……)
多分全身の天力をこの泉に引っ張られ持って行かれているのだろう。
そんな乱れた流れの状態でも、ケイトの周りに天力を維持しなければならない。非常に大変な作業である。
(……!)
ケイトはフィアンを更に強く抱きしめ、フィアンの顔を見つめた。
天力を直接送らなければならない……。
(水中でキスな上に深くしなければならないとか、めちゃくちゃ辛いじゃねーか……!)
フィアンがそんな事を思っている内にケイトは目を閉じ、顔を上げている。
(腹を括れ! 俺!)
フィアンはケイトの唇に優しく触れた。
(――ッ!)
ケイトは分かりやすくびくっとしたが、そのまま硬直している。
(ケイト……口が堅く閉じているじゃねーか……)
見た目以上にケイトは歯を食いしばっていた。抱きしめている為、ケイトの心臓の音が物凄く高鳴っているのがまるわかりだ。
(……可愛いな……じゃなくて口を開けてもらわねーと……!)
フィアンは一旦唇を離し、優しく指でケイトの下唇に触れた。
すると、ケイトは力強く閉じていた目をゆっくりと開け、フィアンの顔を再度見つめた。
フィアンは少しだけ下唇に触れた指を下に動かし、ケイトの口を少しだけ開いた。
その力に逆らわず、ケイトはそのまま食いしばっていた歯をゆっくりと開いた瞬間、フィアンは再度唇を重ね、深くキスをした。
ケイトの身体は水の中でも分るほど、火照っている……。
(眩しい……!)
そのまま少しの間、キスをしていると眩しい光に二人とも包み込まれていった。
――我が声に耳を傾けよ……
(あれ……俺にも声が聞こえる……)
光に包まれながら、フィアンは確かに天衣を授かった時の声を聴いた。
――覚醒の泉、生死を掛けた真の試練を突破したフィアンに、もう一つの天衣を授ける……。
――[天衣----――……
――そなたに刻み込まれていた天衣の名だ。天衣は名と共にある。決して忘れぬよう……。
・・・
・・
・
――ザバァッ!!
「はぁはぁ……」
「フィアン! ケイト! 無事かいっ!」
シーンが大声で叫んだ。
「ああ……何とか無事だぜ! フィアンのおかげだ!」
抱きついたままのケイトだが、その姿はまた少し若くなっている。
胸のサイズは……そのままの様だな!
「二人ともよかったですっ! ……で、いつまで抱き合ってるんですかっ!」
「んーもう少しだけだぜ!」
「何言ってるんですかっ!」
そういって、ルーネはフィアンに抱きつくケイトを引き剥がした。
すると突然、ケイトはルーネにキスをし始めた。
「――ッ!」
――チュッ、チゥ……
「ちょ……ケイト……なにしてんのさ……」
シーンは驚いた顔を隠せないようだ。
「ぷはぁ!」
ケイトが唇を離した瞬間、ルーネはへなへなと膝を落とした。
「ちょ……ちょっとケイトさんっ?! 一体何をしているのですかっ!!」
「ルーネ本当にすまなかったぜ!! これでフィアンとのちゅーを返したって事して欲しいんだぜ!!」
「……いや返した事になりませんからっ!」
「あはは」
そういって一同は笑った。とにかく皆無事に覚醒できてよかった……。
「所でケイト、貴方どうなってるのよ! もう天衣が開眼してるわよ!」
「え……?」
「たしかに、フィアンに翼が生えてるから違和感を感じなかったけど……ケイトも翼でてんじゃん!」
シーンの言う通り、ケイトの背中にはすでに翼が生えており、天衣を開眼していたのだ。
「こんな事過去に一度も無いわ……覚醒の泉から出た瞬間天衣を纏っているなんて……とにかくまずは皆の天衣の名前を教えて頂戴!」
「そうだにゃ! 順番に言っていくにゃ!」
「属性は私が確認してあげるわ! 調べ方があるのよ!」
リッタ――天衣・剛石/土属性
オリア――天衣・水蓮/水属性
ケイト――天衣・光風/風・光属性
シーン――天衣・烈風/風属性
「皆特異種なんて……オリアは光に特化していたけど、適正は水属性だったようね。それより……」
サクエルはケイトを指さした。
「貴方! どう見ても複合属性だわ!! 天衣が!」
「複合属性……?」
「そうよ! これまた初めて見るわよ……風と光の性質を持っているなんて……」
「ほう? なんだかすごそうだぜ!」
「すごいわよ……解剖して見たいくらいだわ?」
「えっ……勘弁してほしいぜ……」
「とにかく消耗が激しいから天衣はしまっちゃいなさい」
「それが……どうやって解除するのか分からないんだぜ……」
「背中に少しこわばった感じがあるでしょ? それをストンと落とすイメージよ」
「んー……」
ケイトは言われた通り何となくでやっているようだ。
――バサァッ
「お、解除できたぜ!」
「よくできました。では、ここから出ましょうか」
そういって皆は覚醒の泉を後にした。