229話 これからの事
「……とまぁこんな感じで逃げてしまったのだよジャックは」
「全然意味が分からないな……世界が完成ってどういう事なんだろうな……」
「とにかく! 簡単にまとめると、今堕天使と天族は天上要塞復旧に尽力し協力関係にある。ネビア君は仲間と言っても良いだろう! まぁヴィスは納得いってないだろうがね……」
「ヴィスの姉がひどい目にあっていた事実は変わらないもんな……俺の母親も……」
「本当にひどい話だ……しかし、天族は昔から聖母しか子供が産めなかったわけではないらしいのだよ」
「……え?」
「細かい話はいずれとして……私もウェイズから聞いただけだが、昔、天族はシャドウと戦争をしていたのだ」
「ああ、その話は大天使から名前だけ聞いたな……天影戦争だったか」
「その通りだ。天影戦争で大敗北してしまった天族は、シャドウから呪いを受けたそうだ」
「呪い……?」
「その通り。天族の遺伝子に子を産めない呪いを掛けられたのだ。稀に出現する聖母を除いてな……元々地上を侵食しようとしていたはずなのに、今無事なのが不思議ではあるがね……」
「そうだったのか……」
大天使からはその話まで聞くことは出来なかったよな。大天使が秘密裏に契約した魂片と宝珠の事も伝えておくか……別に隠す必要もないだろう。
「レッド、その天影戦争の事なんだけど、敗北した時に大天使が秘密裏に契約をしたらしいんだよ」
「ほう?」
俺は大天使から聞いた、魂片をシャドウに収めていた事等の情報をレッドに伝えた。
「……なるほど。なのに何故宝珠を奪い返しに来たのか。ジャックの言っていた二つに分かれている事と関係があるのだろうか……。それより、シャドウ界はジャックの妄言かと思ったが存在するのだな……耳にしたことのない場所だ……」
「……」
考えれば考える程分からない。というか考えても仕方がない気もするな……。
謎が多すぎるが、少しまとめてみようか……
・現在、天族と堕天使は協力関係にある。ガイアとウェイズが中心となって瘴気の森に墜ちた天上要塞の復旧及び聖母の意識回復に尽力。
・ジャックが失踪した。現状、断片的な情報のみで理由は詳しくは分からない。宝珠を奪った勢力との仲間か?
・シャドウ界とは一体……行き方も不明。転送魔法とシャドウの力を合わせた魔法とは。
・宝珠によって、魔王影が復活する……?
「もう、分からない事だらけで何をすればいいのか混乱してきますね……」
「ネビア君の言う通りだが……やらなければならない事は多い。とにかく私は一旦情報を整理したい。その後、色々頼むことになると思うが、お願いできるかね?」
「ああ、もちろんだよ! デバシーですぐに連絡してくれ!」
「だから今はゆっくりと休みたまえ。それも私からの頼みなのだよ」
「わかった……! レッドも無理すんなよ?」
「フィアン君! 心配してくれるのかね?!」
今にも飛びついてきそうなレッドを俺は冷たい目で見た。
「……死なない程度に頑張れ」
「ふっ……とにかくいったん解散しよう!」
「了解! ネビア、一回中央都市へ戻ろうぜ!」
「そうですね!」
「そうだ。ここから天上要塞に直接転送できるようにしておいた。好きに使うが良い。リングさえあれば通れる」
「え!? すごいな……そんな事が出来るのか」
「転送魔法を少し改良したのだよ。天上要塞から中央都市へ転送も出来るようにしてある。そこを経由するが良い」
「へー……すっごく便利……」
「では、ゆきたまえ」
そうしてレッドと俺達は一旦解散した。
ここから中央都市は少し遠いから、転送魔法が使えるなんてすごく便利じゃないか!
・・・
・・
・
「はー。何だか一気に色々聞いて疲れたな……」
「そうですね。でもこうやって中央都市に来ましたけど、何も変わらず平和のままですね」
「そうだな……」
中央都市は何も変わらず、天上要塞が墜ちたなんてことは大半の人が知らないだろうな。
瘴気の森は普段人が寄るような所ではない。まぁ遠くで何かが墜ちてるくらいは見えたかもしれないが。
こうやってネビアと話しながら歩くのもすごく久しぶりな気がするな……
「とりあえず、俺達は俺達で出来ることをするしかないか」
「ですね」
「にしても、操縦室にもデバシーの技術が使われてたって多分ジャックの仕業だよな?」
「としか考えられないですよね……」
「天族にも技術を提供してて、堕天使側で協力していて……なんかジャックの掌の上で踊らされていた気がするよ……」
「本当ですね。一体ジャックは何がしたいのか……」
二人でんーっと考えても何も思いつかない。母さん達を一応助ける事が出来たし、目標は達成しているが……もやもやが残る感じだな全く。
「ところで、ネビアは大天使の言った言葉、信じるか?」
「あのタイミングで嘘を言うとは考えにくいですが……」
「俺もそう思う。まぁ大天使がしてきたことは正直許せないけどな」
「ですね……でも、フィアンが大天使の立場だったらどうしてましたか?」
「俺が大天使の立場……」
考えてもみなかったが、魂片を払い続けないとシャドウが地上界を攻めてくる……その為には一人でも多くの天族の力を借りたい。
だが、天族を増やす為には聖母を介さなければならない……。自由恋愛ではとても増えていくとは思えないし……。
魂片を払い続けなければならないと言う事実は一人で隠し通しながら。
「……同じような事をしてしまったかもしれないな……」
「やり方は許せないですが、シャドウがずっと攻めてこなかったのも事実……一言では難しい話ですね」
「そうだな……」
「あ、見えてきましたよ。病院」
「おお、あれ?凄く大きくなってるな……」
「本当ですね……」
目の前に現れた病院は、5年前に見た時より大きく改築されており、すごくきれいな病院になっていた。
「とにかく入ろうか……」
俺達は病院の扉をくぐり、受付のような所へやってきた。
「あの……」
「はい! 本日はどうなさいましたか?」
受付に居たのは真っ白のエプロンに真っ白の服を着た女性が現れた。まるでゲームに出てくる僧侶の様な服装だな……。
「あ、意識不明患者の中の、ティタと言う方にお会いしたくて……」
「面会ですね。お名前は?」
「ネビアです。こっちがフィアン。」
「ネビア様とフィアン様……ですか!!」
「えっ! そうですけど」
受付の女性は突然声を上げた。
「あ、失礼いたしました。実はお二人がもし現れたら院長がお会いしたいと申しておりまして……大変申し訳ないのですが、先に3階の院長室に来ることは可能でしょうか?」
「え? 院長……? 構いませんけど」
「分かりました。では少しこちらでお待ちください」
そうして俺達は受付横の椅子に腰を掛け、待つ事にした。