213話 それぞれの先には
「こねえな……」
30分待ったが、アリシアもヴィスも来る気配はない。
やはり、それぞれこの要塞の別の場所に飛ばされたのだろう。
想定していた最悪のパターン……いや、デバシーが繋がらないからもっと最悪だな。
「このまま待っても仕方ない……ルーネ。気を引き締めていくぞ」
「了解ですっ!」
「念の為に小さいモードのままで居てくれ。俺が即死した時は頼むぞ!」
「わかってますよ! ただ、何度も言うけど一回だけですからね……」
「おう! みんな救って、そんで帰ろうな」
そして、俺は目の前の扉を開いた。
・・・
・・
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「この場所は一体……」
扉を開くと、白基調の大きな広間となっており、更にその先には長く続く階段がある。
その階段の中段程にまた大きな広間が広がっており、そこには管でつながれた大きなウォーターボールみたいなものが複数個設置されている。そして、その先には祭壇のような所に設置された、大きな光る球が神々しく浮いている。
あまりに圧倒的な存在の大きな光る球に目を奪われたが、瞬時に大きなウォーターボールの違和感を感じ再度、目をやった。
「中に人が入ってる……!?」
そう認識した瞬間、俺はそのウォーターボールに近づこうとしたが、恐ろしい気配を感じその場で止まってしまった。
「おや……ちゃんと気づいたのかい。それ以上近づいたら死んでいたということにのう」
大きな光の球の陰から一人の老人とエメラルド色の鎧をまとった男が現れた。鎧の男は腰の刀のような物を二本携えている。そして、老人の方は俺に知っている顔だ……
「大天使……!」
「お主がここに現れるとはのう、フィアン君」
その姿を目にした瞬間身震いが止まらなかった。武者震いでも何でもない……これは恐怖によるものだ。
まったく底が見えない……俺はその時、以前ウォレックさんが言っていた言葉を思い出していた。
力が圧倒的すぎると、逆に力量を見ることができないという事を……。
「お主にはかなり期待しておったんじゃがな。大変残念な事じゃ。まさか天族を裏切って、悪しき堕天使の味方をするとは」
「悪しき……? なら、盗賊を雇って国を襲わせたり、俺の故郷で快楽殺人を行う天族が正義って言うのかよ!!」
「何を言っておるのじゃ? 盗賊を雇う……? 賊が何を言ったのか知らぬが、そんな賊の妄言を信じるのかお主は」
「だが、そいつは天族だったぞ!」
「ふむ……翼を堕とされずに逃げた天族じゃろうな。フィアン、お主と同じじゃよ」
「ちっ……戯言を……どっちにしろ、俺達の村を襲って母をさらったのは天族って事実は変わらねえ! 全部返してもらうぞ! 大天使!!」
いつの間にか震えは消え、恐怖は消え、怒りの感情が勝っていた。
「聞き分けのない子じゃ。ウェイズよ、こやつの対応は任せたぞ。出来れば殺さずにあの牢獄に閉じ込めよ。わしは他の様子を見てくるからのう。ガイアが一番厄介じゃ、わしが止めねばならぬ」
「はっ!」
「おい! 何処に行くんだ!!」
俺は背を向けた大天使に飛び掛かろうとしたが……。
~~疾風・暴乱陣
自身の前方に鋭利な風の竜巻を複数個生成する。
「ぐっ! くそ……!」
「大天使様の方へは行かせないよ。フィアン君」
突如、俺の目の前に突風が吹き荒れ、足を止められてしまった。
再度、大天使の方を見た時には姿はもう見えなかった。
「……ちっ!」
「子供を倒すのは非常に心苦しいが……命令なんだ。すまないね」
「なんだよお前……邪魔するなら容赦はしねえぞ……!」
「私は五光星の一人、風の剣星ウェイズだ」
「お前が……五光星……!」
男は一本の剣を構え名を名乗った。
いきなり五光星とはな……どちらにしろ、この部屋が当たりで間違いない。あのウォーターボールのような牢獄には捕らえられた母親がきっと居るはずだ! こいつを倒してすぐに救ってやる!
――――
――
フィアンの予想は的中していた。転送時にそれぞれ別の所へ飛ぶように設定されていたのだ。
フィアン、ガイア、ヴィス、アリシアは別々の場所へと飛ばされていたのだ。
――転送直後 ガイア
「ふむ……ここは何処だ」
その場所は非常に広く、天上は高い……地面はフラットで非常に動きやすいような構造になっていたが、地面の摩擦が弱いのか少し足元が滑る。
まるで、ワックスできれいに磨かれた床のようである。
「げ……何でガイアが来る訳? 一番強い奴はここに来ないって言ってたじゃん!」
「……やるしかないわ」
「ほう。吾輩の事を知っているのか! お主らは誰だ? 邪魔をしないのであれば見逃してやろう」
「……ちっ調子に乗りやがって、むかつく……あたしは土の魔星レア」
「水の魔星アイレインよ」
「五光星の名において反逆者である堕天使ガイアに断罪を……」
「がっはっは! つまり吾輩の相手はお前ら女二人か? すまないが、邪魔をするのであれば潰させてもらうぞ……?」
――同刻 アリシア
「誰もいない……」
薄暗く小さな部屋にアリシアはただ一人現れた。敵やシャドウの気配、フィアンたちの気配も一切しない。
その時、アリシアはレッドに言われたことを思い出していた。
「転送時に万が一誰もいなければそのままその場所で待機するように。わかっているね?」
「……危険はなさそうだし進んじゃおう☆」
アリシアはレッドに言われた言葉を頭の隅に置き、目の前の扉へと手をかけた……
――更に同刻 ヴィスターン
その場所は大きく太いローマ式のような柱が何本も立っており、その奥には一人の男が立っていた。
「……これも運命なのだろうか……」
「は……! それは僕もひしひしと感じている所だよ……!」
「更に強くなったようだな。ヴィスターンよ」
「ヴィンティス! 僕はお前を殺し、妹を救うため今日まで生きてきた。悲願の時が来たようだよ!!」
「口は減らないようだな……もう一度地に堕としてやろう」
・・・
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転送先に待ち構えていた五光星……それぞれ対峙し、戦闘は避けることは出来ないようだ。