200話 5年後
――約5年後
――地下ダンジョン49階
この場所に白基調のロングコート羽織り、白く光り輝く剣を装備した少年と漆黒の鎧を纏い、黒く光る剣を装備した少年がいた。
「ヴィス! 右側を削いでくれ。俺が左側を処理する」
「僕に指図するな! だがそれが最善だ。とりあえずはそれで行ってやろう!」
「ヴィス、いつまでその返事なんだよ。一々言うの面倒じゃね……?」
「うるさい! しくじるんじゃないぞ? フィアン!」
「ああ……! 分かってる……って!」
――ザンッ
「グォォォオアアア……」
「よし、これで終わりだ……ん……!」
――我の声に耳を傾けよ。
「きた……」
>>新たな剣技[天装・墜光刃]
「いくぞ……!」
俺は剣を上に掲げ闘気を溜めた。複数の闘気剣がフィアンの掲げる剣から出現し、光り輝いている。
「天装・墜光刃!!」
そのまま剣を振り下ろし、無数の輝く闘気剣がシャドウキメラを貫き、消滅させた。
「グアアアアアァァァ……」
~~シュゥゥゥゥ
「今の剣技……閃いたんだね」
「ああ……久しぶりにあの声を聞いた気がするな……」
修行の際は、天衣を纏いながら戦うのが基本となった。天衣で戦い続けていると、たまに天衣の名を教えてくれた時の声が聞こえる。
その瞬間、頭が冴え渡り新たな剣技を閃くようになったのだ。
といってもその剣技の数は少ない……前触れも無く突然聞こえるもんだから、理由も一切分からない……。
その分、全ての技の威力は本当に凄いと自負している。
どうやらこれが[天級剣技光ノ型]と呼ばれるものだそうだ。
[天級剣技闇ノ型]を使いこなすヴィスターン、[天級剣技火ノ型]を使うレッド……そして[天級拳技土ノ型]のガイア……まぁガイアはオリジナルで天衣の声で会得したのかよく分からないけど……。
とにかく、この5年間でこいつらは本当に強くて頼もしい奴らだと再認識した。5年か……長いようで一瞬だったな。これも天族になって寿命が伸びたせいだろうか……。
「さて、今日は帰るぞ。フィアン」
「む、少し早くないか?」
「い……いいから言う事を聞くんだ! まったく……」
「お、おい。まだまだ行けるぞ? 俺は!」
ヴィスターンは俺の発言を無視して帰路についた。
――地下ダンジョン40階
「おい、開けてくれフィアン」
「お……ああ」
40階にはジャック博士が新たに作った転送ゲートがある。
転送と言うか……イメージはエレベーターに近いらしい。故に上下移動は出来るが、横移動は出来ないそうだ。
「てかヴィスもデバシー持ってるだろ? そっちでも開錠できるだろう?」
「うるさい! こんな訳の分からない物は僕には合わないんだよ!」
「おお……そうか……」
(機械音痴なんだな……ヴィス……)
・・・
・・
・
「ふう、やっぱ外の空気の方がうめえな!」
地上の日の光はやはり気持ちがいい。地下ダンジョンに潜り続けていると、薄暗さでどうかしてしまいそうだしな……。
「やはり……30階以降、シャドウの出す魂片の量が著しく減少して行っているようだね」
「え……? そうなのか?」
「先程のシャドウキメラランク23……濃い黄色を12個落としただけだったよ」
「まじかよ、割に合わないにも程があるだろ……」
「それに、ランクが上がれど知性の欠片もない……魂片が少ない事が関係あるのかもしれないね」
「まぁとにかくその辺も全て報告しようぜ」
「ふん……僕もそれを思っていた所だ。さて戻るよフィアン」
「おう」
そうして俺達はいつものアジトへと戻っていった。
妙に急いでるのはなんでだろうな……?
・・・
・・
・
「フィアン戻りましたー」
――ポンッ、ブシャアアア
「ちょ! ええええなにこれ!」
「成人祝いだ! おめでとう……フィアン!」
「あ……」
そういえば俺……今日で16歳か……
「がっはっは! ヒト族は16歳で立派な大人なんだろう! つまり……エールが飲めるって事だな!」
「まぁ……天族にはそういう規則は一切無いけどね……僕は5歳から飲んでいたよ」
「え……? 16歳で飲めるのか! てか……今かけたのって……」
「エールに決まっておるだろう!」
「な! コートが酒臭くなっちまうだろ!」
「がっはっは! ならば脱げ!」
「ちょ……脱がそうとすんなって! おい……ガイアもう仕上がってるじゃねーか……」
俺達のリーダーであるガイア、逞しい筋肉の持ち主であり身長体格がかなり大きい。彼は武器を持たずその拳だけで闘ってきた。
特に触れた物を全てを無効化にしながら対象を粉砕する「魔装・剛拳無頼」はあれから一度も破る事は出来ていない。ただ、1度ぶっ放すと、拳から肩に掛けて骨がバラバラになり、治るまでは腕が使えなくなる諸刃の技ではあるそうだが……。
豪快な奴だが、頭は多分凄く良い。頼りになる男だ。
「きゃはは☆ もう待ちきれなくって!」
「アリシア! お前も俺を祝ってくれるのか!」
「え? お酒を飲みにきただけだよ☆」
「ですよねー……」
アリシアは闇の召喚魔法という非常にユニークな魔法を使用する女の子だ。実年齢は分からないが……とにかく楽しければ何でも良いみたいだが、アリシアにとっての楽しい事がグロテスクでついていけない……。ガイアがシャドウの腕をもいでるのを見て大爆笑してたしな……。
召喚魔法は天衣同士の戦闘では使いにくいが、移動能力に優れている。自身で召喚したシャドウをその場に配置しておく必要はあるが、シャドウと自身の場所を入れ替える魔法、[サモン:スイッチゲート]は状況を大きく変える事ができる魔法だろう。
彼女もまた色々あって堕天使になったらしい。その際に召喚魔法を発現したらしいが……。天族への恨みは半端の無い物だ。機会があれば話を聞いてみたい所だな……。
翼を片方取られると、自身の力は減少するが、その代わりにユニークな魔法等を覚える事があるみたいだ。俺も片翼をとったらユニーク魔法みたいなのを覚える事ができるのだろうか……。
「まったく……僕はあれ程待っておけと言ったのに……」
ヴィスターン……正直、こいつのお陰で俺はここまで強くなれた。闇と光の違いはあるが、剣術の型が非常に似ていたのだ。ヴィスも最初は柔型をメインに使用していて、後に属性付与剣術、天級剣技とシフトしていったそうだ。
属性付与剣技を精霊の力無しに使っていたなんてとんでもない力を持っている。堕天使になる前であれば、更に強かったのだろうか……。
こちら側に来る前は何度も殺され掛けたが、あの話を聞いてから怒りが醒めちまったよ……結果的に今は感謝している……かな。
「まぁいいじゃないか! フィアン君、どうぞこちらへ掛けたまえ」
レッドに言われた席にとりあえずつく事にした。机には美味そうな料理が沢山並んでいてすごく目移りする。
「どうだい! 私が作った料理たちは!」
レッドは俺が一度殺した男だ。何かと謎が多い奴で、大精霊と契約してるなんてビックリしたものだ……。
堕天使達の中では一応一番付き合いが長い。学生の頃から奴は変わっていないな。
「え……レッドが作ったのか? 凄い美味そうだけど……大丈夫なんだよな……?」
「あはは。フィアン君は何の心配をしているのかね? 大丈夫さ。何も入れていない! 今回は」
「今回は!? おいそれって……」
「こらー! ルーネを置いて何楽しそうな事を始めてるんですかっ!」
「ル……ルーネ!! やっと帰ってきたのか! 会いたかったぞ!」
ルーネ……俺が契約している光の精霊だ。
4年前ほどに、自身の力を高める為に精霊界にて修行に帰るとそのまま行ってしまったきり、一度も会えていなかった。
抱きしめた時に更に魔力が高まっている感じがした。きっと修行は上手く行ったのだろう。
「じゃぁ、皆揃った所で改めて乾杯しようじゃねーか!」
「かんぱーい!」
誕生日会と言うより、宴会みたいな感じだったが、久しぶりに凄く楽しめた。
この世界に来てから始めての酒……めちゃくちゃ美味かった。
……この場に、ネビアが居たらもっと楽しかったんだろうな。
・・・
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