199話 これからの事
「最愛の姉は奪われ……父親にも裏切られた挙句、堕天させられてしまったのだよ……。まぁ不幸中の幸いと言っていいものか分からないが、光属性から闇属性に翼が変わったことで、自身の闇属性の攻撃がより強力にはなったみたいだがね……」
「うう……がわいぞずぎますう……」
「……胸糞悪い話だ」
ルーネもこの話を真剣に聞いていて、顔が涙でぐちゃぐちゃになっている。
俺は、この話を聞いてただ天族への憎しみが増していった。
「おい、レッド! 何勝手に僕の話をしているんだよ……!」
「おや……ヴィスターン……聞かれてしまったのだね」
「聞かれてしまったのだね……じゃないよ……? もう一度死なないと分からないのかな?」
「ヴィス! 必ず姉さんを取り戻そうぜ!!」
俺は感極まりヴィスの手を取った。
「は……? いきなり馴れ馴れしいな。フィアン……君も死にたいのかい?」
「何言ってんだよ! 死ぬときは全てを終わらせてからだ」
「ふん、といっても君は今のままじゃただのゴミだよ。時間はまだある……しっかりと特訓する事だな」
「これからしっかりと天衣を使いこなすようになってやるよ!」
「ふふ、二人とも仲が良くて羨ましい限りだよ」
「レッド……お前はやっぱり僕に一度斬られた方がいいね……」
「とにかく! ヴィス! お前の話を聞けて良かったよ! 有難うな。話してくれて……」
俺は再度ヴィスターンに向かって言い放った。
「まぁ……構わないよ。もう100年くらい前の話だからね。と言うより、僕が話したみたいになってるけど、勝手に過去をばらされただけだからね……? 話す気などなかったんだけどね?」
「じゃぁ俺疲れたから一回休むわ。レッド明日も宜しくな!」
「ああ。しっかりと休むがいい。君の寝室はここを真っ直ぐに行ったところにある」
「おい! 話はまだ終わってないぞ!」
ヴィスが何かを言っているが、今日はもう疲れた……。明日に備えてしっかりと休むとするか。
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「とにかく、昨日の話で何となく5年くらいは大丈夫って理由は分かった。完璧に安全とは言い難いが……」
「流石フィアン君だ。飲み込みが早くて助かるよ」
寝るときに自分なりに情報を整理した。
聖母になると、牢屋の様な所で最低5年間は入れられ、その後意識がうつろになる。
まぁその5年間は絶対大丈夫って感じはしないが、汚されてしまう事はないのだろう……。
「出来れば早く助けには……やっぱり行きたいけどね」
「私も出来ればそうしたいのだが……やはり準備に5年……6年ほどはかかってしまうのだよ」
「その通りだ! 本来ならもうすぐ計画を実行する所だったんだがな!」
「あ……ガイア!」
ガイアは俺達の前に突然現れ、説明を始めた。
「フィアンよ……我輩達の作戦にはな、レッドとレッドと契約している大精霊の力が必須なのだ」
「大精霊の力……」
「そうだ。小僧も少しは聞いた事があるだろう。精霊界という存在を」
「ああ……ルーネから少し聞いた事があるよ」
「精霊界は別の次元にあるといってもいい。そして、精霊界とこの世界を繋ぐ出入り口は、場所を問わずにかなり自由に生成できるのだ」
「えっと……どういうことだ……?」
「まぁ例えば、ここから精霊界に入り、精霊界から出る時に、別の場所から出る事ができる。最早転送といってもいい」
「すごい……でも精霊界には俺らは入れないだろう?」
「普通ならな! だが、そこで大精霊の力をお借りする! 大精霊の力で一瞬だけ精霊界を経由し、他の場所に出る事ができるのだ!」
「ええ!! めちゃくちゃ凄いじゃないか!」
「ああ……だが、うっかり私が誰かに殺されてしまってね。大精霊の力を全て使ってしまったのだよ。再び力を使うには最低5年は力を溜めねばならぬのだよ」
「あ、あはは……」
「フィアン君。私の初めて(の死亡)を奪った責任……取ってもらうしかない!」
「なんだその言い方……すっげえ嫌な感じなんだけど……」
レッドは背中から腕を回してきたが、俺も結果的に少し責任を感じている……振り払いにくい気分だな全く……。
「レッドさん……フィアンさんにべたべた近づかないで下さいっ!」
ルーネがまたレッドを押し退けてくれた。ありがとうルーネ!!
「ちっ小娘め。私の邪魔ばかりするのはやめたまえ……」
「やめませんっ! フィアンさんの身に危険が及んだら、守るのもまた精霊の役目ですからねっ!」
「ふむ……いつ危険が及んだのか……理解に苦しむね……」
「とりあえずレッド! 後ろに回りこんで何度もくっつくな! 恐怖を感じるっての……それより、ガイア! 続きを教えて欲しい!」
「今ので概ね話は終わりだ! とにかく準備に5年以上は必要なのだ。小僧はその間にしっかりと鍛錬に励め! 作戦決行の日、今の様な雑魚なら小僧に用はない!」
「5年だろ……? やってやるよ。ここに居る誰よりも強くなってやる……!」
「流石フィアン君だ! 言う事が大きい……!」
「がっはっは! その意気だ小僧! 我輩達の修行は辛く苦しいが出し惜しみはせぬぞ……?」
「望む所だ……!」
猶予は約5年間だ。今はただ、自身の力をつける事に集中しよう。
こいつらと一緒に修行できるなら俺はもっと高見に行けるはずだ……。
「まずはヴィスターン! フィアンを見てやれい」
「はぁ……しょうがないな……フィアン、僕との修行で死んでも責任は取らないからね」
「その位きつい方が丁度良いよ。集中してやれる……」
その日から俺の修行が始まった。
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