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(完結済)異世界に転生したら俺が二人になってた。  作者: 鳩夜(HATOYA)
第1章 幼少期編

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2話 平和な日々

 意識がおぼろげに戻ってきた時、また見慣れない天井が見えた。

 天井の高さはそこそこだが、最初に見た大理石のようなものではなく、古民家っぽい木造の建物だった。

 ふと寝返ると、横にはネビアがいて、こちらをぼーっと見ていた。

 ベッドの隣にある木でできた丸テーブルの前でティタがうとうとしており、その向かい側に座るゼブは本を読んでいた。

 とりあえず、みんな無事だったんだな、良かった……。

 安心したせいか、また眠くなったのでそのまま寝る事にした。


・・・

・・


 この夢? を見始めてから、気がつけば一年が経っていた。

 一歳になった俺とネビアは普通に歩くし、余裕で話す事も出来た。とは言っても、声帯がしっかり出来上がってないのか、出しにくい発音などもある。

 本当は6ヶ月の頃にはすでに話せたが、余りにも早すぎると両親を驚かせると思ったので、一歳になるまでに、少しずつ話せるようになったかのように装った。一歳でも十分早いとは思うが……。

 父親のゼブは、日中は仕事なのかほとんど家にはいないようだ。帰ってきても常に、紙に書いた魔方陣を眺めて考え込んでいた。時折、気分転換なのか俺とネビアの相手をしてくれていた。

 母親のティタは、家事や庭の畑の手入れをしたり、剣の素振りをしたりと、実に平和な日々だった。

 生後二ヶ月で起こった事件など、まるで無かったかのように。


 この辺で俺はある可能性について、考えるようになった。

 そう! これは夢では無く、現実ではないかという事だ。

 しかしこれを現実だと認めてしまえば、もし元の世界に戻ったとき、死ぬ程の絶望感に襲われると思い、この幸せな時間は夢なんだ! 起きたら仕事だと、言い聞かせてきた。

 ……でも、気が付けば一年だ。

 そんな事を思いながら昼食を待っていると、ネビアがおもむろに自分のほっぺを思い切りつねり出したのだ。


「ちょ、ネビア! 何やってるんだ。 どうしたんだよ!」

「いや、ほっぺをつねったら痛いのかなって……」


 あほなの! 痛いに決まってるのに!

 そう思いながら、俺も自分のほっぺをつねりながら、


「ほら! やる前からわかってたけど、これは痛いって!」


 ……あれ?

 確かに痛い。俺は無意識につねる強さを上げた。すっげえ痛い……。この痛みは本物だ、絶対に。

 何だこのベタな気づき方は……。

 この世界は夢じゃなく現実なんだ。そう確信した瞬間、この景色が今まで以上に光り輝き、生まれ変わったような気分で満ち溢れた。今まで、死んでいたんじゃないかって思うくらいにだ。


 すると、光に包まれたまま意識が他の所へ飛んでいくような感覚に陥った。気のせいではなく、まじで光っていたようだ。


「やっとこの世界に生きてると認識しましたね。ここで生きていると偽りなく確信し、認識するまで1年……こんなに遅く気づく方は初めてですよ」


 どうなっているんだ? 目の前に居る、母を凌ぐ絶世の美女は一体だれなんだ! これは、女神としか言いようが無い……! そんな風貌だった。


「あの、あなたは一体?」


 女神は少し驚きを見せた。


「そうね、1歳だから話せてもおかしくないですね。語りかけられたのは久しぶりですね……」


 女神はそういうと少し嬉しそうに、


「私はこの世に生を受けたもの全てに試練を与えるものです……。本来ならば生を受けた瞬間に、試練を伝えるのですが、あなた達はこちらでしっかりと存在の確認ができませんでした。ですので、来るのが遅れてしまったわけです。詳しい原因は分かりません」

「生まれた瞬間に試練……達成できなければどうなるの?」

「達成できなくとも何かあるわけではありません。むしろ、達成できる者の方が圧倒的に少ないですね……」

「そうなのね……」


 そりゃそうか。よくよく考えたら生まれた瞬間に何か言われて、覚えている奴がいるか?

 俺なんて、幼稚園や小学校低学年くらいの記憶すら怪しいというのに。

 達成どころかそんな試練の事など一切覚えてなくて、普通に生きていくだろうな。


「ちなみに達成すればどうなるのでしょうか?」

「それは達成した時のお楽しみですね」


 女神はそっと微笑みながら答えてくれた。


「では、貴方に最初の試練を与えます。双子兄弟、ネビアと切磋琢磨し、魔法と剣を覚え、村の外れにある森の洞窟ダンジョン最奥の[シャドウナイト]を討伐すること。期限は5歳までに。達成できれば、また私に会う事になるでしょう……」


 そこで女神は光に包まれて消え、場面は暗転した。


 ほっぺをつねりながらはっと我に帰ると目の前でネビアが涙を流していた。さっきのはなんだったんだろうかと思いながらも、

 俺も、終わりの見えない借金と仕事に追われなくていいんだと、肩の荷が降りたような感覚と、安堵感に溢れ、自然に涙が溢れてきた。


 そんな異様な光景の中、ティタが昼食を持ってきた。


「ちょっと二人とも何やってるのよ!!」

「ほっぺをつねったら痛かったの!」


 俺とネビアは声を揃えて答えた。


「あったりまえじゃないそんなの! そんなに赤くして……私はヒーリング出来ないから、ちょっと待ってなさい!」


 ゼブの書斎のような所にあわてて迎い、魔方陣を描いた紙を三、四枚持ってきた。


「このくらいなら、これですぐ治るわよね……」


 ほっぺの近くで紙は光って消滅し、空中に魔方陣が出てきた。その魔方陣がゆっくりと回ると、真っ赤に腫れ、内出血したほっぺはすぐに治癒された。


「母さん。さっきの消えた紙とこの模様は何なの?」

「まぁ、この紙が気になるの? これは触媒紙といって、ここにさっきの模様……魔方陣って言うんだけどね、魔方陣に描かれた効果が触媒紙を通して発動するのよ! この触媒紙と、魔方陣を触媒紙に描いて魔法を発動するってのはゼブ……お父さんが考えて作ったのよ! 凄いでしょ!」


 母さんが何故かどや顔で説明をしていた。にしてもこれを開発したってゼブめっちゃ凄いんじゃ……! ゼブもちゃんと父さんと呼ぶ事にしよう……。


「えっと、魔法って何でしょうか?」


 ネビアが続けて質問をしていた。一歳のくせに敬語を使うし、何となく知的な奴だ……。


「あ、魔法と言うのはね……」


 そんな質疑応答が昼食中ずーっと続いた、母さんは少し疲れた様子だった。子供の質問攻め、しかも二人からあった訳だから当然か。


 ここが現実だって言うのを確信した後は、俺はとにかくこの世界の事が知りたくなった。誰かに答えを任せ、考えることを辞めてしまった自分とは決別したいのだ。自分で考えて行動する為には、知識は大きな武器になると思ったからだ。

 そしてこの世界では何でもいい。自分で考えて何かを成し遂げたい。

 そんな具体的な内容も無い目標だが、それを探しながら今できることをやっていこうと考えたのだ。


 だが、さっきの女神の話もすごく気になる。結局あれに従うということはいきなり考えて行動という任務の放棄じゃないのか?


 でも、達成した時に何が起こるのか……すごく気になる。

 この世界は魔法とか剣とかの世界のようだし、それは勉強したいと思っていた所だ。

 一旦はあの試練の通り、やってみるのも悪くないな。

 シャドウナイトとかまったく知らないものが出てきたけどね。


 切磋琢磨か、ネビアが付き合ってくれるといいんだけど……。


 また、質問攻めにしたティタの話をまとめると……


 魔法は本来触媒に描かれているような魔方陣をライトペイントという魔法で空中等に描き、さらにそれに魔力を込めることで発動する事象の事を指すようだ。

 ライトペイントは、この世界に住む殆どの者ができる魔術で、指先に魔力をためる事で指先が発光し空中に光で線などがかけるようだ。実際に母さんも使用しており、ライトペイントで猫なのか犬なのか分からない動物の絵を描いてくれた。もちろん使いすぎると魔力切れを起こして疲れてしまう。


 書いた絵は結構な持続力があるが、術者が離れたり払ったりすると消えてしまう。

 しかし! ライトペイントで触媒紙に魔方陣を描いた場合、描いた魔方陣は触媒紙に留まり、消えることが無い。


 魔方陣を書いた触媒紙に対して、魔力を少しだけ込める。すると触媒紙に含まれる魔力と描かれている魔方陣が呼応し、魔法を発動できるそうだ。

 例えば、魔力を10使用する魔法を魔方陣触媒紙から発動することで、1の魔力をトリガーとし、発動できるのだ。

 但し、威力は触媒紙の魔力純度によって大きく変わるそうだ。


 触媒紙は広く世界に浸透しており、ちょっとした火を起こす時や、水を生成、小さな風を発生させて洗濯物を速く乾かす等々……。

 照明の光も触媒紙で行っているようだ。


 触媒紙の普及で魔力の弱い人などの生活も、一気にクオリティが上がったのは間違いない。


 魔法と触媒紙の事を聞けば聞くほど、父さん……凄すぎる! そんな便利な道具を作っただなんて!

 まさに自分の力で何か大きな事を成した立派な大人だ。

 前世で言うスマホを普及させたジョ○ズのような人だろうか。にしてもそんな物を作ったのなら、ものすごくお金持ちとかになってても良いような。

 ……良く考えたら、ここに来る前はすごくよさそうな家だったよな。

 今のこの生活になってしまったのは俺らのせいなんだろうな……。

 少し申し訳ない気分だな……。


 俺はまず、ライトペイントという魔法を早々に使えるようになろうと考えた。


 この頃から、母親も俺らにあまりにも手が掛からない為、父親とともに仕事に出ることが増えた。

 家の中で、俺とネビアだけになった時、修行の開始だ。


 しかし……。


「ぐぬぬ、指先に魔力ためるってどうするんだよ……」


 なんとなく熱くなるような感覚はあるが、母親のように発光しない……。かれこれ修行を始めてから2週間は経っている。


 それを見ていたネビアも寄ってきて、一緒に同じ事をし始めた。

 その瞬間……。


「あ、出来ました……」


 なんだってえええ! 今軽くやってみただけじゃないの!

 天才かこいつは!

 生前の負けず嫌いな俺は意地でもコツとか聞かずに一人でやっていただろう……。

 でもそんな効率の悪いことはしない。試練をクリアする為に。


「ネビア、どんな感覚でやったの……?」

「えっとですね、指先に熱くなる感覚はありましたか?」

「うん、あったあった! でもそれだけだ……」

「口で言うのが難しいんですが、その熱くなってるところと、大気にある空気? を混ぜるようなイメージで……」


 そんな助言を受けつつ3日後……俺もついに指先が光るようになった! ライトペイントの習得だ!


「ネビア、出来たよ! ありがとう!」

「よかったですね。フィアン!」

「にしてもネビアはすごいな……やった瞬間できるようになるなんて……」

「すいません。実はあの時、その場で出来たのではなくて、1週間程前には出来るようになってました……」


 なんだってえええ!(2回目)

 いやでもすごいな、1週間程で出来るようになったのか。その才能が羨ましいぜ全く……。


 それから1年間……ひたすらにライトペイントを極めながら、

 家にあった本「世界3大言語生物言語編」で言語の勉強もすることにした。


 本当は一緒に置いてあった[魔法教本水・火編]を読みたかったのだが、文字がまだあまり分からないからどうしようもなかった。


 本は両親が居る間でも気にせず読むことが出来た。


「勉強の本をそんな真剣にずっと……よく読めるわね」

「挿絵とかあるし、なんとなく見てるだけじゃないか? いいじゃないか本に触れるのはいい事だよ。ティタも剣の修行ばかりではなくて一緒に見たらどうだい?」


 そんな会話をしながら、微笑ましい顔で俺らを見ていた。


 たしかに、この本は言葉の上に挿絵があったりして、理解がしやすいものであった。

 そして言語についても少し分かった。

 今話しているこの言葉は[生物言語]と呼ばれており、殆どがこの言葉で話しているそうだ。

 他には、[魔道古語]と[武道古語]という言語が存在し、

 これは古語といわれている通り、使われている場所はほぼ無い。


 この本には生物言語と触り程度に魔道古語が記載されていた。


 こうして生物言語と魔道古語を少しだけ覚えることが出来た。

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