194話 天衣と聖母
場は真剣な空気で張り詰めた。聖母って一体何なんだ……。
「ところでフィアン君……君は何歳だったかな?」
「え? 10歳だけど……」
「……」
レッドは何故か黙り、考え込んでしまった。
「よし、先に天衣の事について話をしよう!」
「なんで!? 先に聖母の事を教えてよ!」
「いや、後で必ず教えるが長くなってしまいそうだからな……天衣の事はある程度聞いている事もあるだろう? 先に話す方が合理的だと思ってね」
「なるほど……ならいいよ!」
「話が早くて助かるよフィアン君。とりあえずざっと話していこう」
~天衣とは~
天衣は特異種と通常種がある。通常種から特異種に突如変わる者も居る。
通常種:天力が備わり、身体的能力が大幅に上昇する
特異種:天力が備わり、身体的能力が上昇し自身の一番得意な属性効果も付き、その属性の天級以上の技を使う事ができる。
「この辺は知っているかもしれないが……」
「うん! 聞いた事があるよ!」
「そうか……では続きだ」
天衣を纏うと、翼を通して急速に自身に天力が生成される。
天衣を纏っていなくてもある程度は溜める事ができるが、時間がかかり、実践ではまず使うことが出来ない。
一度溜めた天力は、天衣を解除しても体内に留まったままであり、天力を使用することが出来るが、天衣状態より魔力や闘気に天力を混ぜるのに時間を要する。
故に高度な技等を行う際は天衣を纏ってないと発動が遅い。
「まぁこんな所だろうか……。感覚的なところは、やはり実践で覚えるしかない」
「一度溜めたらなくなるまで天衣不要で使えるのは知らなかったな……」
「天衣をずっと纏っているともちろん強いが、消耗が激しいのだよ。だからそういう使用方法もしっかりと覚えるがいい」
「うん! 分かったよ! んじゃあ次に聖母の事を教えてくれよ!」
「ああ……その前にだが、フィアン君……君はどうやって子供が出来るか知っているかい?」
「……え?」
なんだいきなりこの質問は……どういう意図があるんだあるんだろうか……。もちろん知ってはいるが10歳位で知っているものなのか……?
前の世界なら情報は手に入っただろうがこの世界だとどうなんだ……!? くそっ……いきなり高度な心理戦か……!
「えーっと、分からないよ……ルーネは知ってる?」
「はっ!? いきなりそんな話をルーネに振るんですかっ!」
ルーネは顔を真っ赤にしている。まぁ知っているって事だろうな!
「というか、フィアンさん絶対知ってるでしょうっ! フィアンさんの……お父さんとお母さんが……その……」
「あ……」
そういえば両親の営みを見てしまった時にそんな話をしていたな……忘れてた。
「どうなんだい? フィアン君」
「うん。知ってるよ……!」
「そうか、それはよかった。これで話がしやすいと言うものだ」
「お……おう……?」
正直この話が聖母の話に繋がっているのかが不明だ。むしろ、繋がっていて欲しくないような気もするんだけどね……。
「では、その辺の知識はあるものとして話そう。知る範囲でしか伝えられないがね」
「よろしく頼む!」
「よかろう。まず、私の様なエルフ族やフィアン君の様なヒト族、子を成す時は性交渉を行うが、天族は違うのだよ。君も少しは知っているかもしれないが、天族になると性欲が極端に減ってしまってね……性交渉をする気にもならない上に、基本的に天族の女性は性交渉を行ったとしても、子を成す事ができないのだよ」
「ほう……」
「ならどうやって天族は繁栄するのか? ……私も全貌は知らなかったが、天上要塞の高位天族が住まう上層と中層の間に、神聖な泉と滝が流れている場所があるらしいのだ」
レッドはそのまま真剣な顔で続けた。
「その滝から突然、純天族の子供が流れ落ちてくるのだよ」
「は……?」
「そして、泉に落ちた子供達は中層に住まう天族に育てられ、すくすくと育っていく。そうして天族は辛うじて数を減らさずに生きているというのが一般的な天族が知る情報だ」
「滝から子供が流れてくるって……絶対におかしいじゃないか……!」
「その通りだ。物事には必ず裏があってね……。その現象に対して、聖母が大きく関わっているのだよ……」
俺は思わず息を呑んだ。
「ふむ……何処から話せばいいのか……。まず、聖母の事先に説明しておこう……」
聖母とは……
天族は基本的に欲情する事が無くなり、子供を作る事が出来ない。
しかし稀に聖母といわれる者に覚醒する女性の天族が居る。
その聖母だけは天族の子供を作る事ができるようになる。
「聖母だけは子供を作れる……」
「その通りだ。この情報は一部の高位天族以外誰も知らない。ヴィスターンが教えてくれたことなのだよ」
「そんな情報をヴィスターンが……? あいつは一体何者なんだよ……」
レッドは少し迷った顔を見せたが続けて話してくれた。
「ヴィスターンは元高位天族なのだよ」
「高位天族……!? 何で堕天使に……!」
「……少し、昔話をしてあげよう」
レッドは紅茶を自分と俺に注ぎ、話し始めた……。




