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19話 生後2か月での出来事

「さて、どこから話そうか……」


 ゼブは改まった顔をしてこう言った。


「さて! 少し間が開いたけど、授業と行こうか。天族について、ね」


――――

――天族について


 この世界の生物は天啓の試練に全て合格すると、天族に覚醒する。

  身体の構造はすべて改変され、寿命も遥かに伸びる。


――


ティタ:天族

ゼブと共に試練に受かり、天族になる。


ゼブ:元天族(堕天使)

魔法は高貴なるもので選ばれたものが使えるという天族の考えを無視し、魔力の低い者も含め、皆が最低限生活に魔法を使用できるように触媒紙を作成。

それが上位天族の逆鱗に触れ堕天させられてしまう。

しかし、ティタと結婚していたこともあり、触媒紙の研究を辞める事を条件に、なんとか天上要塞で住むのは許してもらった。しかしそれでも、こっそりと触媒紙と魔方陣の研究を続けていた。


――


 ある日ティタが身籠ってしまう。天族になると体の構造が変わるので、子供は生まれることは無いはずなのだが、ティタは身籠ったのだ。

 こっそりと産むことを決意し出産したが、生まれてから目を覚まさず、息はしているが反応が一切ない双子だった。子供たちの命には代えられないと医者を呼ぶことにし、診てもらっていたが、成す術がなかった。

 そんな中、突然目を開けてミルクも飲むようになった。

 その際にも医者を呼んだが、医者は元気になって良かったと、共に喜んでくれた。だが……

 医者は子供が生まれたこと、それが息を吹き返したこと、全てを上位天族に伝えていたのだ。

 噂はすぐに広がり、本来生まれるはずがないのに身籠ったティタは天族じゃない! 偽物だと罵られ、子供も呪われた子だ! 殺せという心のない言葉が飛び交った。

 ゼブにも堕天している癖に天上要塞にいること自体が不快だったんだ。消えろと言われつづけた。

 そもそも、天上要塞内で子供を作る行為は、意味が無く、快楽の為だけのものとして、基本的に禁止とされている。実際男の方は天族になった時点でそういう事をしたいという気持ちが大幅に薄れる為、行為に走る者はごく稀の話だそうだが……。

 そんな事も重なり、ゼブには逮捕状の様なものが出ていたらしい。捕まれば死ぬまで二度と出ることができない、牢獄に監禁されてしまう。

 しかし、逃げようにも天上要塞から下界、人間の住むところに降りるためには定められた場所からしか降りることができない。

 悩んだ結果ゼブはティタと子供と共に、研究していた空間転移の魔方陣の試作品で逃げることを決意、その日の夜に決行しようとした時に警備兵が家に押し入ってきたらしい。俺達が寝かされたのはその辺のタイミングだな。


 そして転移したところは、ヒト族だけが住むところではなく、獣人族やエルフ族等が混在し住んでいる村付近に飛んできた。

 村の空き家でなんとか住まわしてくれないかと懇願したが、そこはシャドウや魔物に日々困った生活をしており、よそ者を受け入れる余裕がないと断られていた。

 そこでゼブは、村の周りに光の結界を円形状に張ることで、村の中まではシャドウ、魔物が入って来ないようにしたのだ。村の人は驚き、とても喜んだ。そのお礼にと空き家を貸してくれることになったのだ。

 その辺で俺たちは魔法の効果が切れて、目を覚ましたようだ。


 一通り話し終えて、ゼブは改めて俺たちを見た。


「こんな大きな事があったのに、隠していてすまない。もう少し君たちが大きくなってから話そうとは思っていたんだ。これだけは信じて欲しい。ずっと隠すつもりはなかったよ」


 ティタは横で少し泣きそうになっていた。


「ごめんね……」


 俺たちはその話を聞いて、顔を見合わせた。


「父さん、つまり僕達は本来産まれるはずの無い天族の母さんから、何故か産まれて来て、天族要塞から追い出されちゃったって事なんですね……。でも、僕達はここでの生活ですごく幸せですし、そんな生きづらそうな所は嫌です。と言うよりむしろ、父さんと母さんがそこから追い出されてしまって、いやな目にあったのが申し訳ないくらいで……」


 するとティタがはっとこちらを見た。


「そんな、二人が謝る事ではないわ! 母さんはこっちに来られて清々してるわ!」

「父さんも今が一番幸せだよ……」

「なら母さんも俺らに謝る必要も無いね! むしろ、大変な目に会いながら俺達を産んでくれてありがとう!」


 ティタは泣きながら俺達を抱きしめた。そういえば生前、両親に対してこんな感謝の言葉を言ったことがあっただろうか……。

 どんな時も欠かさず連絡をくれてたのに、俺は全部返事をすることは無かった。電話をくれたことも何度もあったのに、忙しいから掛けてくるなと、母さんにも当たっていたな。

 ……思い返すと俺は最低だった。


("死ぬ気"を安易に使うのは馬鹿のすることだ。他人にそんな気を使うくらいなら逃げろ。"死ぬ気"を使うのは愛する人に対してだけでいいんだよ)


 何故かふと母さんの言ってた言葉を思い出した。でも俺、結局それを無視する形で頑張りすぎて死んでるし、とことん親不孝者だな……。死ぬ気で守りたい人か。この世界では見つかるだろうか……とりあえずネビアは守りたいけど自分みたいなものだしな!


「さて……親子水入らずの所すまないんじゃが、一旦村のほうへ戻らんか? そろそろ日が落ちてしまうぞ」


 遠目で見ていたアルネさんがさっと近づいてきた。


「そうね! 皆で村に戻りましょう!」


 ティタはすっかり元気を取り戻しているようだ。

 この世界では、何かを成し遂げたいってのもあるけど、焦りすぎての無茶はやめよう。まぁ、試練がそもそも無茶だった気もするが……。あれ、そういえば次の試練の内容を聞いていないぞ……どうなってるんだ。

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