182話 瘴気の山方面へ
「フィアン君とネビア君。先程はすまなかった」
「いえ……こちらこそ申し訳ありませんでした……」
「まぁ面白いものを見せてもらったよ。さすがの実力だな……国一番の強さを誇るフォランをここまで……」
「有難う御座います」
王座に戻ってきてから俺も少し熱くなり過ぎたなと、冷静になってきた今は反省している。最近はこういう事にはすぐに口を出してしまう気がするな。
「えっと、フォランさん」
「……なんだ」
「さっきはごめんなさい。俺、言いすぎたよ……」
「は……? いや……。いきなり謝るのかお前は……」
「フォラン! お主も同罪だぞ? 見た目だけで判断する癖は早く治せ」
「はい。フィアン殿……こちらこそ申し訳なかった」
自分からは言い出さないあたり、頑固な奴だな……。まぁでもそういう人も居るだろう。気にすることは無いな……。
「早速ですが……フォート王。僕達がここへ来たのはシャドウキメラ討伐の為です」
「ああ。分かっているよ。わしも正直、最初は半信半疑だったが、先の戦いを見て実力は十分に理解した。ここで調査した全てをお主達に開示しようと思うぞ」
「有難う御座います。フォート王」
こういうやり取りはネビアがお手の物だな……
「ではフォランよ。我が国で調べた情報を見せてあげなさい。資料室へ案内するんだ」
「はっ! じゃぁ二人とも……こっちだ」
俺達はフォランと共に別の部屋へと向かった。
「ここだ」
連れてこられたのは資料や本でごった返しになった部屋だった。何となくエリリアさんの作戦会議室を思い出させる汚さだ……。
フォランはそのまま一つのロール紙を取り出し、卓上に広げた。そこには大きなイラストと、細かい文字が沢山書かれていた。
「これが最後に目撃されたシャドウキメラの姿を絵にしたものだ」
サイズは4~5m程で手足は二本ずつでトリガーを構えている様子が描かれている。
「色々吸収してる割にはちゃんとした形なんですね……」
「ああ、1ヶ月程前まではもう少し獣の様な姿だった……。これは2週間前、この城から瘴気の山へ行く道で発見された姿……。日々姿が変わってるんだよこいつは」
「なんと……」
「大体夜に突然現れ、現れた場所には何も残らない。結界を貼っていない村と町はほぼ全て消滅してしまったよ……。今やこの国と二つの町しか残っていない」
「一つは俺達が通ってきた鉱山の町の事かな……」
「その通りだ。結界もいつ破られるか分からない。人々はそいつの存在に常におびえている……」
「ランク10……結界位ぶっ壊せそうだけど、今の所は大丈夫なんだな……」
「ああ……正直私もそう思っている。壊せるけど壊していない……シャドウキメラの気まぐれで存命しているだけなのかも知れない……」
「そうか……じゃぁさっさと排除しねーとな……」
「お前ら! ランク10を舐めてないか!? フィアンの強さは分かったが、たった二人でなんとかなる相手じゃない!」
「まぁ……やってみないと分からないさ」
「いや……分かるだろう普通に……!」
「フォランさん大丈夫ですよ。ランク10なら二人で地下ダンジョンで一回倒してます。何とかなりますよ」
「は……!?」
「まぁフォランさんよ! とりあえず俺達に任せとけって! その瘴気の山への道ってのを教えてくれ。とりあえずそっちに行ってみるよ」
「それは……あっちだ」
「おっけー! ありがとうな!」
「まて! これを持っていけ……。地図とシャドウキメラの詳細を書いた資料だ」
「お、こんなのがあったんだね……」
「あと、このブレスレットを持っていくんだ」
「これは……?」
「瘴気の流れを感知するブレスレットだ。明らかに自然現象ではない瘴気の流れに反応して、そのブレスレットに使われているその白い石が真っ黒になる」
「シャドウファントムで近づかれた際に、黒くなるだろう。役には立つ筈だ……」
「ありがとうフォラン」
「無事を祈っているぞ……」
俺達はその場を後にし、瘴気の山へ行く道へと向かった。
「フォラン……最終的にはちゃんと協力してくれたな!」
「まぁこの国を救いたいのはあの人も一緒でしょうし、素直じゃないだけなんですよきっと」
瘴気の山へは微妙に整備された道が続いている。魂片を帯びた鉱石は瘴気の山に近いほど採れるというから、採掘に行く時の道なのだろう。
「にしても……こうやって改めてこの瘴気の山を見ると……こんな昼間でも真っ黒なんだな……」
「ですね。光を完全に吸い込んでる感じですもんね……」
「俺達でも流石にあの真っ黒のとこに行ったら死ぬだろうな……」
そんな会話をしながら道をどんどん進んでいった。
最初は平坦な道が続いていたが、徐々に凸凹の岩場が目立ち始め、整備された道は完全に無くなっていた。
「ここ真っ直ぐでいいのか? 本当に……」
「ですね。マップ的には間違いないです。この辺も採掘痕がありますし、まだまだ奥へは行けるのでしょう」
「なるほど……だんだん暗くなってきたから心配だな……」
「最悪どこかで野宿ですね……。しっかりと隠れられるような所を探さないとですね……」
「ひえー。寝込み襲われたら流石にやばいぞ! 本体が来れば分かるけどトリガーを撃たれたら気がついたころには死……だな」
「とにかく痕跡の場所までは何とか今日中に行きましょう」
そういいながら地図を片手に道なき道を進んでいった。
・・・
辺りはもう真っ暗になっている。