169話 森へ帰る準備
――カンッ……カンッ……
「くそかってえな! 30階のダンジョンストーン!」
「29階と比べて、ここまで差があるとは思いませんでしたね……」
俺達は休憩後、瘴気の晴れた部屋で採掘をしていた。この30階は大きなフロア一つしかなく、他に部屋は無いようだ。
周囲を見渡すと2本だけダンジョンストーンが生えていたので、早速一本目の採掘を始めている所だ。
「まずいな……ピックがもうボロボロだ」
「黒鋼鉄のピックではそもそも掘る事が出来ないのでは……?」
「かもしれないな。闘気も黒鋼鉄が耐えるぎりぎりまでは込めているってのに……。一回思いっきり力を入れていいか?」
「ですね。やっちゃいましょう!」
「よし……。一発だけでいいから耐えてくれよ……!」
俺は黒鋼鉄ピックに限界を越える闘気を吹き込んだ。といっても込めすぎてしまうとその場でバラバラになるのでそのぎりぎり一歩手前を目指す……。
「このくらいか……?」
――ガンッ!!
「おお……!」
ピックはダンジョンストーンの根元にひびを入れることに成功した。が、それと同時にバラバラになってしまったが……。
「あまり意識して無かったですけど……ピックも良い素材にしないとこういう掘れない鉱石が出てくるんですね……」
「そうだな。俺の場合、闘気でピックの威力をかなり上げてるからここまで耐えてくれたけど、一般の人がこれを掘ろうと思うと、ミスリルのピックでも全然無理だろうな……」
「そもそも一般人はこんなとこまで来れないでしょうけど……」
「たしかにそうだな! 帰ったらいいピックを探そうぜ」
「ですね。じゃぁそろそろ帰るとしますか。フィアン、僕の近くまで来て下さい」
「おけ! 抱きついた方がいいか?」
「いや、そこまでは近づかなくていいですよ」
冷静に返答され、そのままロックウォール連打で俺達は29階へ戻り、そのまま地上へと脱出していった。
・・・
・・
・
――自宅
「おお! 二人とも元気じゃったか」
「神冶さん! そっちこそ元気そうで良かった。3ヶ月って言ってたけど4ヶ月になっちゃったよ」
「そのくらいの日程は誤差じゃよ」
「んでさ、あれからどう? 状況は」
「そうじゃな。天族に関しては1ヶ月程前からまったく姿は見えなくなったのう。もう近くに飛んできても大丈夫じゃよ」
「むしろ、トゥーカらへんに飛ぶほうが今は危険かもしれない。そちらに天族の調査兵が移動してるかもしれないからね」
「あ! 父さん! また神冶さんと一緒に居るんですか!」
「今日はそうだね。最近あまり居座るとティタが凄く怒るから、たまーに来させてもらうだけだけどね……。にしても二人とも見違えたね。もうすぐ帰ってくるんだろ?」
画面越しにゼブも出てきた。久しぶりに見る気がするな……。ティタに関してはもうめっきり見ていない。
「うん! 帰るよ! また転送の力を借りてね!」
「またあれを使うんだね……。危ないから出来れば辞めてほしいけどね……」
「いやでも歩きで帰るにしても危ない事には変わりないよ! 道中変な奴らもいるだろうしさ」
「確かにそれはそうだね……!」
「というわけで神冶さん! また触媒紙送ってね!」
「了解じゃよ! とりあえず、わしの方で近くのいい感じの場所へ飛ぶようにしておくぞい」
「わかった! 任せるよ」
そうして一旦コールを終えた。
「ふう……なんかどっと疲れが出てきたな」
「ですね。やっぱこういう落ち着いた時間って必要ですね」
「俺達、ランク10までは倒せるようになったけど……今ラウタさんと戦って勝てるのだろうか……」
「うーん……正直何とも言えないですよね。多分一撃でも当てさえすれば勝てると思います。威力は十分ですからね……。ただ、シャドウは動きはそこまで複雑じゃなかったけど、ラウタさんは天族として多くの戦闘経験があるはずです」
「ふむ……」
「うまくいなされて決定打をぶち込まれ、負けるでしょうね。そもそも天衣持ちですし」
「そうだよな……対シャドウと対天族……全然状況が違うもんな」
「それに属性相性が良くないです。フィアンの技は光属性。天族は光属性の攻撃はよほどの威力ではない限り食らいません。逆に僕の闇属性は苦手みたいですけどね」
「属性の相性もあるんだったな……くそう」
「フィアンさん、光属性のルーネは嫌なんですか……?」
ルーネがうるうるしながら出てきた。
「何を言っているんだ! 俺はルーネが一番だよ! それに天族と本気で戦う事なんてこれから出てこないだろ! シャドウには威力を発揮するんだから、最高だ!」
「本当ですか……?」
「それに……堕天使にもきっと有効だしな……」
「え……? 何か言いました?」
「あ、いや! 属性で有効とか無効とか……そんなの関係無しにルーネが俺にとって一番だなーって思っただけだよ」
「えへへ……なら許しますっ!」
何か知らんけど許されたから良かった……。
「あ、神冶さんから触媒紙届きましたね」
「流石だな……めっちゃ早い!」
「とりあえず昼食を食ったら向かおうか」
「そうですね」
そうして昼食を取り、行く準備を進めた。
ただ、ここで転送するわけにはいかないので、郊外へ移動した。
「さて……忘れ物はないな?」
「準備完了ですね」
「じゃぁ行くぞ!」
「しっかりと魔力込めてくれよ!」
「フィアンも闘気頼みますよ!」
毎回死と隣合せなワープは大変だ。絶対に気を抜かないようにしなければ……。慣れた頃が怖いんだからな……!
・・・
・・
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ド――ン!!
ワープして着いた先はよく二人で修行した森より少しずれた川の近くだった。
「いてて、本当に毎回この着地なんとかならねーかな……」
「ですね……身体は丈夫になってきてるでしょうけど、痛いもんは痛いですからね」
服に付いた砂埃を叩き、俺達は村に寄る前に神冶さんの元へと向かった。
――同刻
――少し離れた森の中
「隊長! 今あちらの方で大きな爆発が……」
「ああ、分かっている。調査するぞ」
隊長と呼ばれる男は立ち上がり、兵士とローブを纏った男二人は、共に爆発のあった場所へと向かった。
「各地で不規則に起こっている謎の大爆発……必ず原因を突き止めるぞ!」
「にしても……爆発の起こった場所のリプレイがうちら天族で見られないなんて相当の威力ですね」
「ああ……とんでもない威力だ。だが、それは周囲に広がらず一定の範囲まで広がった後、中央に収束していることだけは分かっている。とにかく、爆発が起こった場所に記憶媒体を設置しに行くぞ」
「了解でっす。同じ所でまた爆発が起こればいいですけどねー」
・・・
・・
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