15話 脱出
(フィアン)――魔装・一閃!
俺は計4回の[魔装・一閃]を放ち、岩壁の外殻部分を削り取っていった。これだけ闘気を消費して、まったく疲れないもんだから女神の言っていることは間違ってはいないんだろう。
自分で言うのもなんだけど、闘気無限に近いってだいぶ凄いんじゃ!? とにかく、幼少の頃から頑張った甲斐があるってもんだ。幼少の頃と言うけど、まだ幼少だなそういえば。
「よっしゃああ! こんな大穴が開いてりゃ、おばあさん一気に20人は通れるぞ!」
「フィアンさんネビアさんすごいです……。おばあちゃん絶対すごく喜びますっ! いきましょう!」
ルーネとテーネは大喜びしていた。一人は少し喜んでいるかわかりにくいが……。
そのまま皆で頷いたあと、森を抜けて小屋の方までやって来た。
「おばあちゃん! 外に出られるようになったよ!!」
ルーネが急いで報告に小屋に入って行った。
「あんた達! 無事だったのかい! ああ……本当に良かった!!」
「おばあさん! シャドウナイトを倒して、小さな穴のところに大穴をあけた。これで出入り自由だ!」
「おお……まさか50年たった今、ここから出られる日が来ようとはのう……」
「しかし……わしはもう歳を取り過ぎた。ここでのんびり過ごすとするよ……出入り口を作ってくれたのにすまないのう……」
「おばあさん……」
おばあさんは椅子に座りながら微笑んでいた。
「おばあちゃん! 出られるようになったら私たちと冒険するっていったでしょ! いこうよう!」
「私もいきたい……」
「すまないのう、身体がもう思うように動かなくなってきてるんじゃ……」
ルーネとテーネはおばあさんにお願いしているが実際冒険などは厳しいだろう……。
「二人とも! 俺らと一緒に外出るか!?」
「おばあちゃんも一緒じゃないとやだ!!」
一瞬迷った素振りを見せたが、二人は声を揃えて言い放った。
まぁ出会って間もない俺たちより、おばあさんの方がいいよな普通に……。
「おばあさん。最終試練にクリアしたら、どうなるんですか?」
「そうじゃのう。ここまでやれる子たちじゃ……知っていることをすべて伝えてあげよう」
おばあさんはゆっくりと話を始めた。
「我々全ての生物は必ず、試練を受けるんじゃ。そして、試練を全て達成することで天族に覚醒することが出来る。人はせいぜい80~90歳の寿命じゃ。しかし天族に覚醒すると、寿命は遥かに延びるんじゃ。じゃが、天族になると身体の構造が人の時と大きく変わる。女性は子供が産めなくなったり、男性は……その……より達観した感じになるんじゃ」
ふむ……女性は子供を産めなくなるって事は男性は性欲が減って賢者になるんだなきっと。俺みたいな超絶性欲を持っていても賢者になれるんだろうか。それはそれで少し悲しいというか、なかなかのデメリットじゃないか?!
「私もあと一歩で天族じゃったが、思い残すことはないよ。君達に出会えて楽しかった。たまには遊びに来ておくれよ」
「おばあちゃん! 後一歩って何すればよかったの!」
「ルーネとテーネや。お前たちはまだまだ幼いが、いい機会じゃ。今のうちに伝えておくとするよ」
おばあさんはルーネとテーネが精霊だと言う事、覚醒すれば魔法などが一気に使えるようになるが、それまではただの子供と変わらない事、二人を覚醒させるのが試練の内容だった事……。小さな子供に伝えるには難しい話だったと思うが、二人は真剣に聞いていた。
「……覚醒はどうすればいいの」
「そうだよ! 私たちが覚醒すれば合格でしょ!」
そういいながら二人はむむむ、と力を溜めるような動作をしていた。あれで覚醒するつもりなのか……とりあえずめっちゃかわいい。
「それにはつよーい人と契約を結ばないといけないんじゃ。強いだけではだめじゃ、相性も大事なんじゃ……」
「強い人ならここにいるじゃない!」
「二人と契約する……」
「ぼ、僕たちですか……?」
「うん! ほんというとね、初めて会った時、びびっと来ちゃったんです……」
「……私も」
そういうとルーネは俺、テーネはネビアの腕にぎゅっと絡んできた。
「おや……ルーネ、テーネからそんな言葉が聞けるなんてねえ……しかも二人ともお気に入りが綺麗に分かれたもんじゃ」
「皆が良いのであれば、試してみる価値はあるのう」
「是非契約させてください!」
「俺も! 是非させてほしい!」
おばあさんは少し考えた後、目を大きく開け話し始めた。
「じゃあ、二人で強く抱き合うんじゃ!」
「え……?」
少し戸惑っていると、ルーネテーネは俺たちに凄い勢いで抱きついて来た。花の様な甘い良い匂いがする……。
……いかん幼女に抱きつかれて喜ぶなんて変態だ。いやでも、年齢は俺たちよりお姉さんだからセーフ……? 落ち着け、邪念で契約できないかもしれん。そう思った俺は契約という言葉に集中した。
「坊や達、ぎゅーっとしたまま、自分の魔装魂で相手を包み込むんじゃ」
魔装魂を広げるって事だよな。そのまま俺は自分の魔装魂広げ、ルーネをすっぽりと収めた。
「ああ……フィアンさんす、すごいです……」
ルーネは俺の魔装魂にあてられ、身体をぴくぴくさせ、足を崩しそうになっていた、俺はルーネが崩れ落ちないように必死に支えていた。
「つ、次はなにをすればいいんだ!」
おばあさんは更に目を見開き、
「その状態でキスをするんじゃ!!」
なんだって!? 物凄くベタな展開! いやしかし……普通にこの子達が嫌がるだろう! そう思い恐る恐るルーネを見た。すると、うっとりした顔をしながら早くーと言わんばかりに待っていた……。
俺は一つ大人になります。キスをした瞬間俺たちは大きな光に包み込まれた。